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最凶無比の魔女王は静穏を願う。  作者: ぶるどっく
黒薔薇の魔女王と忠誠を誓う者達。
36/55

ランスロットの交渉 結末編。


---なあにいぃぃっっ!!


 集落に住む全ての者達に、族長達の会話はしっかりと届いていた。

 まるで、風が会話を運ぶように……。

 しっかりと族長が何を言っているのかも分かるように聞こえていたのである。

 彼等の話は、この集落に住む者達に衝撃を与えた。

 自分たちの一族を含む亜人の国の上層部にいる者達の選択した惨劇に愕然とする者、これから訪れるかもしれぬ災厄に危機感を募らせる者、……様々な思いを彼等は抱いてしまっていた。


「……嘘だろう……。

 この話が本当だったら、聖王国と戦になるって事だろう?」

「ま、まさか、そんな訳無い。

 今までも、うまく躱してきたんだ。

 これからだって……」

「でも、それは例え血族は違ったとしても、同胞の犠牲に成り立っていたんでしょう?

 また、誰かを犠牲にするの?」

「……それは……」

 彼等は、自分たちに与えられた衝撃の真実に、これからの未来に不安を感じてしまった。

 集落に住む人々は、互いに側にいる者達と相談を始める。

 そんな中で、一人の女性が声を上げる。

「……私、魔女が治める国へ行くわ。」

「おいっっ、それはっ」

「だってっ、そこに行けば家族は争いに巻き込まれる事はないもの!

 それに、みんなで行けば誰も犠牲にしなくてすむわっっ!」

「だが、故郷を捨てるって事だぞっっ!」

「……それは……、そうだけど……」

 声を上げ、魔女の国へ行くと言った女を諫めるように中年の男が声を荒げる。

「……それでも、家族は失わずにすむ。

 例え、故郷を失うことになろうとも、俺は家族が一緒にいれば一から頑張れる。

 族長達には悪いが、あの話を聞いてしまった以上は信じることは出来ん。

 ……自分たちが助かるために、俺の大切な人達を犠牲にしないとは限らんからな。」

 中年の男が声を荒げたことで、しゅんとなってしまった女の言葉を代弁するように壮年の男性が言葉を紡ぐ。

 それを皮切りに多くの者達が、魔女の国への移住をするためにそれぞれの家へと走り出す。

「待てっ、落ち着けっっ!

 これは魔女の罠に決まっているっ!

 エイベル様を信じるべきだっっ!!」

「そのエイベル様を実際に知っているのは、族長や取り巻きのお前達だけだろうっ!

 少なくとも、何かあっても口だけのお前達よりはランスロットの方が信じられるっ!」

「なっっ?!」

「そうね、魔物退治でも何でも危険なことは若者や取り巻き以外の者達にさせていた貴方達よりも、ランスロットさんの方が信頼できるわね。」

「お前達は、エイベル様を信じて好きにすればいいだろう?

 俺達も好きにさせて貰うだけだ。」

 一部の族長を支持する者以外、全ての者が移住の準備を始めるのだった。



※※※※※※※※



「……人望が呆れる程にないわね。」

「同じく民を纏める立場である我が君とは、月とすっぽん程に差があるのう。」

「翁様、それはスッポンが可哀想ですわ。」

「……それもそうじゃの。」

 翁が風を使って集落の様子を確認すると、族長やその取り巻きに対する住民達の信頼度の低さが浮き彫りとなった会話が多数聞き取れたのである。

 アイリスと翁は、聞き及んだ会話の節々から感じられる余りの人望のなさに呆れた視線を族長へと向けてしまう。

 一方で、族長は余りの屈辱と怒りに顔を紅く染め上げ、言葉も出ない様子であった。

「……なんでこのような者を族長としていましたの?

 余りに人望がなさ過ぎるでしょうに。」

 アイリスはランスロットへ向け、人望がないにも関わらず族長をしていた理由を問いかける。

「……余程の失態がない限りは、族長の一族に生まれた者が順次引き継ぐこととなっているんです。

 彼も、人望は一部の者以外にはありませんでしたが、目立った失態もなかったために一応族長になっていたのです。」

 ランスロットも、思っていた以上に人望がなかった族長に対して複雑な心境を抱いている様子だった。

「……そう。

 まあ、これから過去の存在になるあれの事はもう良いですわ。

 それよりも、未来のことを話さなければいけませんわね。」

「この集落の住人達と獣人族の集落の者達。

 先に国へ送る必要がありそうじゃのう。

 ほっほっほっ、久しぶりの大仕事じゃ。」

 すでに、アイリスと翁は族長の存在を過去の者と切り捨てた。

 そんな二人は、壊れた族長の家をランスロット達を伴い後にする。

 壊れた家の中には、未だ動けぬ族長の喚き声だけが木霊するのだった。



 魔女王の国への移住を希望したのは、族長の取り巻き以外のこの集落に住む大半の者達だった。

 ギルバートの一族を含めた彼等は、まだ見ぬ新たな大地へと希望と不安で心を一杯にして翁の転移魔術に身を任せることとなる。

 

 

 そして、ランスロットとギルバートは少しでも犠牲となる者達を減らすために、小数の一族を中心に迫り来る戦乱の脅威を伝え、魔女王の国への移転を話して回るのだった。


 ……そして、とうとう聖王国は大きな動きを見せたのである。




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