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あとは媒介だけですね!

「本当、だ……」


 信じられないと言ったようなカイの声が降ってくる。


「クロム、もう少し上がれる? カイ、わたしをつかんでて!」


 そう叫んで、わたしはクロムにつかまっていた両手を離した。バッグの中に入れっぱなしになっていたスマホを取り出す。

 ヤバい、緊張で手が震える! でも落とすわけにはいかない。頑張れ、わたし!


 震える手で電源を入れ、カメラを起動する。うまく撮れなくて身を乗り出すと、カイの拘束が強くなった。

 カイを信じて身体を預け、わたしは眼下に広がる王都の姿を撮った。


 エディさんは、どうしてこんなところに魔法陣を隠したんだろう。イセルルートには空を飛ぶ手段なんてなさそうだけど、それでもだれか--他の迷い人たちに残したくて、こういった形をとったんだろうか。


 そんなことを考えていたら、カイに引き戻された。再び安定した体勢に戻る。

 カイの腕の中で一息つくと、わたしは撮ったばかりの写真を確認した。よかった、どうにか全体像が撮れてる。


「--相変わらずすごいな、その絵は。一瞬で風景が切り取られた」


 背後から覗いたのだろう、カイが驚嘆の声をあげた。


「そういえば、前撮ったよね。この世界に来た頃」


 ちょっと懐かしくなって笑う。あれから半年ちょっと経つけど、びっくりするくらい濃い半年だった。

 今年も、もうそろそろ終わる。来年、わたしはどうしてるんだろう。日本にいたときと違い、まったく想像がつかなかった。


 カイは返事の代わりに、わたしを抱きしめる腕に力を込めた。

 あたたかく、力強いそれに、なんだか泣きたくなる。


 来年も、そのあとも、ずっとずっとこの人と一緒にいたい。

 そう願うのに、ズルいわたしは家族も友達も捨てきれないでいる。魔法陣を見つけても、嬉しい反面、すごく苦しい。見つかって嬉しいのに、それと同じくらいまだ見つかって欲しくなかった。お仕事を放り出してまでみんなが尽力してくれているのに、こんなこと思うなんて最低だ。


 カイは待っててくれるって言った。ゆっくり決めていいって。

 けれど、この世界は決断を待っていてはくれないようだった。


 その後、しばらくわたしたちは、無言のまま空中散歩を続けたのだった。


 ※ ※ ※ ※ ※


 クロムをまた騎獣チェナス屋に預け(ごめんねクロム!)、ラズさんたちと約束したとおり宿に戻る。

 双子の部屋の扉をノックすると、すでに二人は部屋に戻っていた。


「ごめんね、待った?」

「アタシたちもさっき帰ってきたところよ。クロムちゃんはどうだった?」

「クロム、怒ってた。自由がないって」

「あっちでは飛び回ってたんだっけ? 明日は外に離すか? 鑑札つけてんだろ?」

「ああ。自由にさせていいのなら、そちらの方があいつにはいいと思う」


 ベッドに座ったサジさんが手招きするので、わたしはその隣に腰掛ける。


「なによ、カイ。アナタはナギちゃんを今まで独占してたんでしょ。隣に座るくらいいいじゃないの!」

「……なにもするなよ」

「せっま! カイ心狭っ!」


 ちらりとこちらを見たカイにサジさんが抗議すると、カイは眉根を寄せてそんな返事をよこした。ラズさんが爆笑する。


「カイ、サジさん友達。問題ないよ」

「友達、ね」

「……友達」

「友達か、もしくはお姉様なんじゃないの、サジの場合」


 心配性なカイからサジさんを庇うと、カイはちらりとサジさんを眺め、サジさんは微妙な顔をし、ラズさんがニヤニヤしだした。

 あれ、友達なんて思ってたの、わたしだけ⁇ 年上の人に迷惑だったんだろうか。

 困惑したわたしに、サジさんがため息とともにコツンと頭をくっつけてきた。


「アタシは、友達よりもっとナギちゃんに近いものになりたいわ」


 友達より近いもの?


「そうね……せめて親友とか」

「親友?」

一番・・仲がいい相手。なんでも話せて、一緒にいるだけで幸せな……友達」


 どうやらサジさんもわたしのことを友達と思ってくれていたらしい。よかった、ひとりよがりじゃなくて。


「親友、嬉しい!」

「大好きよ、ナギちゃん」


 ホッと胸をなでおろすと、隣のサジさんがほっぺにキスをしてきた。


「なっ! サジ、おまえ!」

「唇じゃないからいいでしょーお?」


 気色ばむカイに、サジさんがイタズラっぽく笑った。うしろでラズさんが爆笑してるけど、そんなにおかしいかな、これ?


「さて、今日の成果だけど。今のところわかったのは、エディ・マクレガーが元の世界に帰ったこと、そのとき巨大な魔法陣が広がって炎が地面を灼いたことだけだ」

「それを元にしたのか……」

「え?」

「魔法陣、見つけたの」

「「えぇっ!?」」


 わたしとカイの報告に、サジさんとラズさんが驚きの声を上げた。ごめんね、せっかく調べてくれたのに。


「どこにあったんだ?」

「ローゼンの都そのものが魔法陣だ。多分ラズが言っていた魔法陣を灼いた炎、その後を元に都を築いたんだと思う」


 カイの話に、ラズさんが青い瞳を煌めかせた。


「と、なると……旅の目的は果たしたのか?」

「いや、あと魔法の起爆剤となる媒介を見つける必要がある」


 そう、あとは媒介だけだ。

 それがなんなのかすらわからないけれど。

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