まさかの隠し場所!
ローゼンの図書館は、驚いたことにお城の中にあった。
ドキドキしながら、門番さんに身分証を提示して中に入る。王様の住んでいる棟とは違うところにあるらしいが、簡単に敷地内に入れてしまうのは大丈夫なんだろうか。テロとか心配なんだけど。
衛兵らしい、揃いの鎧を着たおじさん二人と一緒に、長い回廊を歩く。
冬のやわらかい陽射しが、ガラス窓からあたたかく射し込んで、回廊に不思議な模様を描き出していた。
『こちらです。武器の持ち込みや本の持ち出しなどは魔法で弾かれます。中での魔法の発動もできません。どちらも無理にしようとした場合は、ペナルティとして手に刻印が入りますのでご注意ください』
「カイ、武器の携帯はまずいらしいぞ。絶対収納鞄から出すなよ。ペナルティ食らうらしいぞ」
案内された図書室は、ものすごく大きかった。さすが王城の図書室。
少し埃臭い本の匂いに、不思議な気持ちになった。大陸が違っても、世界が違っても、図書室という空間は似たようなものだった。異世界にいるとは思えない。
なんらかの注意事項を告げて鎧のおじさんたちが壁際に下がると、サジさんとラズさんは資料を探しに動き出した。
わたしとカイはメモを片手に、双子の指示に従って資料を探す。背表紙や目次に書かれた読み慣れない文字を追っていくのは、結構骨が折れた。
「えっと……『ほ、の』……? これ違うや」
やっぱり言語能力って大事だよね。自分じゃ使えないチート能力なんていらないから、言語能力が欲しかったよ。一文字一文字照らし合わせるのって、ホントしんどい!
横目で双子を見ると、そりゃもうサクサクと調べてます。二人とも、斜め読み飛ばし読みなんでもこい!な感じね。
そうやって調べ物に集中していると、不意に鐘の音が耳に飛び込んできた。一つ、二つ、三つ……どうやら太陽の六刻、つまりお昼のようだった。
「もうお昼? 早いものねぇ」
手にしていた本を閉じながら、サジさんがこちらを見る。その隣でラズさんが伸びをしていた。
「二人とも、ありがとう。読むの、大変。カイもメモ見ながらでつらかった? ありがとう」
「大丈夫よぉ。アタシ調べ物得意って言ったでしょ?」
「そうそう、調べ物はサジに任せるのがいいよ」
「ナギこそ大変だったろう。お疲れ様」
互いに労い合うと、わたしたちはとりあえずお昼を食べに行こうと、一旦広げた本を片付けることにした。
衛兵のおじさんの話によると、なんとお昼は王城の食堂で食べれるらしかった。なんなの、ホントこのお城、大丈夫?
食堂には、ゴツいおっさんがわらわらといた。聞くと、騎士団をはじめ、兵士の人たちが主に使っているらしい。そのせいか、女のわたしはなんだか変に浮いている気がする。
また食事の内容は三種類しかなく、そのうちの二種類はお肉メインで重く、残った一種類が野菜たっぷりの、比較的女性の支持を得そうな内容だった。それでも量は多かったけど。
量は多いけど、やっぱり少しでも軽そうなこれかな。さすがに昼から山盛りの鶏肉のソテーや、がっつりTボーンステーキとか食べられない。
「ん〜、カイ、ナギちゃん、お昼が終わったらさ、ちょっと気分転換がてら、王都の外をクロムで飛んできたらどうよ?」
席に着き食事を始めると、鶏肉のソテーを頬張りながら、ラズさんが提案してきた。
サジさんとラズさんに任せて遊んでこいとか、たとえわたしが戦力にならないとはいえ、素直に頷けない。
「え、ダメです。わたしのなのに」
「い〜や、お兄様命令です。妹よ、さぁデートに行ってこい!」
お兄様。そういえばそういう設定でしたね!
その後、多少抵抗したものの、結局ラズさんに押し切られ、わたしとカイは別行動となったのだった。
※ ※ ※ ※ ※
騎獣屋に預けられていたクロムは、ものすごーく不機嫌だった。
訊くと、ナザフィアでは移動は馬がメインらしく、騎獣屋みたいな、クロムを預けられるような大型のお店は存在しないんだろうだ。
だから普段外で自由にしているとこが、ここにきて窮屈な場所に閉じ込められることになって嫌がっているらしい。
「ごめんね、クロム」
クロムは仕方ないな、というようにじろりとこちらを見る。ホントごめんね。
どうにかこうにかなだめて、わたしたちはクロムとともにそこらへんを散策した。
もう真冬だから顔に当たる外気が痛いくらいに冷たい。マントも服も冬物だけど、風を通すからつらいな。
「こう、上から見てると、ナザフィアと変わらないね」
ただ、王都だからか、ローゼンはすごく大きい。丸く城壁が都を囲んでいるけれど、これが見たことないくらい綺麗な円を描いている。
「すごい、壁と同じくらい綺麗な丸!」
城壁より少し小さい円を描いて、道が白く光って見える。ん? 光って?
わたしは目をこすった。改めて注視すると、城壁と道が二重の円を作っているのに気づく。円を描く道に繋がる小道が、不思議な模様を描いている。
どこかで見たその形。一瞬わからなかったけれど、とある道の形を見たとき、パズルのピースが嵌るように、それがなにか理解できた。
「カイ!」
わたしは腰に巻きついているカイの腕を軽く叩いた。
「どうした?」
「道! 壁と道! あそこ全部魔法陣!」
上空から見て初めて気づいた。
王都ローゼンは、その形そのものが帰還の魔法陣になっていたのだ。




