表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/40

第28話 異星人のボート

 異星人の空飛ぶ小型船は、高速で進んでいる。


 しばらくして、速度がゆっくりになった。


「映像をだします」


 緑の女兵士が言った。よく見ると女性のなめらかな曲線が目立つ黒のライダースーツ。緑色の顔に肩よりすこし上の茶色い髪。目はきりりと大きい。この女性は、とってもきれいな人だ。


 その女兵士は壁にある制御盤のなにかひとつを押した。船内の空中に、100インチぐらいの映像が浮かんでくる。


 外はまっくらだ。そう思ったら、この船のライトが海面を照らした。


転覆てんぷくしてる!」


 スタッビーが声をあげた。


 そのとおりで、クルーザーと思われる小型船の底が見えていた。そのまわりの海面に、四人ほど人間が浮いている。ライフジャケットは着用しているようだ。


 ぼくは丸い窓に近よった。外を見る。


 この空中で停止している異星人の船から、ななめにライトはでていた。ここで停止しているということは、おそらく真上にはいけない。


 転覆しているところまで、まだ30mはあるか。


「その右上の子を拡大できるか!」


 ドミニクさんが映像に近づく。壁の操作パネルまえにいる女兵士がなにかを動かした。


 映像が動く。海面にただようひとりにクローズアップした。


「メリア、おれのめいだ!」


 たしかに15か16、そのあたりの若い女の子だった。ライフジャケットで浮かんではいるが波が高い。頭から波をかぶり、そのたびに海面へ必死で浮かんできているようだった。


「メリア」とは、たしかハワイ語で「プルメリア」だ。小さな白いプルメリアの花が波にもまれ暗い海に沈んでいく。そんな不吉さが頭をよぎった。


「司令官、スーツの許可を」


 言ったのは、あの若い兵士だ。


「着用を許可する」


 グリーン提督の返事を聞くと、若い兵士は壁にむかった。その壁には取っ手のようなものがある。扉だろうか。


 取っ手をまわし扉をあける。そこは部屋ではなかった。なかはすぐ壁があり、人型のくぼみがある。ミラクルメッツのユニフォームを着たまま、兵士はくぼみに入ると扉をしめた。


 ほんの数秒して扉があく。そこからでてきたのは、あの黒いフルフェイスに黒いライダースーツのような格好だった。


 ぼくは壁ぎわにいる女性の兵士を見た。フルフェイスはつけてないが、かのじょも黒いライダースーツを着ている。胸の曲線がわかるので、からだにはフィットしている。でも、服よりはぶあつい。


「服じゃない。強化スーツだ。それも着がえる時間はなかった。装着したのなら、ナノマシンだ!」


 思わずつぶやいたので、グリーン提督がぼくを見た。


「安心したまえ。これをスポーツで着ることはない。ほぼルール違反となるだろう」


 そんな心配を思いついたのではない。ただただ、テクノロジーに感心していただけだ。


「救命ボートを投下します!」


 コックピットから声が聞こえた。船の外から、鉄のきしむような音がする。そのあとボートを発射したのか、船内がすこしゆれた。


 丸い窓から外を見ると、海面に救命ボートが浮いている。それは地球のものと変わりなかった。


 空気によってふくらんでいく。見る間に黄色いゴムボートのような形状になった。


 次に大きな音がして、壁の一部がひらき始めた。外はすごい風だ。風が入ってきて宇宙船が大きくゆれる。あわてて地球のみんなが部屋の中央にある座席にしがみついた。


 非常扉のように細長く外への出口があいた。


 あいさつをすることもなく、全身が黒の強化スーツを着た兵士が走りだした。あけはなたれた非常口から海へと飛ぶ。


 非常口はとじられた。それでも風は強くなる一方なのか、けっこうゆれる。


 船内に映しだされていた映像が変わった。さきほどの救命ボートだ。すでに黒い強化スーツの兵士が、ボートのへりまで到達している。


「司令官、そろそろ出発しませんと、燃料がわずかです!」


 コックピットから声が聞こえた。


「こちらは問題ありません!」


 船内に無線を通したような雑音まじりの音声が流れた。声はあの若い兵士だ。かぶっていた黒いフルフェイスには、無線機能もあるのか!


「これより救助を開始。そのコーストガードやらが到着後、引きわたします」


 ぼくは窓の外を見た。救命ボートに見えたが、やはり異星人のボートだ。船外機がついているように見えなかったのに、海面の上を進んでいる。


「なにかあれば、すぐに知らせ。無理はするな!」

「了解しました!」


 グリーン提督と兵士との会話のあと、ぼくらの乗る船は上昇を始めた。


「母船にいちどもどり、それから送ろう」


 あらてめてグリーン提督を見つめた。


「なんと感謝を言えば」

「礼にはおよばない。後日に、多少の書類にサインを」

「そこですが、地球より進んだ技術がありながら、電子サインではないのですか?」

「重要な公式文書は、すべて紙の書類だ。それにより偽造や改ざんをふせぐ」

「コピーガードは?」

電子錠でんしじょうのことかね。それをやぶる技術のほうが、いまは優位だ」


 なるほど。なんだかそれは、何十年後かに地球が直面しそうな問題に思えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ