とある冒険者達の事情 結末編。
「ふふふ、あははははっっ!
マルス、貴方って人は何処まで面白いのっ!!」
「……俺、特に面白いことを言った覚えなんかねえんだけど。」
マルスのその反応すらも笑いを誘うのか、笑い続ける女王。
「ふふ、マルス。貴方は本当に愚かねえ。
そんな理由だけで、己の命を脅かすかもしれない私に真っ向から意見を言うし。
自分本位なのだと身勝手な言葉を並べたかと思えば、何も考えていなかったなんてアホなことを言うしっ!」
「誰が愚かで、アホだ。
つーかよ、おまっ、いや女王はそんな事しないだろう?」
「……え?」
マルスの言葉に女王は笑うことをやめて、キョトンとした表情をしてしまう。
「だってよ、女王に俺達は逆らった訳じゃあねえし、ただ単にお願いしてるだけだろ?
女王の嫌いな国の上層部にいて欲に負けて動くような輩を助けて欲しいなんて言ってもねえ。
亜人の国の中でこの国に来たい奴らだけを助けて欲しいっていってだけだぜ。」
マルスは呆れたような、困惑したような周囲の視線を物ともせずに言葉を続ける。
「それに感だけどよ、女王は懐に入れたり、気に入ったりした存在には結構甘いだろ?
女王なんて呼ばれてるけど、俺には手の掛かる気まぐれな子どもにしか見えねえけどなあ。」
静まりかえっていた周囲の者達の中で、側近達は敬愛なる主君に対して"気まぐれな子ども"呼ばわりをしたマルスへ剣呑な雰囲気を放ち始める。
「……どうやら、余程命が惜しくないらしい。
我が君の手を取らせるまでもなく、私が手を下しましょう。」
「いえいえ、執事殿も手を出さずとも結構ですよ。
私が責任持って、我が魔術で塵も残さずに掃除いたしましょう。」
女王の側に控えていたレディウスとエディが殺気を纏いながら進みでる。
「おい、俺可笑しいことを言ったかっ!?」
「理解すら出来ませんか?
我が君を侮辱しておいてっ!」
「どうやら、そんな事も分からない程に愚かみたいですね。
脳みそスッカラカンじゃねえのか、お前?」
殺気を隠すこともせずに放つ二人に顔を引き攣らせて焦り、後ずさるマルスにレディウスとエディはゆっくりと近づいて行く。エディに至っては、いつもの敬語が崩れかかっていた。
「……二人ともやめなさい。」
「っ!ですが、我が君っ!!」
「我が君、この愚か者を断ずる許可を私にっ!」
「……もう、ちょっと落ち着きなさい。
私のために怒ってくれて嬉しいわ。本当にありがとう。」
「ならばっ!」
「でも、だーめ。
玉座の間での謁見とは言え、貴方達しかいないんだし。
そんなに目くじらを立てないで。
それに、後で二人でたーっぷりと稽古を付けてあげればいいじゃない、……ね?」
側近達の中でマルスを処断する許可を欲しいと願い出たレディウスとエディを宥め、代替案としてなにげに酷い提案を女王はする。
どちらか一人の稽古であっても厳しいのに、二人同時に行うという稽古は厳しいなど生温いことが安易に予想される。
そんな事は露知らずに、命の危険が一旦は去ったことにマルスは安堵した。
「それにしても、確かに的を得た意見ねえ。
私は、まだ10歳だし子どもだもの。
気まぐれな自覚もあるし、懐に入れた者へも甘い自覚は有るわねえ。」
女王はマルスの言葉にしみじみと頷いてみせる。そして、しばらく考え込んだかと思えば悪戯を思いついた子どものように冒険者達に向けて笑顔を浮かべる。
「……いいわ、貴方達の願い叶えてあげる。」
その言葉に冒険者達は嬉しそうな顔を浮かべ、側近達は不満げな顔をした者もいた。
「ただし、条件があるわ。」
「条件?」
「一つ、この国を出て良いのは其処の獣人さんとエルフさんだけ。残りのマルスと女の人には残って貰うわ。
二つ、亜人の国を含めて上奥部の連中と連絡を取るのは基本的に禁止ね。
三つ、国を出る二人には翁とアイリスを見張り役として付けるわ。
四つ、期限は聖王国との争いが始まるまで。
五つ、貴方達が私との約束を一人でも破った場合は連帯責任で……ね?」
女王の提示した条件に、側近達も多少は納得出来たのかアイリスや翁へ何かを話しかけている。
冒険者達は、この女王の提示した条件を受け入れ、決して約束を破ることはしないと誓い、動き出したのである。




