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第二章:凪の日常のひび割れ
凪の家は、外から見ると綺麗に片づいている。
けれど実際は、生活音のない箱のようだった。
母は二つの仕事を掛け持ちで、帰宅は深夜。
父の不在は、壁に貼られた家族写真の空気を少しずつ変色させていた。
凪は母に余計な心配をかけまいと、何も話さなかった。
だから学校で息がしづらくなっていることも、教室のなかで笑いながら「このまま透明になりたい」と思う瞬間があることも。
放課後、同級生がカフェに誘ってくれても、断る理由はいつも同じだった。
「ごめん、今日は用事あるんだ」
その“用事”の正体は、病院だった。
医師は「少し休む必要がある」と言った。
凪はその言葉を真正面から受け止められず、曖昧なまま通院だけ続けていた。
学校と家庭の真ん中で、薄い氷の上を歩くような毎日。
そんな中で出会った灯は、凪にとって異物であり、しかしどこか救いに似ていた。




