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最凶無比の魔女王は静穏を願う。  作者: ぶるどっく
黒薔薇の魔女王は影で暗躍する。
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帝国への訪問者 序章編。

いつも呼んで下さりありがとうございます。

今回は多少残酷な表現を含む話となっていますので、苦手な方はご注意下さい。


「……では、此度の聖王国への遠征はオールディス将軍を筆頭に進める事とする。」

「御意っ!!我が命に代えましても、必ずや陛下に聖王国の肥沃な大地を捧げて見せましょうぞっっ!!!」

 玉座に深く座った壮年の男、リーナバット帝国の王であるローレンス・ジグ・リーナバットは、玉座の間に集まった主立った貴族達を前に聖王国への遠征を宣言する。

 王の目の前に跪き、この遠征の総大将に任じられた歴戦の猛者と言わんばかりの容姿を持つライナス・オールディスは、鼻息荒く王へと遠征の成功と戦果を捧げる事を約束していた。

 玉座の間に集まった貴族達はすでに聖王国の肥沃な大地を手に入れた後の割り振りが気になるのか、欲を宿した眼差しでどうやって王へと取り入ろうかと考えている様子であり、その中にはブルネットの髪を持つ高位貴族、マーティン・フォン・アバークロンビー公爵の姿もあった。

 

「はっ、欲に眼が眩んだ糞共が雁首そろえてご苦労なこって。」

「そうだよなあ、まだ勝った訳でもねえのにその後の事を考えてもしょうがねえと思うけどなあ。」


 そんな玉座の間のなかに、場違いな声が響き渡る。

「何者だっっ!!」

 オールディス将軍を筆頭とした兵士達が警戒し、侵入者の存在に貴族達がざわめく。

「よっと、……どうも、初めましてってか?

 元アバークロンビー公爵の妾腹の息子で、今は偉大なる我らが黒薔薇の魔女王が治めしルシファート王国が宰相、エドワードだ。……別れの挨拶に来てやったぜ?元親父殿?」

「ああっと、同じく将軍位を預かってるナギってんだ。別にあたいはあんたらの事なんざどうでもいいけどよぉ、我が君の命令に従い遊んで貰うぜ?」

 ニヤリと何かを企んでいそうな笑みを浮かべるエドワードと、楽しそうにいつもと変わらぬ笑みを浮かべたナギが玉座の間の扉の前に、何も無い所から出て来たかのように姿を現したのだった。


 突然の侵入者と公爵の血縁者であると言う言葉に玉座の間のなかが騒然とする。

「……アバークロンビー公爵様の子息?確かに、あの髪の色は見覚えがあります……」

「……確かに、数年前に噂が有りましたわよね?」

「……ですが、死んだと……」

「……いえ、修道院に出家したと聞いたが……」

 貴族達が口々に己が聞いた噂を囁き、確かめ合っては憶測を混じらせあう。

「私には玉座の間に侵入するような恥知らずな息子など存在せんっっ!!

 そのような偽りを口にするなど言語道断っっ!!

 衛兵達は何をしているっっ!!陛下の御前に恥知らずにも侵入する愚か者を捉えぬかっっ!!!」

 顔を怒りと羞恥で赤黒く染めたアバークロンビー公爵は、玉座の間を警護している衛兵へと声を荒げる。

「ふむ、侵入者とは。……良かろうっっ!貴様らを見事に討ち果たし、我が主である陛下へとその首を捧げて見せようっっ!!」 

 帝国のなかでも一、二を争う実力者であるオールディス将軍は、男らしいその顔に獰猛な笑みを浮かべ王へと許可を仰ぐように眼差しを送る。

「……オールディス将軍の好きにせよ。」

「御意っ!!」

 鼻息荒く、剣を構えエドワード達との距離を詰めるオールディス将軍の姿を面白そうに笑みを浮かべるナギはエドワードへと話しかけた。

「なあ、なあ?エディ、あれと遊んできても良いか?」

「エディ言うな。勝手にしろ。」

「よっしゃっ!ちょっと行ってくる!!」

 好戦的な笑みを浮かべたナギは、エドワードより離れオールディス将軍に向けて歩きだし、二人は数歩の距離を開けて対峙した。

「なあなあ、おっさんはこの国のなかでどんくらいの強さを持ってるんだ?」

「はっ、小娘がっ!儂はこの国のなかでも一、二を争う実力者だっっ!!貴様のような愚か者など相手にもならぬわっ!!」

「えー、おっさん程度の実力で一、二になれんの?すっげえ、期待はずれ。」

 オールディス将軍の言葉に浮かべていた笑みを失望に染め上げて、がっかりと肩を落としてしまうナギ。

「小娘がっ、武の世界において相手の実力もはかれず己を過信するなど、愚の骨頂。死んであの世で後悔すると良いわっっ」

 ナギの言葉をせせら笑い、オールディス将軍は愛剣を構え躍りかかる。

 ナギは詰まらなそうに視線を投げかけて、愛剣を構える事なく二人の姿は交差する。


「っっ?!ひぃぎゃあぁぁぁぁっっっ!!!儂の……儂のっ腕があっっ!!」


 血飛沫と悲鳴を上げたのはオールディス将軍であり、ナギの身体には傷一つ付いていなかった。

「だから言ったじゃん、期待はずれだって。」

 ナギは交差する瞬間に、目にもとまらぬ速さで愛剣を只一太刀振るったのだ。

 その一太刀は、オールディス将軍の愛剣ごと両腕を切断してしまったのである。

 玉座の間にいた将軍の勝利を信じて疑っていなかった王を初めとした貴族達も、兵士達も何が起こったのかすぐには理解できなかった。

「んじゃ、えーっと?死んであの世で後悔だっけか?好きにしな。」

「まっ……」

 やる気のない声と共に振るわれた大剣の一太刀は、オールディス将軍の首を綺麗に切り飛ばし、未だに理解できていなかった貴族達の元へと血をまき散らしながら美しい放物線を描いて着地する。

「きぃっやあぁぁぁっっっ!!!」

 誰かの悲鳴を皮切りに玉座の間は混乱に陥ってしまうのだった。



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