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20:過去を捨て去りて

 ――私が諦めたものはあまりに大きくて、私にとっては大切な物ばかりだった。


 デリックと幸せになる未来が本当にどこにもなかったのか?

 それはわからない。わからないからこそ、考えないようにした。


 だって私は、それを手放してしまったから。

 もう取り戻すことなんてできない。できっこない。


「リープ」と叫べばいいだけだ。けれど、私にはもうそんな道は許されないのだ。


「……馬鹿だな」


 私は今でも、過去に縋っているのか。

 どこまで女々しいのだろう。こんな女、死んでしまえ。


 百度のリープの中、一度も死ぬことができなかった馬鹿女めが。


 私が自殺未遂をしたのは、あの四度目の世界だけだ。

 どうしてそれ以降死ねなかったのか……それは、ただ。


「考えるな。水面を見ろ」


 私はふと、水汲みをしていた川に目を落とした。

 するとそこには、紫の短髪を不揃いにした若い女がいる。それは私の知る私ではなかった。


 私は別人になった。

 だから、令嬢時代の過去などいらない。


 しかし気づいたら「リープ」と言いそうになっている。

 もう一度デリックに会いたくて、会いたくて会いたくてたまらなくて。


「私は魔女になる女、マレだ」


 マレガレット・パーレルは死んだ。今ここにいるのは、ただの平民であり魔女になることを望む『マレ』というただの女なのだ。

 断じて、時魔法を使うことができ、婚約者を愛するがためにその力を振り絞ってを繰り返し使っても破れた……そんな愚かな人物ではないのだから。


「魔女になる。魔女になれば、私は救われる」


 呪文のようにそう呟く。

 その言葉のおかげで、今にも崩れてしまいそうな私の心を固めておくことができた。


 魔女にさえなれば救われるから、早く魔女になる必要がある。

 だから他のことなど考えないし魔女になるためならどんな努力も惜しまない。


『………………………………』


 沈黙は私の胸に安心を与える。

 ああ、これはいい。何の苦しみもなく、ただ沈黙に体を委ねていればいいだけなのだから。悲しむ必要も泣き叫ぶこともないのだ。


「自活することも苦ではなくなって来た。私は永遠の一人を生きることができるだろう」


 もしも世界が滅んだとて、いつまでも一人でいられるのか?

 一人で生きられる人間などいない。なのに私は。


「世界が終われば、終わりさえすれば、私もきっと、きっと――」

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