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最凶無比の魔女王は静穏を願う。  作者: ぶるどっく
黒薔薇の魔女王は影で暗躍する。
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執事と宰相、魔女王を想う者達。


 レディウスと魔女王の関係は一見今までと変わる事は無かった。

 魔女王が己の身の回りの世話からレディウスを外したのは、女性としての自覚が出てきたのだと侍女など多くの者達は思った。

 しかし、疑問に思うものは少なくなかった。

 魔女王に近ければ、近い程にその疑問や違和感は感じてしまうのだ。

 ……魔女王から、本当の笑顔が消え去り、壊れてしまいそうな冷たい雰囲気を纏っている……と。




「……ふふ。では、エディとナギに帝国を、聖王国の方は翁、ロキ、レディウスに任せるわね。

 私は、そうねえ、亜人の国と聖王国の戦場にでも、冒険者達を連れて行くついでに行ってみようかしら。」

 魔女王の王城にある玉座の間において、集まった側近達を含む王国の4大都市の長達、そして冒険者を前に魔女王は艶然と微笑みながらそれぞれに命令を出す。

「……お待ち下さい、我が君。護衛も付けずにお一人で行動されるのは危険です。」

「ふふ、面白い事を言うのねえ?レディウス、私と対等に戦えるのは翁と同じようなレベルの方々しかいないのにね。」

「ですが……」

 魔女王の身を案じて言い募ろうとするレディウスに、擦れ違ってしまったあの日より戻る事のない温かみを喪った眼差しを向ける魔女王。

「……私の心配など必要ないの。ふふ、だって少しだけ遊ぶだけだもの。」

 誰に対しても、冷たい笑みしか浮かべる事の無くなった魔女王へ、レディウスは何も言えなくなってしまうのだった。 




 魔女王の解散の言葉と共に、玉座の間よりそれぞれの執務室や街へと戻るために帰路につく者達が歩き去るなか、レディウスは主の去った玉座の間に一人佇んでいた。

 レディウスの脳裏に浮かび上がるのは、夕日に照らされながらまるで泣く寸前のような、壊れそうな笑みを浮かべた魔女王の姿だった。

 ……レディウスは何度も自問自答する。

 本当に魔女王を泣かせてしまうような結果で良かったのかを。

 だが、王族として生まれた彼女が結ばれるべきは決して己では無く、いつかは彼女の傷も癒えて消え去り本当に愛する王子や王の隣で幸せそうに微笑むのだと……。

 ……所詮、魔女王である彼女の己へと向けている想いは、幼い頃より側に居た者への家族愛や親愛の延長でしかないのだ。

 勘違いをしてはいけないと、何度も己を律するレディウスしか居ないはずの玉座の間に別の男の声が響いた。


「……はっ、負け犬野郎にはお似合いの情けねえ面だな。」

 靴音を響かせながら玉座に向かって歩いてくるのは、貴族らしい衣装に身を包んだ宰相、エドワードだった。

「……馬鹿猫。今は、貴方の相手をする気分にはなれないのです。さっさと私の怒りを買わないうちに失せなさい。」

「おお、怖い。流石、女一人の愛情を受け取る甲斐性もねえ糞犬の遠吠えだ。……ああ、負け犬の方が良かったか?」

 怖い、怖い、とわざとらしく肩を竦めて見せるエドワードに、レディウスは怒りの籠もった視線を向ける。

「……貴方には関係の無い話でしょう。」

「いーや、関係有るね。俺は、我が君の横に立つつもりなんだからな。」

 巫山戯た態度を一変させたエドワードも怒気を放つレディウスの視線を真っ向から受け、見下すような視線を向けてみせる。

「……己が何を言っているのか分かっているのですか。」

「ああ、分かってるよ。傷心の我が君の心を癒して差し上げて、この俺を選んで貰う。ただ、それだけの事だろう。」

「貴様はっ!あの方の傷ついたお心につけ込むつもりかっっ!」

 エドワードの言葉に普段は冷静なレディウスだったが、大切な主につけ込むのだという言葉に声を荒げてしまった。

「……傷つけたてめえの言う言葉じゃねえな。」

「っっ、それは……」

「……なあ、糞犬。四方を未開の大地に囲まれた建国して間もないこの国に、他国の王族の血が必要か?

 んなもん、未開の大地が踏破された頃に考えりゃあ良い事じゃあねえか。少なくとも、我が君のような魔力を持った奴が現れねえ限りは無理だ。

 だとしたら、他国が大群率いて踏破するなんざまだまだ無理なこの状況でかえって他国の王族の血は邪魔でしかねえ。」

「……」

 他国の影響を受けやすくする、と続けたエドワードの言葉をレディウスは否定できなかった。

「まあ、国内での繋がりを重視するってんなら、各一族の長の血筋やらを娶っても良いのかもしれねえが、別に我が君である必要はねえ。俺ら、側近の誰かが娶ればいい話だ。」

「……何が言いたい。」

「要するに、現状では別に我が君の意志があれば国内の奴であれば構わねえって事だ。側近であれば尚良しだろう。そういう意味で、一番我が君に近かったのは面白くねえ事にてめえだ、糞犬。」

「……有り得ない話だ。第一、我が君が私に向けていた感情は親愛や家族愛の延長でしかない。それに、私は我が君へ忠誠を捧げている以上は我が君の大切にされているこの国の事も考えた上で決断を……」

「わかってねーのは、てめえだ糞犬。」

 レディウスはエドワードの話に耳を傾け否定の言葉を口にするが、それを遮るようにエドワードが話を続ける。

「あれの何処が親愛や家族愛だ?

 我が君は時々確かに言動が幼くなる事はあるけどよ、十分に女としての感情を理解してるぜ。

 それに、我が君はある意味お前と一緒に居るために国を作った気がするんだがな。」

「なっっ!」

「気が付いてねえのはてめえだけだ、糞犬。我が君のてめえを見る眼は、何時だって惚れた男を見る眼だろうが。」

「な、ななな、なにを言っているんだっ」

 レディウスはエドワードの言葉に頬を紅く染め、動揺してしまう。

「……きもっ!糞犬の紅い顔見たって気持ちわりいだけだっ!俺にそんな顔を向けるんじゃあねえ!!」

「きっ、貴様が妙な事を言うからだろうっっ!!」

 動揺するレディウスの姿に、エドワードは呆れた眼差しを向けてしまう。

「……何で俺がこんな事まで言わにゃあならねえんだ。

 いいか、よく聞けよ、糞犬。我が君の中心はてめえだ。」

「?!」

「……我が君は元々この世界が嫌いなんだろうな。いっその事、滅ぼしてしまいたいくらいに。」

 エドワードは、何かを思い出すように遠い目をして語り続ける。

「……俺やあの侍女長達も同じだ、苦しくて、悲しくて、辛くて、誰も助けてくれねえ事に絶望して、世界を呪わずにはいられなかった。

 そんな時に手を差し伸べて、俺らの敵を薙ぎ払ってくれたのが我が君だった。我が君だけが俺達に気が付いて手を差し伸べてくれた。

 ……だから、俺達の中心は我が君だ。我が君だけしかいらねえ。我が君が滅びの道を付き進むってんなら最後まで付き合うし、天下を望むなら必ず捧げてみせる。」

 エドワードは言葉を切り、再びレディウスへと視線を向ける。

「……我が君の過去は詳しく知らねえ。

 でも、俺達にとっての我が君が、てめえだったんじゃねえのか、糞犬。

 てめえは、それを男女の愛とは言わねえって言うかもしれねえが、我が君の行動の全てはてめえに繋がってんだよ。

 我が君は、色々と別の理由を心の中では正当化するために考えているかもしれねえが、全部てめえ好みに話が進んでんだろ。」

「……私は……」

「ある意味、てめえは我が君とこの世界を結ぶ存在だったんだよ。その存在を見失なっちまった我が君はどうなるのかねえ?」

 エドワードの言葉は、呆然としてしまったレディウスの心に重く響いた。



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