第31話 スーパーエリート
図書館から見る窓の外、青い空だった。
風があるので、図書館の窓は全開にしておく。
いい風が入ってきた。
天候はいいのに、気分はすぐれない。
ぼく、スタッビー、キアーナの三人は、ただただ図書館で時間をもてあましていた。
なにかできることもない。
ぼくは一時間に一回、スマホから政府のだれかに電話をかけた。でも、だれもでない。
ドミニクさんの姪っ子も心配だし、あの異星人の兵士も心配だ。
侵略してきた敵を心配するのは、おかしなことだとも思う。でもそれを言えば、あの兵士さんは敵である地球人を助けるために、夜の荒れた海へと飛びこんだ。
なにもすることがなく、なんとなく待つ。
図書館のテーブルの上に、飲み終えたコーヒーの紙コップが増えていくだけだ。数えてみると六つある。
片付けようかと思ったとき、ふいにスマホが鳴った。びっくりして手に取る。
「ドミニクさん!」
「父親である弟に連絡が入った。いま引き取りにいってる!」
姪のメリアちゃんのことだ。二番目の弟さんが、たしか父親だった。
「よかったですね」
「それがタッツ、おれの弟が引き取りにいったのは、コーストガードじゃねえ。軍施設だ。どうなってる、助けてくれた兵士さんはどこだ!」
最悪の予想どおりだ。あの兵士さんは、アメリカ軍基地に拘留されている。
「なんとか、政府の人と連絡を取ってみます!」
スマホを切り、国防長官に電話をかけた。呼びだし音が鳴るだけ。次にギャザリング参謀議長。こちらもダメ。NASA長官もおなじだった。
「みんな、もうきてたのか」
その声がして図書館に入ってきたのはウィルだった。
「ウィル!」
「いい友達を見つけてさ」
「ウィル、それどころじゃない!」
ぼくはかいつまんで、昨日からの経緯を説明した。ハワイ島の沖合で、ドミニクさんの姪が乗ったクルーザーが転覆したこと。それを助けたのが、異星人の兵士だったこと。そしてその兵士が、たぶんアメリカ軍に拘束されていること。
「なるほどな。こりゃさっそく連絡を取ったほうがいいな」
「ウィル、だから政府の人とは連絡がつかない!」
「そっちじゃない」
ウィルの言葉に、ぼくは小首をひねった。
「どういう意味だい?」
「まあ、待てよ、セッティングする」
ウィルは立ちあがり、窓とカーテンをしめていく。だれかに見られたくないのか。ぼくらも手伝い、図書館の窓とカーテンをしめる。それから空調を入れた。
次にウィルは、大きなバックパックを背負っていた。なかから取りだしたのは、古いパソコンの本体だ。デスクトップのタワー型。
もうひとつ、小さめのモニターも取りだす。こちらは新品だ。箱に入っている。
「ネットの配線ないかな」
ウィルが言うので探してみる。貸しだしカウンターの下にあった。
モニターと本体、それにキーボードをカウンターの上に置く。
「あれ、マウスは?」
「あっても意味がないんだ」
ウィルはそれだけ言うと、パソコンの電源を入れた。
パソコンが起動し、まっくろな画面がでる。そこから・・・・・・
「あれ、立ちあがらないよ?」
「これでいいんだ」
ウィルはポケットからメモを取りだし、キーボードを打ち始めた。まっくろな画面だと思っていたけど、白いカーソルは左上にある。
「コマンド入力? OS載ってないのか!」
通常、パソコンでもスマホでも、動かすためのOS、オペレーティング・システムが載っている。マイクロソフトならwindows、アップルならmacOSだ。そのほかLinaxやUnixなどマイナーなものもある。
「ハッキングされないように、特別にジャンク品で作ってもらったんだ」
ではこれを作った人は、かなりプログラムにくわしい。天文学部のぼくでは無理だ。
それからウィルは、外付けの小さなカメラをセットした。USBに接続すると、またコマンドを打ち始める。
するとひとつのソフトウェアが立ちあがった。でも画面にワクはあるけど、なにも表示されていない。
「そろそろだと思うけどな」
ウィルが図書館の壁にある時計を見た。ぼくも時計をふり返る。昼の1時58分。もうすぐ2時だ。
「あっ、なんかきた」
スタッビーの声でモニターを見る。画面のなかに映るワクが、チカチカと点滅していた。
次に映ったのは、のぞきこむ知らない人の顔だ。それも男女のふたり。ぼくらより歳はすこし上、20代の後半に見えた。そしてふたりともが、おなじような小さく丸い眼鏡をかけている。
ウィルが、モニターのまえにかがんだ。モニターの上部には小型カメラが設置してある。
「やあ、ジョシュ、ジェイミー」
「できたようだね、ウィル」
男性のほうが口をひらくと、モニターのスピーカーから声が聞こえた。
「みんな、モニターのまえに座ろう。紹介するよ」
ウィルがそういうので、イスを持ってくることにした。カウンターに置いたモニターのまえ、二列にならべて座る。
前列がウィルとぼく。後列にスタッビーとキアーナが座る。後列のふたりは、ぼくらの肩のあいだから顔をだした。
キアーナが、その褐色美人な顔をぼくの肩に置く。おかげで、しなくてもいい緊張をするはめになった。
「みんな、こちらはジョシュとジェイミー。まだ30歳と若いのにNASAの職員だ」
むこうの男女が手をふった。NASAの職員、ではスーパーエリートだ!




