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最凶無比の魔女王は静穏を願う。  作者: ぶるどっく
黒薔薇の魔女王は影で暗躍する。
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アーサー王の戦い 狼煙編。

いつも読んで頂きありがとうございます。

今回も多少残酷な表現がありますので苦手な方はご注意下さい。


 ウォルステンホルム聖王国の兵士達がアーサーの言葉に歓声を上げるなか、宰相の息が掛かった刺客である伯爵家出身の軍人が怒りに顔を紅く染め上げていた。


「貴様っっ! 叛逆を企てるなど言語道断だっっ!! 我が剣の錆にしてくれるはっっ!!!」


 殺せっっ!!、と部下へと命令を下す軍人にアーサーは冷たい笑みを浮かべる。

「トリスタン。」

 アーサーは只一言もっとも信頼する側近二人の内の武人である片方の名を呼び、背後より迫り来る刃に視線を送ることさえなかった。

 

 アーサーの己を呼ぶ名が終わらぬうちに眼にも止まらぬ速さで動き出したトリスタンが、武器を掲げながら走り来る兵達と一瞬交錯する。

 

 トリスタンが兵達の合間を走り抜けると兵達は一様に動きを止め、兵の間を走り抜けたトリスタンは背後を振り返ることなく己の剣を鞘へと音を立てて戻せば、まるでその音を合図にしたかのように、兵達は一斉にバタバタと倒れて動かなくなってしまった。


「なっ何をしたっっ?!」

「武人でありながら下らぬ質問だ。……交差した瞬間に斬っただけの話だろう。」

 

 トリスタンに詰まらないものを見るかのように、無感動な瞳を向けられて軍人は冷や汗を浮かべる。

「ま、待てっっ! そ、そうだ! 私に付けっっ!!

 あの昼行灯が払っている倍、いや5倍の金をくれてやる! だからっ私にっっ」

 見苦しくトリスタンを味方に付けようと、条件を並べ立てる軍人の言葉は最後まで続けられることはなかった。

 

「……我が主は只一人、アーサー様のみ!……我が、忠誠を金で買えると思うな!!」


 己の忠誠心を、何よりも主を侮辱された事に憤慨していたトリスタンの只の一撃で軍人の首は胴体と永遠の別れをしてしまった。

 斬り飛ばされた首は鮮血を撒き散らしながら、なだらかな丘を下へ、下へと転がり落ちていく。


 そんな鮮血を撒き散らす軍人の最後を見届けた魔女王は、妖艶な笑みを浮かべながらアーサーへと言葉を掛ける。

「ふふふ、どうやら終わったみたいね?」

「ええ、お待たせいたしました。」

 魔女王の言葉に、己の後ろにある死体など気にも留めずにアーサーも笑みを返してみせる。

「ふふ、構わないわ。 それでは、今から貴方達と貴方に忠誠を誓った兵も含めて王都の外れに転移させるわ。 其処に、私の臣下達が居るから詳しい話はその子達に聴いてちょうだい。」

「……分かりました。……次にお会いする時は私は首だけになっているか、玉座に座っている姿をお見せすることになるのでしょうね。」

 アーサーは冗談交じりに悪戯っ子のような笑みを浮かべながら、魔女王へと話しかける。

 その笑えない冗談に魔女王ではなく側近二人が眉をひそめる。

「……我が主、笑えない上にかけら程も思っていない冗談は止めて頂けませんか?」

「ああ、すまない。 ふふ、私だって首だけになるのはごめんだよ。 だけど、何故かな?私の心は戦いに行くのでは無く、ただ単に王冠を戴く戴冠式にでも臨む気分なんだ。……ふふ、すまないな。 トリスタン、ユーウェイン。 現実に戴冠式を行うためにも早速王座を奪いに行こうか?」

「「御意っ!」」

 アーサーの言葉に二人は殺る気に満ちた声を上げる。

「うふふ、私も首だけになった貴方の姿より、愚王の血で汚れた玉座に座る貴方の姿の方が好みだわ。」

「……おや、では気合いを入れて頑張らなければいけませんね。」

「ふふ、そうね。 頑張ってね、アーサー王。 では……行ってらっしゃい。」

 魔女王はその言葉を言い終わると同時に、大勢の人間達を転移をさせるためにシスプラット平原を覆い尽くす程の力を解放する。


 真っ白な転移の光に兵達が包まれ、光が収束した時には聖王国の兵達の大半は消え去っていたのだった。


「ふふ……、ではこの地に残った愚か者どもよ。選びなさい? 私に背を向け逃げ出すか?……それとも、欲に溺れて私を求め無残な屍を晒すか?……うふふ、好きな方を選んでちょうだい?」


 残酷でありながら、何処までも美しい笑みを浮かべた双黒の魔女王はシスプラット平原に残った聖王国の王族と兵達、そして亜人国軍へと言葉を掛けるのだった。



※※※※※※※※※※



 アーサー達を包んでいた真っ白な光が収束すると、目の前には聖王国の首都と中央に聳え立つ白亜の王城が眼に入った。


「……お待ちしておりました、アーサー王。」


 初めての体験である転移にざわざわと兵達が浮き足立っているのを、将が纏めていく姿を横目に見ながらアーサーは目の前に立つ美しい青年と不思議な雰囲気を纏った老人に視線を奪われる。


「貴殿は……初対面の時に魔女王殿と一緒に居た……」

「……魔女王様が執事、レディウスと申します。」

「ほっほっほっ、魔女王様が相談役を務めておる翁と言いますじゃ。」


 アーサの言葉にレディウスと翁は、簡潔な事項紹介をした。

「では、貴方達が詳しい話をして下さるという魔女王様の部下の方々ですか?」

「その通りです。……アーサー王、今聖王国の王城内は勝利の前祝いと謳い甚だ見苦しい宴が繰り広げられています。 兵達の士気も低く、突破するは容易いでしょう。」

 レディウスの言葉に確認するように、アーサーの側に控えているユーウェインが疑問の声を上げる。

「……王城内を制圧するのは容易かろうとも、王城へと到達するまでに王城を囲むように建設されている城壁と、街があります。 そのうえ街には、民が多く住んでおり午前中である今の時間帯は多くの人が行き交っているはずです。」

「ほっほっほっ、それは心配ご無用ですじゃ。 儂が城壁を吹き飛ばしても良かったのじゃが、城壁を警護する者達の中にすでに我らの仲間でロキという者が潜り込んでおる。」

「民の心配もいりません。 数日前から近々帝国が攻めてくると噂を流しているので、愚かな貴族しか外出を喜んでするものはいない状況にしています。」

 ロキが中心になって流した噂は、只でさえ圧政に苦しみ、日常的に不安に晒され十分な情報も得ることが出来ない民にとっては、何が正しいのかすら分からなかった。 しかし、そんな不安な噂に重ねるように王都より離れた方が安全であるという噂も流れれば、民は少しずつ王都より去っていったのだった。 離れることが困難な民は、徐々に外出すらも最小限に留めるように心がけるようになったのである。

 そんな民の動きなど情報を得たとしても、国王であるコンスタントにとっては民など代えのきく有象無象の存在でしか無く、気にも留めることはなく勝手にさせていたのだ。

 民の被害を最小限に留めることが出来るように配慮された準備万端なレディウス達の手腕に、アーサー達は心の底から思った。

「……貴方達が味方で本当に良かった。」

「ほっほっほっ、我らを敵に回すような欲深き連中が悪いのじゃよ。」

 アーサーの言葉に翁は笑みを浮かべるが、すぐに表情を引き締める。

「……さて、世間話も此処までじゃ。 早速、散歩ついでに我が君への土産として玉座に座ったそなたの話を出来るように働くとしようかの。」

 翁の言葉に、彼等は一斉に表情を引き締める。



「皆の者っ! これより出陣するっっ!! 敵はアルフィン王城にありっっ!!!」

『おおぉぉぉっっっ!!!』


 準備されていた白馬に跨がり、剣を天に掲げたアーサーの一言に兵達は一斉に大声を上げ、同じく武器を天に掲げるのだった。



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