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第四章:凪の心が灯に呼ばれる
凪は気づけば、病院に行く日だけは胸が少し軽くなるようになっていた。
灯と話す時間は短い。
でも、凪が自分を偽る必要がない唯一の時間だった。
ある午後、灯は凪に紙コップの温いお茶を渡しながら言った。
「凪くんてさ、静かだけど、心の中に嵐を飼ってる感じがする」
「…なんでわかるの」
「私も持ってるから。嵐って、同じ嵐を持つ人にしか匂いでわかるんだよ」
灯は冗談めかした言い方をしたけれど、目は冗談を言っていなかった。
凪は言葉を返せず、ただ灯の指先を見つめた。
細くて、透明なキャンドルのような手。折れてしまいそうなのに、火はずっと揺れている。
その瞬間、凪は思った。
――灯は、白い部屋なんかよりずっと色を持っている。壊れやすいくせに、まっすぐに光っている。
そして、凪はその光に、救われ始めていた。




