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最凶無比の魔女王は静穏を願う。  作者: ぶるどっく
黒薔薇の魔女王と忠誠を誓う者達。
35/55

ランスロットの交渉 翁の機転編。


「し、しりゃんっっ、しりゃんっっ(知らん、知らん)!

 わしゃあ、なにもしりゃなかった(何も知らなかった)!

 じぇんぶ、えいべるしゃまたちがきめちゃのだっ(全部、エイベル様達が決めたのだ)!!」


 壊れたラジオのように、知らないのだ、自分は関係が無いのだという言葉を繰り返す族長の姿にアイリスの怒りの炎はさらに燃え上がる。


「……お前達が、聖王国と取引したのよ。

 聖王国が貴族や民衆の不満を亜人の国へ向けさせて、小競り合いを繰り返してはガス抜きをするのが奴らの常套手段だわ。

 ……でも、前回はそれだけでは終わらなかった。

 それだけ不満が高くなっていたのよ。

 だから、実際に亜人の国へ向けて本格的に兵を出して見せた。

 そのままでは、戦になっていたでしょうね。

 ……だから、こいつらは聖王国へ密かに密使を送ったのよ。」


 アイリスの怒りと殺意の籠もった視線に、ひいっと情けない悲鳴を族長は上げる。


「……一部の小数の血族達をその集落ごと差し出す代わりに、自分たちの安全を保証するようにこいつらは言ったのよ。」


 アイリスは、爪が手の平に食い込み血がにじみ出る程に強く握りしめる。


「……聖王国にとっても、亜人の国はある意味国民や貴族の不満を薄める手段の一つ。

 ひと思いに滅ぼすのは、勿体ない存在。だから、こいつらの話に乗ったのよ。

 貴族にとっては、滅多に手に入らなくなった亜人の奴隷を手に入れる最高の機会、参加した平民の兵士達に取っては、集落に蓄えられた薬や武器を奪って売れば良いお金になるもの。」


 アイリスの語った話は、ランスロットやギルバートだけでなく、若いエルフの戦士達に衝撃を与えた。

 彼等は、自分たちの一族の族長が同じ亜人の国の同胞を生け贄にしたことなど信じたくはなかった。


「……族長、貴方はなんてことを……」

 呆然と呟くランスロットへ、唾を吐きそうな勢いで族長は叫ぶ。

「あにょときは、しょうがにゃかったのじゃ(あの時は、しょうが無かったのだ)

 じゃが、わしりゃのおかげぢぇいままでみゃんじゃいにゃきゅきゅりゃしぇちゃはずじゃ

 (だが、儂らのおかげで今まで問題無く暮らせたはずだ)」

「巫山戯るなっっ!!

 同胞を犠牲にして得た平穏に何の意味があるっっ!!

 第一、国を想う気持ちが誠であるならば、貴方はアイリス殿達へしたことを否定せずに受け止め、罪を背負うべきだろうっ!

 それに、何の罪もない小数の一族の者達だけに痛みや犠牲を押しつけるべきでは無かったはずだっ!」

「……ぐっ、うるしゃいっ!!」

 ランスロットは、唇を噛みしめ族長を睨み付ける。

 そんなランスロットの片に手を置き、ギルバートもまた族長へと視線を向け、重い口を開く。

「……我は、貴方を軽蔑する。

 確かに、上層部のその判断は国を守るためだったかもしれない。

 だが、力なき者達に痛みを押しつけ生け贄とし、権力者である貴殿らはその判断すらも無かったことのように扱う。

 そのような者達に、我は従いたいとは思わぬ。

 ……この亜人の国が出来た目的自体を忘れ去った者達の命に、国を想ってとはいえ従ってしまった己が恥ずかしくてたまらぬ。」

「……ギルバート。」

「ランスロットよ、我は選ぶ。

 我は、この国と袂を分かとうと思う。

 そして、この度の一件だけではなく、この国の犠牲となった者達を一人でも多く見つけ出し、助け出そうと思う。」

「……そうだな、ギルバート。

 私もそうしたい。

 彼等を切り捨てる判断を下した者達は、認めたくもないが同じ血族であった以上は少しでも償いたい。」

 ギルバートとランスロットは、この亜人の国と袂を分かつことを決意する。

 そして、それに続くように若きエルフの戦士達も同意の声を上げる。

 それに慌てたのが族長である。

「まて!!

 おみゃえたちは、わかっていりゅのかっっ!!

 おみぇえたちをまもっちぇいちゃ、くにへけんをみゅけようとしちぇいりゅのじゃじょ!

 (お前達を守っていた国へ剣を向けようとしているのだぞ)」

「違うな。

 元々この亜人の国は、人間に奴隷として狩られ続けていた同胞達を守るために出来た国。

 その国が、出来た理由を捨ててしまった以上は、この国の意味などあるまい。」

「ふんっ!

 にゃらば、かっちぇにするがいい(ならば、勝手にするがいい)!!

 おみゃえたちのはなしにゃどだれもききはしぇぬ(お前達の話など誰も聞きはせぬ)!

 おみゃえたちだけでいくがいいっっ(お前達だけで行くが良い)!!」

 族長の強がりのような言葉に対し、屋根も吹き飛んでしまった家の中に翁のいつもの笑い声が響き渡る。


「ほっほっほっほっ、ふうむ。

 ここまで、予想通りの言葉を吐かれてしまうと、もう笑ってしまうしかないのう。」


「翁殿?」

 ほけほけと笑い続ける翁に対し、部屋にいた者達の視線が集まる。

「うむ、すまぬの。

 儂らの話は、確かに聞いて貰えぬかもしれないのう。

 だがの、お前さん自身の言葉、即ちこの場での会話の全てを聞かれていたとすればどうじゃろうのう?」

「「「「「っ?!」」」」」

 翁の言葉に部屋の中は静まりかえる。

「みゃ、みゃさか……」

「その"まさか"じゃよ。

 儂が風を放ったその時より、この部屋での会話は全てこの集落に住む者達へ丸聞こえになっておる。」


 なあにいぃぃっっ!!、と仕掛け人である翁とその事に気が付いていたアイリス以外の者達の絶叫が木霊するのだった。



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