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ゼイ・アー・プラネターズ 5

 数十分後。


 ソウルジャズ号の格納庫から、フライフィッシュⅡを白線で引かれた囲いの中に降ろし、周りに触れないようにコーンとバーで囲いを作って準備が完了した。


「よし、お疲れさん」

「ありがとう。全然ボクは元気だけれどね」

「頭脳労働したみたいなもんだろ。こんなにバッチリ位置に合わせて降ろしてんだし」

「プログラムでクレーンを動かしたんだ。ボクはキーを1つ2つ押しただけさ」

「オレのかけ声無駄だったのかよ」

「いやいや、万が一に備えるのは大事だからね。〝実験中の爆発はいつなんどき起こるか分からないよ!〟は祖母の口癖だったし」

「……起こらないようにやる、っていうのは出来ねぇのか?」

「まあ0に出来ない以上は準備して損は無いさ。空振りしてこその危機管理だからね」

「へ。最もらしいこと言いやがって」

「あは」


 ザクロ達はタープテントの下で、キャンプチェアに座って雑談に花を咲かせていた。


「それはそれとして、なんか飲み物いっか?」

「うん。せっかくだから貰った紅茶を飲もう」

「そりゃいいが、オレぁ煎れ方知らねぇから調べてくれ」

「了解。どれどれ……」

「ほー、高い所から注ぐといいのか」

「これはまあこだわる人の例みたいだけれどね」


 手に持っている読書用のタブレット端末でミヤコが検索し、ザクロが一緒に覗き込んで画面を見ていると、


「――ほら、例えばこんなパッとしない時代遅れ臭プンプンの航空機じゃあ、良い記録なんか出せないのさ」


 派手なツンツンで金髪の若い男が、パートナーらしき女性へと、フライフィッシュⅡを指さしながら格好付けて言う声が聞こえた。

 男はダメージ加工のジージャンを羽織り、ロングティーシャツにジーパンの装飾がされた船内外服を着ていた。


「こんなのに乗ってちゃ、俺のカスタムしたイカすクサカベ・ST-04Aには敵わないさ」

「――あ、持ち主居るじゃん」

「おっといけね」


 ザクロ達の存在に気付いた女性に指摘され、男は謝りもせずにヘラヘラと笑って足早に立ち去った。


「――本当にやってみないのかい? あと10分ぐらいで次の回始まるけれど」


 その言葉を聞いていたミヤコは、目が全く笑っていない笑みを浮かべて再度訊ね、


「――しゃーねぇな。そこまで言うなら1回だけぐれぇはやってやんよ」


 ザクロはワナワナと震えながら口の端を引きつらせて引き受けた。


 スペース・レースのジュニアクラスは、ある程度規則性はあるがランダムに設置された、合計20個のホロリングを全て潜り、ゴールするまでのタイムを測るもので、中盤にスラロームとエルロンロールのアピールをこなす必要がある。


 ちなみにシニアクラスは30個のリングを潜り、アピールはスラローム、宙返り、エルロンロール、インメルマンターン、最後にもう一度宙返りが必要とされる。


 ルールとしては、2回演技しなければ記録にはならない、エンジン出力をそろえる事はもちろん、コクピット内に掛かるGの制限や、安全対策のために後部座席に機関士を乗せる、といったものがある。


 アマチュア部門からスカウトを狙っている、先程の金髪男はアマチュアの平均記録よりも30秒弱は早い3分ジャストの暫定1位になり、


「さあて、お手並み拝見」


 飛び入りで最後の順番で参加したザクロ機をふんぞり返って見上げる。


「な……」

「これは凄い記録が出てしまったァーッ! これほどのテクニックで選手経験はゼロッ! なんという逸材だァーッ!」

「いやぁ、これは是非とも選手として見たいですねぇ」


 当然男の考え通りに行くわけもなく、ザクロ機は終始G制限スレスレの挙動で演技し、2分05秒23というジュニアクラスのレコードと同タイムをたたき出した。


「しかし、本人方から〝プロの『ロウニン』が荒らしてしまうのは本意では無い〟とのことで、2回目を棄権するとの申し出があり、1位はイチロウ・スミス選手です」

「なるほど。これが奥ゆかしさ、というものでしょうか」


 だが、ザクロ達は機体から降りず、あんぐりと口を開けているスミスを後目に、そのまま真っ直ぐ展示会場へと戻っていった。


「結局飛ばれたんじゃないですかーっ! やっぱりクローさんは凄いですねーっ!」

「キレるのか褒めるのかどっちかにしろ……」


 パブリックビューイングで見ていたヨルが、帰ってきた途端すっ飛んできてムスッとした顔から目を輝かせ、ヘルメットを小脇に抱えているザクロをたじろがせていた。


「なんで私を乗せていただけなかったんですかー」

「いや、特に他意があったわけじゃなくてだな……」


 さらにズイズイとにじり寄ってくるヨルに、ザクロは助けを求めるようにバンジとミヤコを見やるが、


「おや、新しい論文が出ているね」

「やや。これは耳よりな情報でござるな」


 2人は我関せずという様子で知らんぷりしていた。



                    *



 ザクロ達が駐艦場に戻ってくると、丁度同じタイミングでチーム・プラネターが宇宙空間での練習を終えて戻ってきたところだった。


 プラネター号後部のガレージ部分から、キャンプテーブルとチェアが運び出されていて、カーゴ部分の出入口の前に並べられていた。


 それを並べているスタッフも、それ以外の彼女らも、約1名を除いて忙しそうに歩き回たり、タブレットなどの端末で作業していた。


「なにしてんだ。ありゃ」

「チーム・プラネターはああやって作戦会議とか反省会をするんだそうな」


 ソウルジャズ号のエンジンを止めて、甲板右奥で煙草を吸ってその様子を眺めていたザクロの問いに、ミヤコが艦橋からの出入口付近から答えた。


「中でやりゃいいのにな」

「ついでに食事も摂るから、まあ気分転換も兼ねているんじゃないかな」

「ほーん。ところで、あの船長のねーちゃんの姿が見えねぇな」

「うん? ああ、本当だね。マリさんはいるけれど」


 その上座でぼやっとマリが座っているが、先程事あるごとに彼女を気にかけていたアイナの姿がどこにもなかった。


「彼女の事が気になるのかい?」

「いや。そこまでじゃねぇよ」


 ただ居ねぇなって思ったぐれぇよ、と、物珍しそうに瞬きして訊いてきたミヤコへザクロが返したところで、カーゴ部分の出入口からアイナが出てきた。


「?」


 口を開けて寝ているマリを見やったアイナが、ほんの僅かの間だけ、申し訳なさげに唇を噛んでいて、


「……」


 パイロットスタイルの彼女のそんな行動をザクロは見逃さなかった。


「おいミヤ。連中のジュニアクラスんときの映像出せるか?」

「もちろん。丁度マリに映像を借りていてね」

「いつの間にそんな仲良くなってんだ」

「彼女、ご両親がパイロットだけあってか、航空機の知識が豊富でね。話が弾んだんだ」

「なるほどねェ……」


 ちょっと面倒くさそうに後頭部をかいてから、ザクロは自分の端末を見せて、ミヤコに動画をいくつかそれへ送って貰った。


 数分かけて、あらかた動画を見終わったザクロは、ジャケットの胸ポケットに端末を入れ、


「おや、どこへ?」

「ちぃとな。ミヤもついてこい」

「わかった」


 脇に置いてあった灰皿に煙草を潰し、ミヤコを引き連れて駐艦場へ降りていった。


「よう。ちぃとスペース・レースに興味があってな、どんなこと話してんのか見学させてもらって良いか?」


 ちょうどシャワーを終えてリビングに出てきたヨルを加え、ミーティング中のチーム・プラネターにザクロが割り込んでアイナへ訊く。


「別に構いません。守秘義務だけを守っていただければ」

「そりゃあもちろん。こちとら信用でメシ食ってんでな」


 アイナは腕組みをして少し考えた後、条件付きで許可を出し、テーブルの投影機に先程までの練習風景を流す。


 そんなイレギュラーがあっても、チームメンバーの話し声が飛び交っていても、マリはリクライニングチェアの背もたれを倒して爆睡していた。


「どう、思われますか」

「いやぁ、トーシロに言われてもなァ」

「ご謙遜を。アマチュアチャレンジでの参考記録の件、伺っております」

「へぇ、耳が早ぇことで」

「私がお伝えしましたっ」

「……おう、そうか」


 飼い主が投げた木の棒をとってきた、柴犬を思わせる面持ちのヨルを見て、ザクロは困ったように眉を曲げたが文句は言わなかった。


「はっきり言っちまうと、こりゃブービーにもなるなって感じだ」


 全く忖度そんたくせずにザクロがそう言い放ったことで、辺りにいたクルーの空気がほんの一瞬凍り付いて縮み上がった。


「ジュニアクラスんときの映像見たけどよ、ここまで違ってんのはどういう了見だ?」


 そう言いつつザクロがクルー達を冷たい目で見回すと、全員がいたたたまれない様子で次々に目を逸らした。


「そ、れは……」

「おっと。オレぁ別に断罪しようってわけじゃねぇ。あくまで部外者だからな」


 ぎゅっと胸元で手を握りしめ、泣きそうな顔をして口を開こうとしたアイナへ、ザクロは自身のてのひらを見せて制し、あんたが言いたいときに言え、と告げてきびすを返す。


「おら、けえる……」

「!」


 首だけ振り返ってヨルとミヤコの2人へ呼びかけたとき、ザクロは〝食糧班〟と英語で書かれた、派手な青色のジャンパーの女と目が合った。


 女は少し引きつった笑みを返し、そそくさと船のカーゴ部分へと引っ込んでいった。


 女は少し引きつった笑みを返し、そそくさと船のカーゴ部分へと引っ込んでいった。


「クローさん?」

「なんでもねぇ。行くぞ」


 その不審な挙動にザクロは小さく首をかしげるも、それ以上は何もせずに2人を引き連れて歩き始めた。


「やっぱり――」


 誰にも聞こえない様な声で、アイナはその背中を見ながら言い、傍らで幸せそうに寝ている相方を見やって歯を食いしばった。


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