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最凶無比の魔女王は静穏を願う。  作者: ぶるどっく
黒薔薇の魔女王は影で暗躍する。
50/55

アーサー王の戦い 醜悪編。

いつも読んで頂きありがとうございます。

今回も多少残酷な表現がありますので苦手な方はご注意下さい。


 王国の広間ではこの世の贅を尽くした宴が繰り広げられていた。


 シャンデリアの光がキラキラと光り輝き、金に糸目を付けずに買い漁られ飾られた数多の絵画や彫刻等の美術品。


 国中から集めた珍味や美食の数々がところ狭しと並べられた数多くのテーブル。


 貴婦人好みの目移りしそうなほどの甘いデザートや果物に、数多くのグラスに並々と溢れんばかりに注がれた酒類。


 広間の中央では薄絹をまとった美眼麗しき若い数人の男女が妖しい色香を放ちながら舞い踊る姿があった。


「ぐははははっっ!! そらっ! 飲めっ、飲むが良いっっ! 勝利の前祝いじゃっ!!」


 醜く肥え太った身体を大粒の宝石で飾り付け、お気に入りの寵姫を側に侍らせ上機嫌で酒を飲み干しているのは聖王国国王のコンスタント・バリー・フォン・ウォルステンホルムだった。


「うふふ、陛下ぁ。 わたくしは今宵も素敵な陛下にもう酔ってしましそうですわぁ」

「おぉ! レオノーラ! 本当に可愛い奴め!」


 酔ってしまったと言いながら豊満な身体を押し当てるようにコンスタントへともたれ掛かるレオノーラ。

 そんなレオノーラの女性としての身体の曲線を強調し、深い切り込みの入ったドレスの胸元にニヤニヤと嘗めるような視線を送るコンスタント達を中心に、欲に溺れた醜い表情を晒したコンスタントを支持する多くの貴族達がこの欲深き宴を楽しんでいた。


 欲に塗れた宴も最高潮に達しそれぞれに相手を見つけては性欲を満たしていた頃、彼等の宴の開いている広間へと何やら喧騒が近づいてきた。

 しかし、彼等は欲を満たす事に忙しく外の喧騒など全く気にも留めていなかった。


 ……そして、広間の扉が大きな音をたてて開かれる。


「何事だ?! 貴様なにも、がはっ」

 

 扉の一番近くにいた一人の貴族が扉が開け放たれた事に気が付き大声を上げれば、広間へと踏み込んできた一人の男によってその首を容赦なく撥ねられてしまった。

「なっっ?! 無礼であるぞっ! 貴様此処を何処だと心得る?! 恐れ多くも聖王陛下の御前であ……」

「くだらない前置きはいりませんよ。 お久しぶりですね、叔父上。 貴方にお貸ししていた王冠と玉座を父に代わり返して頂きに参りました。」

 首を撥ねられた男の鮮血が飛び散り、色欲を満たしていた裸同然の貴族達から悲鳴が上がる。

 宴に参加していた若い女と楽しんでいた半裸の宰相が陛下の御前であると怒鳴ろうとすれば、涼しい顔をした鮮血のしたたる剣を持ったアーサーが周囲の喧騒など見えていないかのように側近達と共に優雅に広間の中へと歩を進めれば、その背後で広間の外へと続く全ての扉は固く閉じられてしまった。

「何故亜人の国との戦場に立っているはずの貴様が此処に居るっ! 我が命に従わずおめおめと逃げ帰ったばかりか、王国に忠誠を誓いし貴族の命を奪うなど気が触れたかっっ!! 極刑は免れぬと覚悟せよっっ!!!」

 国王と寵姫の姿の周りを囲った薄い紗の中でレオノーラのドレスの中へと手を入れて、只でさえ面積の少ないドレスを脱がそうとしていたコンスタントは、良い所を邪魔された事と己の命に従わなかったアーサーへと顔を朱に染め上げて怒鳴り散らす。

「おやおや、愚王殿はお怒りのようだ。 ふふ、私にとってはどうでも良い事だ。……さて、私の名の下にこの汚らわしい宴に参加した下衆共を一人残らず捕縛せよ。 刃向かうならば容赦はいらない、切って捨てる事を許可する。」

『御意っっ! 新王陛下っ!!』

 微笑を浮かべたアーサーの言葉に一斉にアーサーの周囲を固めていた将兵達が動き出す。

「新王だとっっ?! おのれ血迷ったかっ!! 何をしているっその愚か者どもを皆殺しにせよっ!!!」

 額に青筋を浮かべたコンスタントが己の支持者達に命令を下すが、彼等はコンスタントの命令よりもはっきりとした形で見せ付けられた暴力という名の恐怖によって支配され混乱してしまっていた。

「ぐっ……宰相っっ!! 貴様何とかせぬかっっ!!!」

「へ、陛下っ?! どうすればっっ」

「っっ! このっ役立たずがっっ!!」

 コンスタントの近くに逃げてきた宰相へ何とかしろと唾を飛ばしながら命令するものの、命じられた宰相は己の身を如何に守るかだけを考えていた。

「ええいっっ貴様達の身体で余が逃げる時間を稼ぐが良いっっ!!」

「きゃあっっ?! へっ陛下何をなさいますのっっ」

「ぎゃっっ陛下っ?!」

 コンスタントは己にしがみつくように側にいたレオノーラを紗の中から突き飛ばし、同じく側に来ていた宰相を蹴り飛ばす。

「黙れっ! 今までさんざん可愛がってやったんだ! さっさと余を護らぬかっっ!!」

「っっ?! 可愛がってやったですってっっ?! わたくしが相手をしてやったの間違いでしょうっっ!! 本来王になるはずだったお前の兄ならばともかく、お前のような醜い男など王でなければ誰が相手をしてやるものかっっ!!!」

 コンスタントの言葉に侮辱されたと受け取り怒りに目尻を吊り上げたレオノーラが、コンスタントを嘲笑い罵った。

「この阿婆擦れがあぁぁっっ!!」

 コンスタントが一番大嫌いな亡き兄と比較したレオノーラの言葉に、一気に頭に血が上り肥え太った身体とは思えない速さでレオノーラへ馬乗りとなりその細い首を力一杯絞め始める。

「がっ……かは……」

 首を絞められた苦しみに藻掻きながら、父親である宰相へと助けを求めるように手を伸ばすが宰相はさっさとレオノーラへ背を向けて逃げ道を探し始める。

「死ねっ! 余を馬鹿にしおってっっ! 兄よりも余の方がっ余の方が優れているのだっっ!! そんな事も分からない阿婆擦れはさっさと死ねっっ!!」

 気道が圧迫され、呼吸が出来ず、頭部の血流が阻害された苦しみに藻掻き、首を絞め続けるコンスタントの手を血が流れ出る程に深く爪で引っ掻き抵抗するが、レオノーラの首を絞めるその力が緩まる事はなかった。


 数十秒か、数分か、はたまた数十分か。

 コンスタントの手により首を絞められ続けた寵姫レオノーラの白魚のような手は、爪の間をコンスタントの血で紅く染め、とうとう力を失い小さな音をたてて床へと投げ出されてしまったのだった。


 寵姫を己の手で殺し肩で大きく荒い呼吸を繰り返すコンスタントの周りには、すでに味方になり得る貴族達は捕縛もしくは斬り殺されて一人も残っておらず、逃げ出した寵姫の父親である宰相も物言わぬ首だけの姿となりはてていたのだった。



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