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最凶無比の魔女王は静穏を願う。  作者: ぶるどっく
黒薔薇の魔女王は影で暗躍する。
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帝国への訪問者 狂宴編。

いつも読んで頂きありがとうございます。

今回も残酷な描写が続いておりますので、苦手な方はご注意下さい。


 多くの貴族達の外へと出る扉へと一目散に走り出すなか、にやにやと笑みを浮かべて玉座へと続く紅い絨毯の上を堂々と歩くエドワードの姿はある意味異常だった。


「よくもっっ将軍をっっ」

「これ以上進ませるかっっ」


 そんな玉座に歩み寄るエドワードや首を失ったオールディス将軍の身体をつまらなさそうに眺めるナギへと何人かの勇敢な騎士や兵士達がそれぞれの剣を掲げ躍りかかる。

「ちっ、面倒くせえな。」

「おおー、元気が良いなあ!!」

 面倒臭そうにエドワードが指を鳴らせば、躍りかかってきた一部の騎士や兵士の身体が燃え上がり断末魔の絶叫を上げることも許されずに一瞬で黒い炭の塊となった。

 逆に、躍りかかってくる者達の姿に嬉しそうな声を上げたナギは、獰猛な笑みを浮かべながら愛剣を振るえば一太刀ごとにまるで柔らかなプリンでも切り刻むかの如く、血飛沫が上がり断末魔の悲鳴が響き渡る。

「おい糞将軍、うるせえぞ!ちったあ静かに殺しやがれ!!」

「ええっっ?!そんなん無理だぜ、エディ!静かに殺るのはロキの専門だからさあ、あたいにゃあ無理だ!!」

「威張って言うんじゃねえ!あと、エディって呼ぶな!」

 軽口を叩きながらも二人の攻撃は止むことはなく、確実に一人また一人と二人に剣を向けた騎士や兵達を屠っていった。

 数分という短時間の間に、玉座の間は噎せ返るような血の臭いと人の身体の焼けた臭いが充満していた。

 逃げようと扉を開けようとしても固く閉じられ開かない事に混乱していた貴族だけでなく、兵士の中にもこの臭いに耐えきらず嘔吐する者達も居た。


「さーて、これで少しは静かになったな。じゃあ、早速本題に入ろうか、王様?」

 ニイッと唇を歪め笑みを浮かべるエドワードの姿に気圧されそうになりながらも、王としての矜恃で毅然とした表情を浮かべ続ける帝国を治める王、ローレンス・ジグ・リーナバット。

「……本題とは何だ?」

「なーに、簡単な事さ。其処にいるマーティン・フォン・アバークロンビーを一族郎党そろえて俺の目の前であんた直々に首を撥ねてくれりゃあそれで良い。そうすりゃあ、後は俺の心の傷を癒すために慰謝料として奪えるもんは奪ってから帰ってやるよ。」

 エドワードの言葉に表情を蒼白に染め、叫び声を上げたのは話題に上がった人物だった。

「巫山戯るなっっ!!我が公爵家に引き取ってやって育ててやった恩も忘れて、仇で返しおって!恥を知れっっ!!!」

 マーティンの言葉にエドワードの瞳が凍り付き、隠していた強い憎悪が溢れ出す。

「……育ててやったねえ?なあ王様、面白い話をしてやるよ。とっても胸くそワリイとっておきの話さ。」

 エドワードの研ぎ澄まされた殺気が玉座の間に広がり、誰もが表情をさらに蒼白に染め上げるなか、エドワードはその場にそぐわぬ満面の笑みを浮かべて語り出した。


※※※※※※※※※※


 ある公爵家に一人の下級貴族の女が侍女として奉公に上がった。

 女には将来を約束した男がいたが、女に目を付けた公爵に無理矢理手込めにされて子供を身ごもってしまった。

 それを知った公爵は女を公爵家から首にして実家に口止め代わりに金を握らせて、何処ともしれぬ男と逢い引きして子供を身ごもった恥知らずな女として襤褸布を捨てるように捨てたのだ。

 

 実家に帰らされた女は婚約も破棄され、いない者のように扱われた。

 公爵家で働いていたにも関わらず、父親の分からない子を身ごもった身持ちが悪い女の烙印を押されれば嫁ぎ先など無いに等しかった。

 女は子供を産んだあとすぐに身を投げ、若い命を散らせたのである。

 残された子供は愛され育てられる訳もなく傷つきながら育ち、強い魔力を宿していると言う事が判明したことを転機に、“縁もゆかりもない”下級貴族の子供として公爵家の養子となることとなったのである。

 

 引き取られた先で子供を待っていたのは、夫の不貞の子供であると気が付いた継母と兄弟達による執拗な嫌がらせだった。

 子供は生き残るために魔力を磨き、知恵を蓄え続けた。

 しかし、十代の半ば頃にある事件がおきた。

 それは、数いる兄弟の中で跡取りである一番上の兄が婚約者のいる侯爵令嬢に懸想し、手を出してしまいその侯爵令嬢は嘆き命を絶ってしまったのだ。

 婚約者がいる身で仮面舞踏会などという物に参加していた上での一件であることが表向きになれば侯爵家も困るが、婚約者のいる令嬢に手を出して死なせた以上は公爵家とて只では済まないことは明らかだった。

 侯爵家からの手を出した者を差し出せば構わないと言う要求に彼等は子供を身代わりに仕立て上げたのだ。


 何の事情も説明されることもなく引き渡された子供を待っていたのは暴力の嵐だった。

 身に覚えのない事を言われながら殴られ、蹴られ、子供は理解した。

 己は兄の身代わりにされたのだと、侯爵家も分かっている癖に黙認して己を責め殺すつもりなのだと。

 手足を容赦なく折られ、魔物の多く生息する森に捨てられた子供は、世界を、全てを憎み、心を黒く染め上げていた。

 ……そんな憎しみ、絶望と苦痛に満ちた状態で死を待つだけの子供の側で大地を踏みしめる足音がした。

 己を殺す者の姿を目に焼き付け、全てに復讐を誓った子供の瞳に映ったのは魔物ではなかった。


「あら?どうして、こんな所で貴方は寝そべっているの?」


 子供の側に近寄り、傷ついた身体を癒すように手を差し伸べたのは一人の双黒の少女だったのである。


※※※※※※※※※※


「……さて、以上が胸くそワリィ俺の昔話だ。それで?返答は決まったかい?」

 満面の笑みを消すことなく言葉を続けるエドワードに、王も答えを返す。

「……そなたの生い立ちは確かに同情の余地はある。しかし、そなたの要求を王として受け入れることは出来ぬ。……公爵達の不正に関しては必ず公正な裁きを与えることを……」

「馬鹿じゃねえの?誰がそんな事を求めたよ?公正な裁きなんざどうでもいい。。あの日、森に捨てられたからこそ俺は我が君と出会えたんだしな。」

 鼻で笑って続けられた言葉に、王だけでなく話を聞いていた者達に疑問が浮かぶ。

「……だがな、我が君は俺がその糞に虐げられていたことも、今なおふんぞり返っている事も気に入らないらしい。……王様、あんたは判断を誤ったな。」

「エディっ!確認したけどちゃあんと混ざってたぜっ!!」

「……この糞将軍、いい加減エディって呼ぶんじゃねえっ!

 ま、ちゃんと確認したことだけは褒めてやるけどなっ。……勘違いするな、あくまでそれだけだからなっ!」

 ナギは嬉しそうな表情を浮かべ、エドワードは王へと向き直る。

「……王様、俺達からとびっきりの贈り物だ。ある流行病の種をこの場にいる貴族と他の貴族の何人かにすでに植え付けてある。そいつらは、今無事に発症して周囲の人間に病をうつしやすい状態になりつつある。」

『っっ?!』

 エドワードの言葉に玉座の間にいた者全員に戦慄が走る。

「貴様ら正気かっ、なんということをっっ!!」

「俺達もそんな手段は執りたくなかったんだぜ?でもなあ、もう一つの選択肢であったそれの処刑を断られちまったからしょうが無かったんだよ。」

 貴族達の中から悲鳴が上がり、まるで犯人捜しをするように種を植え付けられているという人物を見つけだそうとする。

「……だが、この場にいる以上はお前達も流行病に……」

「残念だったな。俺達は罹らねえよ、もし罹ったとしても治療薬は有るから問題ねえな。」

 その言葉に玉座の間に居る者達は一斉に、命乞いのような言葉を口々に叫び出す。

「ああっうるせえっっっ!!!」

 ナギの殺気の混じった大声で、再び玉座の間は静けさを取り戻す。

「エドワードっ!我が息子よっっ、今までのお前への仕打ちの数々はお前を鍛えるために父が心を鬼にしてしてきたことだ!立派になった息子に会えて、心より嬉しく思っている!!

 だから、どうか私達にその薬とやらを分けてはくれぬか?」

 静かになった玉座の間にマーティンの声が響き渡る。

 その内容の醜悪さに王も、一部の貴族も表情をしかめるなかでエドワードだけが笑みを浮かべていた。

「いいぜ、くれてやるよ。すでにあんた達に渡してるんだぜ?」

「なっ、どこにっ」

 エドワードの言葉にマーティンは疑わしげな目を向けてしまう物の、まずは実物を手に入れるべきと考えて場所を尋ねる。

「……あんた達、アバークロンビー公爵家の血を引く者全員の“身体”の中さ!」

「巫山戯るなっっ!!私の身体の中だとっっ?!」

 エドワードの言葉に狼狽してしまうマーティン。

 しかし、流行病の恐ろしさに震えている者達にとっては救いの一言とも言えるエドワードの言葉を一言たりとも聞き逃さないように耳を傾けながら、彼等の目は爛々とマーティンへと向けられていた。

「嘘じゃない。だったら、試してみればいい。我が君の力によって、薬はあんた達の身体の中の何処かに植え込まれているんだよ。」

 クルリと玉座へと背を向けて歩き出しながら、エドワードは言葉を続ける。

「……もっとも、俺だって何処に植え込まれているのかは知らねえ。それこそ、体中の“中身”をかき分けて探すしかないんじゃねえの?」

 エドワードは残酷な言葉を満面の笑顔で告げ、ナギと共に姿を現した時と同様に姿を忽然と消してしまうのだった。



 彼等が立ち去った玉座の間には骸と、眼を爛々と輝かせた人間達だけが残された。

 彼等の目線の先にいる公爵(くすり)を求めた者達の殺気とも言える視線を感じて、逃げ道を探そうと必死で思考を空回りさせるマーティンへ王より一つの宣告が下される。


「……マーティン・フォン・アバークロンビー公爵、……国のためだ、死んでくれ。」


 その言葉を合図に恐怖に理性を失った者達の狂宴が開かれることとなるのだった。



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