魔女王様と冒険者達。
「うふふふふ。」
「ご機嫌ですね、我が君。」
「ここまで機嫌が良いのは珍しいよな。」
「・・・我が君が、喜んでいれば問題なし。」
『・・・。』
機嫌良くクルクルと宙を舞う私の姿を見て、アイリス達はそれぞれ温かく見守るような笑顔を浮かべているわ。対する冒険者達は、私が倒したポイズンフロッグの死体を見て絶句しているわねえ。
「うふふ。ねえ、楽しい人。貴方はなんていう名前なの?」
「うおっ!
おまっ、普通に話しかけらんねえのかっ!!」
「マルスっ!
魔女よ、すまぬ。こやつは元来口が悪いアホなのだっ!」
「そうです、魔女よ!
悪気は全くないアホなのですっ!!」
「・・・おいっ!」
私が絶句してポカンとした表情を晒している楽しい人の顔を上から覗き込むようにして、話しかけると驚いてしまったみたい。仲間に話しかけるみたいに気安い口調で私に話しちゃったからでしょうねえ、他の二人が慌ててフォローになってないことを言ってるわ。
「ふふふ、貴方達本当に面白いわねえ。
まあ、いいわ。とりあえず帰りましょう。」
「は?帰るってなにを・・・。」
「・・・えいっ!」
『え?』
辺りを魔女の魔力が包み込み、魔女の側近のアイリス達を初めとした彼ら冒険者も含め、魔女の転移魔法に包まれ、ルシファート王国へ姿を現す。・・・愚かな神官の女を除いて。
その神官の女が眼を醒ましたと同時に魔女の張っていた結界は消失した。周囲に仲間の姿すらなく、女という餌を求めてやって来ていた魔物の群れに一人放り出されたことを理解することと、喰い殺されることのどちらが早かったのか・・・。少なくとも、女の醜い断末魔がルシファート王国へ届くことはなかった。
「は?・・・うっぎゃああ!!」
うふふ、本当に楽しい人ねえ。城中に響き渡るような絶叫を上げる楽しい人。
わざと説明せずに転移魔法を発動させて、王城の中庭へ楽しい人以外は地面へ、楽しい人だけ上空へ出現させる。一瞬自分が何処にいるのか分からなかったんでしょうねえ、気が付くと同時に派手な叫び声を上げて落ちてきてるわ。
そんな彼を笑いながら地面すれすれになって浮かばせれば、楽しい人は顔を引き攣らせて真っ青になっているわ。
「な、な、何しやがんだっ!!」
「うふふ、あははははは。
だって、貴方が名前を教えてくれなくて悲しかったんだもの。
ちょっと、私の気持ちを分かって貰おうと思っただけよ?」
「ぜってぇ、嘘だっ!!」
「あら、まだ分かって貰えないのね。・・・もう一度、やっちゃう?」
「すんませんでしたあっっ!!マルスって言いますっっ!!!」
「あはははっ、ああ、もう本当に楽しいわ。」
楽しい人、マルスは本当に面白い。クルクル変わる表情に、私を恐れぬ言葉の数々。面白くて仕方がないっ!
「うふふ、今日から貴方達が住む場所だもの。
早くなれることをお薦めするわ。
アイリス、部屋の準備を。ナギとロキは彼らと一緒にお風呂に入って汚れを落としてきなさい。」
「はい、我が君。」
「ああ、楽しかったなあ!でも、歯ごたえはなかったな!
ロキっ!後で一戦付き合えよっ!!」
「・・・我が君の命でないならば断る。」
楽しそうに話し、それぞれの目的地へ向かおうとする私達を冒険者達の呼び止める声がした。
「待って貰いたい!
魔女よ、我らが住むとは一体どういうことだろうか?」
獣人の男の言葉へ私はコテンッと頭を傾げて答えてあげる。
「あら?
そのままの意味よ。だって、貴方達は私が助けたんだもの。
だから、私のものよ。でも、一番気に入っているのはマルスだから貴方達は出て行っても構わないわ。」
私の言葉に冒険者達は絶句する。そして今になって、あの女の姿がないことに気が付いたのか騒ぎ始める。
「・・・魔女よ、我らにはもう一人いたはずだ。
その者は何処に行ったのかご存じないか?」
「あらら、気が付いてなかったのかしら。
ナギの一撃を喰らった後、他の魔物に喰い殺されていたわよ?」
・・・たった今、ね。
あの女が気絶から回復するまでの間は、張っておいてあげた結界が消えるのを感じる。
だから私は、嘘はついてないわよ。・・・言ってないことがあるだけ。
「・・・そうか。」
納得するしかないでしょうねえ、だって彼らもあの女のことなんて忘れていたんだもの。
「・・・あいつのことは、俺達は何にも言う資格は無いことは分かった。
けどな、俺達がここに住む理由がわかんねえ。」
「あら、マルス。
貴方は私に言ったじゃない?
"自分はどうなっても良いから、仲間を助けてくれ"って。」
「・・・言ったな。」
「だから、貴方を"助けた"。
貴方のその"心"と"魂"に興味を持ったから、その彼女もついでに"助けた"の。
そして、あの大湿原に放置すれば貴方達は死んでしまうから"助けた"。」
「・・・。」
「貴方の願いに3回も応えたわ。
そんな貴方が私の決めたことへ従うのに何か問題があるの?」
「・・・ねえよ。」
私の、子どもにも分かるように説明する言葉に徐々に顔を俯かせていくマルスや他の冒険者達。私は、何も難しいことなど要求していないのにねえ。
そう、貴方達が私にお願いしたことを叶えたんだもの。今度は、貴方達が私のお願いを叶える番よ。・・・そうでしょう、マルス?
いつも読んで頂きありがとうございます。
20数話にして100ポイントを超えてしまいました!評価して下さった方々もありがとうございます。もっと、わかりやすく、楽しい内容が描けるように精進していきますのでよろしくお願いします。




