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最凶無比の魔女王は静穏を願う。  作者: ぶるどっく
黒薔薇の魔女王は影で暗躍する。
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魔女王と誠の聖王の血筋を持つ者 前編。


「偉大なる聖王陛下よりの勅命である!!

 軍を率いて亜人の国へと攻め上り、世に混乱をもたらす彼の魔女の身柄を押さえよ!!!」

 見るからに欲深い聖王好みの貴族の一人が、跪いた若者を前に聖王の勅命を読み上げる。

「御意、聖王陛下の御心に敵うように頑張ります。」

 勅命を読み上げた貴族に対し、力の抜けるような笑みを浮かべた若者、"アーサー・ドラゴ・フォン・ウォルステンホルム"は深々と頭を下げる。

「……ふんっ、不出来な甥である昼行灯な貴様にまで活躍の場を与えようとして下さる聖王陛下の慈悲溢れるお心に感謝して励むが良いわっ!」

 貴族の言葉にアーサーの護衛達の視線は厳しくなる。

 剣の柄へと伸ばし掛けた手を視線だけで制したのは、他ならぬアーサーだった。

 貴族は己の身に危険が迫っていた事すら気が付く事は無くふてぶてしい態度で、アーサーに与えられた王都より離れた寂れた屋敷を後にするのだった。



「……我慢してくれてありがとう、トリスタン、ユーウェイン。」

 貴族が立ち去った後の応接間において、アーサーは笑顔で己の護衛であるトリスタンとユーウェインへとに礼を述べる。

「アーサー様、あのような輩など一刀のもとに切り伏せてしまえば良かったのです。」

 祖父の代よりアーサー親子に仕え、トリスタンにとっては己の主であると同時に本来はこの聖王国の正当なる王であると考えずにはいられないアーサーに対するあの貴族の言動も、平気でアーサーへと命令を下す現国王へも不満を抱かずにはいられなかった。

 トリスタンとて、武人とはいえ貴族の端くれである。

 現国王が誠心誠意国民を大切にするような王であれば、凡庸であったとしても此処まで不満を抱くとは無かっただろう。

「……それが出来ないのは君も分かってるよね、トリスタン?」

「ですが、今回の勅命はそのような事は言っていられぬかもしれません。」

「……ああ、分かっている。」

 いつもは飄々とした表情を浮かべ、真面目なトリスタンをからかう事の多い文官風の容姿のユーウェインは珍しく真面目な表情でアーサーへと進言する。

「此度の戦は、あの王にとって邪魔な存在を適当な理由を付けて処分するだけの物でしょう。実際に、アーサー様以外のあの男の息子達も参加させられるようですし……。

 ……今のお気に入りの寵姫殿もいつまでもつのでしょうねえ?結局は、不老不死を得た己が永遠に国を支配する等という夢物語にもならないものを思い描いているのでしょうに。」

「……そんな下らん理由で、戦を起こすとはっっ!兵士もまた愛する家族のいる民であると言うのにっっ!!」

 アーサーは側近二人の静かな怒りを感じて、険しい表情を浮かべる。

「……それでも、私達の兵力では確実にあの愚王を討つ事は出来まいよ。出来れば、もう少し時間が欲しかったんだけれどね……」

 現聖王コンスタントにとって、己の兄"ユーサー・ペルド・フォン・ウォルステンホルム"の血を継ぐアーサーは邪魔な存在でしかなかった。

 そんなアーサーが生かされているのは、彼と初めて会った時から愚かな道化を演じ続けているからに過ぎない。

 優秀で非打ち所の無かった兄の血を継いでいるにも関わらず、似ているのは容姿だけの愚かな甥。

 愚かな甥の姿はまるでコンプレックスを感じる事しかできなかった死んだ優秀な兄の愚かな姿にしか見えず、コンスタントにとって己のプライドを慰める面白い見世物でしかなかったのだ。

 愚か者の、昼行灯を演じてきたアーサー、その裏では密かに私兵を集めコンスタントを討たんと密かに準備を進めてきたのである。


 その準備の全てが、今回の生きて帰れるかも分からぬ、生きて帰ったとしても理由を無理矢理付けてでも命を奪われかねない状況へと立たされたことで水の泡となりかけているのだ。

 アーサーは迷う、同じ命を失うのであれば低い勝算に賭けてでも決起するべきなのかを……。


「うふふふふふ、お悩みのようですわねえ?私が相談に乗って差し上げましょうか?」

「何者だっっ」

 トリスタンが主であるアーサーを背に庇い、声が響いてきたバルコニーへと剣を構え、ユーウェインもまたいつでもアーサーの盾になれるように身構える。

 バルコニーには二人の影が見える、それは月明かりに照らされて妖しい美しさを纏う双黒の少女と銀色の髪をもつ麗人だった。

「あら?そんな危ない物を私に向けないでくれる?間違えて殺しちゃったらどうするのよ。」

 双黒の少女は剣を構えるトリスタンの姿に美しい眉をひそめる。

「なっっ?!」

「何だこれはっっ?!」

「ユーウェイン!トリスタンっっ!!」

 双黒の少女が笑みを浮かべれば、トリスタンとユーウェインの身体は拘束着に包まれ芋虫のように転がされていた。

「くっ、お逃げ下さいアーサー様っ!!」

 アーサーに逃げるように叫びながら藻掻き、拘束着より脱出を試みる二人だが、拘束着が緩む気配など微塵もなかった。

「ふふ、無駄よ。だって、結界を張っているもの。逃げる事も出来なければ、貴方達の助けを求める声も誰にも届きはしないわ。」

 双黒の少女の言葉に彼等は悔しげに唇を噛みしめ、睨み付ける事しかできなかった。

「……我が君、余り虐めては話が出来ません。」

 アーサー達の姿に愉しげに笑っていた双黒の少女へと麗人が話しかける。

「ああ、そうだったわね。余りにも、良い反応を返してくれるから忘れる所だったわ。

 ふふふ、ねえ、そこの貴方?

 この聖王国の聖王の椅子が欲しくはないかしら?」

 予想外の双黒の少女の言葉に彼等は一様に眼を見開く事しかできないのだった。



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