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ステール・リフレクションズ 2

                    *



 ワープゲートを通過して、コロニーで有機物ソースを補充した後、ザクロ達3人は地球へと降下し、かつては大密林が広がっていたエリアへとやって来た。


 辺り一面が気候変動で乾燥した荒野に変わっていて、かつての面影は全く残っていない。


 その内陸部の白茶けた道路脇に建つ、中規模空港の格納庫の様なガレージ脇にある駐艦場へソウルジャズ号をつける。


 1階層下の生活スペースへと降りたザクロは、出入口のエアロック内にある操作パネルで、外部側のドアの下にある渡し板を伸ばして駐艦場設備のアルミ製の足場へかけた。


 その足場は、基礎を固めた簡易足場に溶接を施し恒久化したもので、その頼りない見た目にヨルは唾を飲み込んだ。


「ヨル。クソ暑いから中入るまでメット被っとけよ。あと安心しろ。コイツは見た目よりは頑丈だぜ」

「あっ、はい……」


 それを察したザクロはヨルにそう言った後、先に自分が渡ってその縦長な網目の足場に降り立つ。


 だが、それでもヨルは恐る恐る板を渡り、緊張しきった面持ちで足場の内側を通る階段を下っていった。


「いやあ、拙者の服装におあつらえ向きの景色でござるなぁ」

「大陸が違うだろメア」

「マジレスしないでもらいたいでござる」


 地面に足がついてホッとするヨルの後から降りてきたバンジが、その荒涼たる大地を見回してしみじみ言ったところで、ザクロに冷めた様子でそう言われガクッとした。


 駐艦場からガレージまでの間の半分ほどを過ぎた所で、天井付近まで高さがある、半開きのスライドドアの向こうから、戦闘機を運搬するクレーンと荷台付きの車両がゆっくりと現われた。


「おう、誰かと思ったらザクロとメアじゃあないかね!」


 助手席から顔を出した作業着姿の老年女性が、独特な風体の2人へひょいと手を挙げて呼びかけてきた。


 その運転席には、47スターズの野球帽にティーシャツ短パンの、ラフな格好をした若い男性工員が座っていて、女性のバカでかい声にちょっと顔をしかめる。


「おっすアリさん」

「アリーシャ殿、本名は……」

「おっ、すまないねメア」

「……」

「ところで、そこのお嬢さんは? ザクロかメアのセッ――」

「ただの船員だっつの! オレとメアじゃねえんだぞ! シモ方面は止めろババア!」

「あんだってー? 〝ババア〟までしか分からん! メアちゃん通訳頼むわ」

「何の通訳だ全部聞こえてんじゃねぇか!」


 アリさんと呼ばれた女性は酒焼けのガラガラ声で、歩いて着いてくるザクロとデカい声でじゃれる様に言い合いをする。


 その間に、車両をソウルジャズ号の前方下部の格納庫隔壁前に横付けすると、シンは地面に降りてキャブの後ろにある操作盤で固定アームを伸ばし、後は吊って乗せるだけの状態にした。

 

「……はぁ」


 誰もお願いを聞いてくれずに本名を連発する状況に、バンジはもう諦めた様子で首を振ってため息を吐いた。


「ただの……」


 その一方、〝ただの船員〟と言われた事に、ヨルは若干のショックを受けていた。


 高齢とは思えない挙動で軽々助手席から女性が降りてきて、


「いやぁ、変な事言ってすまんね。ワシはアリーシャ・レイニーというもんだ」


 ペコッと軽く頭を下げつつ愛想良く挨拶し、やたらフレンドリーな調子で名乗った。


「い、いいえ? あっ、そのっ、ヨル・クサカベですっ」

「ヨルちゃんね。ほう、なかなかの美人さんじゃあないの」

「そんなっ。勿体ないですっ。クローさんの方がその……」

「ザクロとは別ベクトルだっちゅうの」

「師匠、ナンパはいいからちゃんと誘導してもらえます?」

「おいこらシン! ワシがナンパするわけないだろ。いくつだと思ってんだい!」


 まあ、若い頃ならまだ分からんけどな、と言ったアリーシャは、がはは、と笑いながらヨルにウィンクし、ソウルジャズ号からクレーンで地面に下ろされたフライフィッシュⅡの方に駆けつけていった。


「あー、腰いてぇ」

「痛い人間がそんなシャンシャン走れないでしょうよ」

「つれないヤツだね」


 ぶつくさ言いながら、アリーシャはフライフィッシュⅡの裏に回り、声を出してクレーンを誘導し始めた。


「……」

「いやわりぃな。アリさんは距離感が近すぎるって言い忘れてたぜ」

「な、なるほど……」


 完全に圧倒されているヨルは、腕組みして作業する2人を見るザクロのやや後ろに隠れる。


「ところでクローさん」

「あん?」

「アリーシャさんって、アイーシャさんと名字が同じですよね」

「おう。そりゃアイーシャの母ちゃんだし」

「あっ、そうなんですね」

「あんなんでもな」

「あんなん、とはなんだ。髪の毛とかそっくりだろうよ」

「分かるか。全部白髪じゃねぇかよ」


 機体を荷台に乗せた事を確認したアリーシャが、のしのしとやって来てそう言い髪をつまんでみせるが、娘の様なつややかな茶色は完全に抜けきっていた。


「ひえ……」


 その勢いに怯えるヨルは、完全にザクロの長身の後ろに隠れてしまった。


「あーあ、完全に嫌われてんじゃないすか」

「おっと。デカい声出してスマンね」

「そう……」

「そういうわけじゃねぇってよ」

「ちょっと……」

「ちょっと人見知り的なもんだってよ」

「少ししたら……」

「少ししたら多分慣れるから安心してくれってさ」

「本当に嫌いって……」

「マジで嫌いってわけではねぇって」

「クローさん、あんたはメガホンかなんかですかい?」


 そのまま蚊の鳴く様な声で話し始めたヨルの声を、ザクロが拾って拡声器の様に正面のアリーシャに伝えた。


「本当にスマンね。アイーシャにも気を付けろって言われてんだがねぇ」


 年々耳が遠くなっていけねえや、とぼやきつつ、運搬車両には乗らずにガレージの方へ歩いて行った。


「いや、帰りは使わねえのかよ」

「なんか派手に登場したかったらしいっす。意味分かんないっすよね」

「アリ殿は派手好きでござるからなぁ」

「派手だったか? 声デカすぎてかすんでたじゃねぇか」

「あんだってー!?」

「耳が遠いとか絶対ぜつてえ嘘だろ……」

「悪口は聞こえるんすよ……」


 ザクロと従業員の弟子が悪口を言った瞬間、耳に手を当てつつクルっと振り返ったアリーシャに、2人は渋そうな顔の苦笑いをした。

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