とある冒険者達の事情 謁見編。
冒険者達がルシファート王国に招かれて数日が経つ。彼らの話し合いは、マルスより一つの考えが提案されたことで終わりを迎えた。彼らは、マルスの考えた提案に賭けることとしたのだった。
後日、冒険者達は側近達の立ち並ぶ玉座の間にて女王との謁見に挑んだ。
「うふふ、私に話したい事とは何かしら?」
玉座の間に緊張した面持ちでやって来た冒険者達に、女王は冒険者達が、いやマルスが何を言い出すのかと期待の眼差しを向ける。
「魔女、いや、女王陛下か?」
「あら、どれでも良いわよ?
"魔女"、"我が君"、"女王"、"黒薔薇"。
私を指し示す言葉はたくさんあるけれど、どれで呼ばれるかなんて気にしていないもの。
でも、あんまり気安い言動をすると私は気にしなくても周囲が気にするのよねえ。」
女王自身は、現代で生まれ育った記憶の影響を受けて堅苦しい言動を好まないが、周囲の側近達は己の主君を侮られることを好ましく思うはずがないのだった。
「……分かりました。
冒険者風情である己が取ってしまった無礼の数々、どうかご容赦下さい。」
その言葉と共に冒険者達は一斉に跪き、頭を下げる。その様子を見た女王は、顔を歪めてしまう。
「…面白くないわ、全く面白くないっ!
第一、頭を下げられるのは好きじゃないのよ。
だって、下げた顔がどんな表情をしているかなんて分からないじゃない。
私は、真っ直ぐに顔を見て話したいわ。」
その言葉に冒険者達の方が戸惑ってしまう。王侯貴族への礼儀として当然のことしただけで、女王は不満を漏らすのだから彼らの反応は当然だった。
「我が君、あまり無茶な要求をしては彼らも困惑してしまいます。
せめて、公的な場合の対応とお考え下さい。」
宰相であるエディが、不満を漏らす女王を諫める。
「…しょうがないわね。
でも、私的な場所では嫌よ。
それに、今日だってここには側近しかいないんだから良いじゃない。」
「我が君、しょうがねえよ。
本来なら、あたいだってこの言葉使いを治さなければいけないんだからなあ。
これから、国も大きくなるかもしれないんだ。公私はわけとかないとな。」
「むう。」
不満一杯な気持ちを訴える女王を、将軍のナギも諫め始める。二人に諫められ、渋々女王は納得するのだった。
「それで、貴方達の話に戻りましょうか。
私への謁見を望んだということは、何かお願い事でもできたのかしら?」
女王の表情は不満げな表情から、再び期待の籠もった表情へと変化する。
「……はい、陛下。
誠に身勝手な願いではありますが聞いて頂きたきことがございます。」
「そう、言ってみなさい。」
女王の許しを得て冒険者を代表して、発案者であるマルスが真面目な表情で口を開く。
「女王陛下。
亜人の国はおそらく聖王国と争う事となるでしょう。
その争いには、力なき民も巻き込まれる事となります。
そんな争いに巻き込まれようとしている亜人の国の民の中で、このルシファート王国への移住を希望する民だけでもお救い下さい。」
真面目な表情で告げたマルスの言葉に周囲は沈黙してしまうのだった。
「……お前、何言ってんだ?
なんで我が君が亜人の国の民を救わなきゃいけないんだ?」
一番始めに沈黙を破ったのはナギだった。ナギには今ひとつマルスの言葉の意味が理解できていない様子だった。
「ふむ、ナギよ。
こやつはな、例え今は亜人の国の民であったとしても、この国に我が君の許しを得て移住したとする。
そうすれば、我が君の民となるのだから助けて欲しいと言っておるのじゃよ。」
「…うん?
でも、亜人の国の民でもあるんだろう?」
「ようするに、今は亜人の国の民。しかし、未来的にはこの国の民になるかもしれない。
だから、助けて欲しいと言うことです。……まったくもって、小賢しい話しですよ。」
翁とエディには、ナギへマルスの考えを説明した。
「……小賢しいと言われても致し方ないと己でも分かっています。
しかし、女王陛下の御身を危険に晒そうとしたのは、国の上層部の判断です。
確かに上層部は亜人の国を思って行動したことかもしれません。
ですが、其処に何の欲も、思惑も無かったかと言われれば否定など出来ないでしょう。
ゆえに、何も知らずに聖王国との諍いに巻き込まれる者達だけでも救いたいのです。」
マルスは、より一層頭を下げて女王へ請い願う。
「我らが女王陛下へ捧げることができる物など、陛下にとっては価値があるかなど分かりません。
ですが、今の我らに捧げることが出来るのは貴女への忠誠と、我らの未来への可能性だけです。」
冒険者達も、側近達も判決を下す女王へ意識は向けられるのだった。




