とある冒険者達の事情 主張編。
「うふふ、マルスったらおかしな事を言うのねえ。
そんなの私が助ける理由にはならないわ。
でもまあ、未来の可能性なんて面白いことを言うのね。
……あの程度の魔物も倒せない貴方達の未来にそれだけの価値があると?」
冷たく微笑みながら女王は言葉を紡ぐ。女王にとって彼らを拾ったことなど、ただの気まぐれでしか無い。増して、国を大きくしていく上で国民は必要ではあるが自身を害そうとした亜人の国の民である必要もなかった。
「……女王陛下の言うように今の己達の価値など、陛下にとって石ころ程度もないでしょう。
ですが、未来はまだ分かりません。
冒険者としても未熟だったことは思い知らされました。
ゆえに今以上に研鑽を積み、陛下のお役に立てるように精進していくつもりです。」
女王の冷たい言葉と反応に冒険者達は、その反応は当然の物だと受け止めそれでもなお言葉を重ねる。
「役に立つ、か…。
ねえ、マルス。教えてくれるかしら?
どうして、貴方達が亜人の国のために私に願い出る必要があるの?」
「……。」
「こんなお願いをすれば、私や側近達の気分を害することなど分からないはず無いものね。
それでも、私に願い出たのは何故かしら?
自分の身の安全を一番に考えて、彼らのことなど放っておけばいいのに。」
女王の言葉に玉座の間は静まりかえる。
「確かに女王陛下の言う通りかもしれねえな。
でもな、そんなの俺自身が納得出来ねえんだよ。」
跪いていたマルスはゆっくりと立ち上がり、強い意志を込めた眼差しで女王を真っ直ぐに見つめる。言葉使いも、昂ぶった感情の影響か普段通りに戻ってしまっている。
「貴様っ!なんだその言葉使いと態度はっ!」
言葉使いと態度に対しエディの叱責の声が響く。その言葉に他の冒険者達は慌てて諫めようとするが、マルスは全てを無視して冷たい表情を崩さない女王だけを見つめ、言葉を続ける。
「俺自身は亜人の国となんざ、何の関わりもねえ。
でも長年一緒に冒険者やって来た仲間の故郷だ。
そんな仲間が故郷にいる奴らのことを思って依頼を受ければ失敗しちまうしもう散々だ。
その上、女王陛下には気に入られちまってこの国に永住が決定しちまったしな。」
「マルス…。」「……。」
亜人の国が故郷である冒険者の仲間、ギルバートとランスロットはマルスの言葉を受けて悲しげな表情をする。
「……だが、同時にこの結果は俺自身が選択した事でもある。
依頼を受けた事を了承した、俺の取った言動が何故か気に入られちまった。
全部、俺自身が決めたことだから他人の所為にするつもりはない。」
「そう、それで?
その行動の結果が、なんで亜人の国の民に繋がるのかしら?」
静かな女王の言葉に促されるように、マルスは答える。
「簡単なこった。
俺の気分が悪いからだ!」
『……は?』
マルスの言葉に、玉座の間にいた者達全員の声と心が揃った。
「……最近の若いもんの考えは、儂には理解できんのう。」
「……大丈夫です、翁。
私にも理解できません。」
「彼の言葉の意味を測りかねてしまいますね。」
「ある意味、ナギ以上ですわ。」
「……おい、アイリス。
あたいは、もうちょっと考えて発言するぞ。」
「……。」
女王の側近達は、マルスの言葉を理解できずに戸惑ってしまった。逆に冒険者達は頬を引き攣らせて、言葉も出ない様子だった。
「……なんだよ、この反応は。
俺だって、貴族とかなら別に何も言わないが巻き込まれる民はたまったものじゃないだろう。
少なくとも、闘う力がない奴が死んだら目覚めが悪いだろうが。」
「……それだけの理由なの?」
「おう。
権力者のせいで、闘う力のない奴が巻き込まれることを知りながら放置したせいで俺が嫌な思いをすることが納得出来ん!
だから、俺自身が嫌な思いをしないために願い出ただけだ。
それに、女王の不況を損ねるかもしれないとかまでは考えていなかった!」
マルスの言葉に再び玉座の間は、静まり変えてしまった。長年共に冒険者を続けてきていた彼ら3人にとって、まさかここまでマルスが状況を理解していないとは思っていなかったのである。不況を買う覚悟で3人はこの謁見に望んだというのに、考えの発案者がこのような考えを抱いていたなど夢にも思っていなかった。
彼らは覚悟した。この身一つで女王に国から放り出されるか、首を撥ねられる未来をである。
「ふふ、あはははははは!」
しかし、そんなマルス以外の冒険者達の覚悟とは裏腹に静けさに包まれた玉座の間に突然女王の笑い声が響き渡るのだった。




