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クラッキング・ウイズ・メイド 2

「拙者が後で色々伝える故、ひとまず一通り話すでござるよ」


 ヨルは艦橋の方を見やりつつも、バンジに従って元の場所に座り直した。


「バンジ。このターゲットのブルーウェルって人、人道に対する罪だけで懲役300年ぐらいになるけれど、いったい何をしたんだい?」


 資料を読み終えていたミヤコは、表裏2頁に渡って書かれていた罪の数々に引いている様子でバンジに訊く。


「メアではござ――。……失礼。ミヤコ殿とヨル殿は『地上至上主義』という物をご存じかな?」

「ああうん。確か3次大戦末期から終戦直後まで盛んだった、地球外在住民への差別の事だろう?」

「私もそう記憶しています……」

「では説明は要らぬでござるな。その旗振り役かつ急先鋒であったのが例の通信社でござる。そして主犯格が彼奴きゃつを含めた取締役5名なのでござる」

「つまり加担したからこの数字に、という事ですね」

「うむ」

「ああ。聞いたことがあると思ったら、『宇宙線脳の実態とその危険性』や、『倫理観をむしばむ宇宙カルチャー』、『これからを生きる地球人達へ』のライド出版の親会社だね?」

「うむ。思い出したくもないタイトルでござるな」

「ボクもそう思うよ」


 引っかかりがとけたミヤコだが、思い出したことをむしろ後悔する様な渋面を浮かべた。


 ちなみにミヤコが挙げた4冊は、いずれも科学的根拠に基づかない差別主義的な内容で、現在では問題視され発禁となっている。


「確か今は社名を変えて、クリーン・リポート社、っていう名前なんですよね……?」

「うむ。どうにも面の皮が厚いでござるな」


 自分を含めた全員が苦い顔をしていて、つまらぬ話はさておいて、とバンジは話を軌道修正した。


「彼奴はめったに表へ現われず、非常に用心深い行動を取る性格でござってな。実は大まかな位置しか把握出来ていないのでござるよ」

「それじゃあ、情報として不十分じゃないですか?」

「ぬう、ヨル殿も痛いところを……。まあ不本意ではござるが、そこで拙者より先を行っているとおぼしき件のメイド氏を利用するのでござる」

「管理局のブルーウェル氏のデータに侵入ログでもあったのかい?」

「その通り。まあ1層目の攻性防壁を潜った辺りで引き上げたゆえ、侵入した、という事を見つける事以上は出来ていないでござるが」

「あそこは3層目の攻性防壁が厄介だからねえ。一瞬でも顔を出すとすぐ割り出されるし」

「やや? なにやら挑戦したかのような口振りでござるな」

「若気の至りでね。祖母が痕跡を消してくれたおかげで逮捕まで行かなかったけれど、生きた心地がしなかったよ」

「こ、攻性防壁が発動する深度まで潜ったのでござるか……。ミヤ殿が超々ウィザード級ハッカーでござったとは。先日のタイプ速度も納得でござる」

「いやいや、超々なんて大げさだよ。祖母のツールが無ければ精々迷路防壁止まりなのに。あと、あのくらい誰でもやれるさ」

「あのっ、つまり。ミヤさんはハッカーなんですね……?」

「そんな高尚なものじゃないよ。正しい目的では使ってないからクラッカーだね」


 ヨルが純度100%の尊敬の眼差しで見つめてくるので、ミヤコは照れた様子で顔を逸らしながら強く謙遜けんそんする。


「それに、ヒュウガのクサカベサーバーに侵入した祖母と比べれば、ボクなんか本当にたいしたこと無いから」

「く、クサカベの防衛チームって、当時は確か世界最強だったんですよね!? 確か今でも一度もインシデントすら起きていないはずじゃッ」

「う、うん。らしいね」

「ま、間違いないでござるよ」


 クサカベサーバー、と聞いて、ヨルが普段は出さない大きさの声を出したため、ミヤコとバンジはビクッと身体を震わせて答えた。


「で、でも何のために……?」


 ヨル本人も思いのほか声が出た事に驚き、普段より若干小さな声でミヤコへ訊く。


「残ったデータを見たボクの考察にしかならないんだけど、多分、ヒュウガの圧縮恒星炉の危険性に気が付いて忠告しようとしたんだと思う。

 その安全装置の設計図もオマケにするため、技術サーバーに入り込んだ様なんだ。――残念ながら間に合わなかったけれどね……」


 祖母も流石に呆然としていたのを覚えているよ、と言うミヤコの目には暗い影が落ちている様に2人からは見えた。


「わ、私もそういうハッキング技能を身につければ、クローさんのお役に立てますかねっ?」


 なんとか話を変えようと、ヨルは半分本気でミヤコに訊ねた。


「うーん。ヨルは善良過ぎるし、あんまりおすすめ出来ないかな」

「情けをかければ足元をすくわれる非情な世界ゆえ、拙者もヨル殿に仕込むのは躊躇ためらわれるでござる」


 ミヤコは苦笑いを浮かべてやんわり断り、というか、拙者がクロー殿にシメられるでござる、と言ってバンジも断り艦橋の方を見やる。


「あ? なんの話してんだ」


 すると、ちょうどザクロが降りてきたところで、バンジは彼女とガッツリ目が合った。


「ヨルがハッキング技術を身につけたいらしいんだ」

「もっとお役に立てるかなと……」

「別に、オレぁお前が役に立つ立たねぇみてぇなのは求めてねぇからよ。というか身体張るのはオレの役割だ。ヨルは元気ならオレぁそれで良い」

「あ、はい……っ」


 いつも通り気持ちは受け取っとくぜ、と言ってヨルの肩をポンポンと叩き、ザクロはポケットに手を突っこんだままシャワールームの方へと消えていった。


「はう……」


 普段のいかめしい表情を緩めた愛おしげなザクロの笑みに、頬を赤く染めたヨルの鼓動は早くなっていた。


「アイツ、アレを無意識でやってるからタチが悪いんだよな……」

「わかるよ。――ん?」

「それでいて有言実行しかしないものでござるから、人垂らし力が尋常じゃないのでござるよ」


 頷いて深く同意したミヤコは、バンジのその言い方が素の低い声になっている事に気が付いたが、彼女はしれっといつも通りに戻っていた。

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