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最凶無比の魔女王は静穏を願う。  作者: ぶるどっく
黒薔薇の魔女王は静かに力を蓄える。
19/55

冒険者達と探し求めた"存在"。

いつも読んで頂きありがとうございます。

今回の話しの中には暴力表現が含まれていますので、苦手な方はご注意下さい。

 死に神の鎌を喉元に当てられ、絶望に喘ぐような状況であった冒険者達は聞こえてきた声の持ち主を視界に映し出し、絶句する。

 彼らの視線の先には宙に浮かぶ4人の人物がいた。


 黄金の鬣たてがみのような髪を靡かせ、自信に満ちた蒼い瞳、大柄な身体には大小様々な傷跡がある獣人の勇ましい容姿の美女。


 白金(プラチナ)の髪に、(みどり)の瞳、エルフ族の特徴である長い耳を持った侍女服を身に纏ったお淑やかな容姿の美女。

 

 密偵が着るような黒い服を身に纏い深紅の髪と瞳を持った、何処か影のある整った容姿の無表情な青年。


 そして、艶やかな長い黒髪、雪よりもな透き通るように白い肌、黒曜石のように輝く黒い瞳、紅く咲き誇り始めた深紅の薔薇のように紅い唇。退廃的な雰囲気の美貌を宿した男装の美少女。


 男装の少女がくすりと笑みを零すと、獣人の女と青年が大地へ降り立つ。

 そのまま、周囲へ集まり始めていた魔物の群れの殲滅を開始する。その魔物を相手取る彼らの強さは、この大陸に名を馳せているはずの冒険者である彼らさえ目を見張る物があった。


 彼らを餌食にしようと襲いかかってきていたポイズンフロッグさえも、怯えるように微動だにしない存在を彼らは何者なのかと考える。

 そして、思い出す。自分たちが"誰"を探していたのかを・・・。


 その事実に思い当たった冒険者達のリーダーである虎の獣人"ギルバート"は、少女を見上げ声を張り上げる。

「貴女に問いたい!

 我は冒険者パーティー"電光の牙"のリーダー、ギルバート!

 貴女は一体何者なのかっ!」

「答えるまでもなくつまらない問いかけね。

 お前達は私を捜し、求めていたのでしょう?」

『っ!!』

 眼下にいる彼らに対し、興味すら抱く事は出来ないとばかりの凍り付くような冷たい眼差しが彼らを捕らえ、美しい少女の答えに緊張が走る。


 彼等がこの絶望の大地に足を踏み入れる事になった原因とも言える、探し求めていた人物。

 どんな怪我や病すらも癒すことができる存在、忠誠を誓い従うものには"救い"を、欲に溺れ剣を向けるものには"破滅"を与える"魔女"。

 

 探し求めた存在は、多くの傷を負い、力尽きかけ、全滅してしまいそうな彼らの危機を気にも留めず、目の前で悠然と微笑んでいた。


「…魔女よ、どうか頼む!我の仲間を助けてほしい!」

 虎の獣人、ギルバートは、ヴァイパーの毒と足を切断され出血が止まらない仲間を思い魔女へ救いを求める。例え奇跡が起こり、ポイズンフロッグを倒す事が出来たとしてもヴァイパーの毒が回り、その咬み後から出血している意識を失ったアリアも、足を切断され止血を試みるもジワジワと止まる事のない出血に顔が土気色になり始めているマルスの二人を助ける方法をギルバートは持っていなかった。


「くだらない王国の命令に従って、身の程も弁えずこの大湿原に挑み、あまつさえ私に害をなそうとしていた輩をどうして助ければいけないの?」


 クスクスと嗤う魔女より帰ってきた返答は彼らにとって、痛い所を付く冷淡な答えだった。

「それに助けに来た訳ではないもの。貴方達を見学しに来ただけ。

 第一、私が貴方達を助けたとしても何の得にもならないわねえ。」

 魔女の言葉と見下されている事に我慢が出来なくなった神官、エレナが喚き始める。

「なによっ!偉そうにっっ!

 汚らわしい魔女風情がっっ!!

 お前のような卑賤な輩など、栄えある(わたくし)達人間のために全てを捧げるべきでしょうっ!!!」

 ギルバートとエルフの剣士、ランスロットがエレナに制止と魔女に対する否定の叫び声を上げるよりも早く動いた者達がいた。

 

 バキイィッッッ!!グシャンッッ!!!

 

「グッッ、ギャッ・・・ゲゴッグブッ、オォエッ」

「黙りな。てめえ如きが声を掛けて良い存在じゃあ無いんだ。

 ・・・まして侮辱するなんてなあ。・・・ぶっ殺すぞ、雌豚が。」

「我が君を侮辱する事は許されん。」

 魔女を侮辱する言葉を吐いたエレナは、ナギの腹にめり込むような豪腕の一撃を受け、身体をくの字に折り曲げる。そんなエレナの髪の毛を千切れる程の強さで鷲掴み、ロキが何度も顔面から大湿原の水分を含んだ泥のような地面へ叩き付ける。そのたびに宙に泥を拭くんだ水しぶきが上がり、女とは思えないヒキガエルのような声を上げて鳴くエレナ。

「ご、ごんなごどをしてっ!ゆるざっっアブッ」

 ゴォキイッッッ!!

「黙んな。」

 ロキがエレナの髪を掴んだまま、泥にまみれた顔を上げさせるとまだ声を出す余裕があるのか再び叫び出そうとする。そんなエレナをゴミを見るような視線で見ていたナギが、死なない程度に加減した蹴りを顔面へ放つ。ロキの手の中に千切れた髪を残し、彼女の細身の身体は泥をまき散らしながら数メートル先に着地した。


 その一部始終を制止する事もせずに詰まらない物を見るように眺め、魔女は呟く。

「・・・だから、嫌いなのよねえ。

 弱い癖に、何も出来ない癖に他者を利用する事ばっかり。

 人間の、貴族の誇りだ、権利だと、主張ばかりして自分は何もしない。

 数多の犠牲を省みず、欲望に囚われ、平気で他者を身代わりにする。

 ・・・そして、人間以外の己と違う存在を全て否定する。」

 

--暗い牢の中で"幼い少女の心"を殺し、"私"をこの世に生み出した欲に、権力に、狂喜に、血に酔った糞ども。

 

「大嫌いで、皆殺しにしたくなる。」


 冷気を纏いそうな程に冷酷な雰囲気を発しながらも、満面の笑みで魔女は呟く。


「全部、滅んでしまえばいいのに。」


 混沌と広がる虚無をその心に宿して・・・。



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