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もしかして:魔法陣?

「もしかして魔法陣?」

「!」

「まあ!」

「そう……なのかな?」


 上からわたし、カイ、サジさん、ラズさんの反応です。


 円の中の模様は、人物に隠れて見えない部分が半分ほどある。

 なんでわたしが模様でなく魔法陣かと思ったかって?

 それは、模様の一部に“return”って書いてあるからです! めっちゃ英語だよ! こっちの文字とは違う!


「カイ、あそこ“return”て書いてあるの、わたしの国の言葉!」

「……となると、帰還の魔法陣で間違いない可能性が高くなったな」


 厳しい眼差しでカイがステンドグラスを睨む。わたしも信じられない気持ちで眺めた。

 不完全とはいえ、こんな早く見つかるなんて。

 あれが完全な形になれば、わたし……帰れるの?


 そっと隣のカイを盗み見る。そっとその手に触れると、ぎゅっと握ってくれた。

 帰れるということは、この人と永遠に別れるということ。魔法陣が見つかりそうな今、それが現実的なものとして迫りつつあった。


 帰れる手段が見つかったとき、わたしは選ばなきゃいけない。

 ようやく繋げたこの手を離すか、懐かしい故郷を捨てるかを。


 ※ ※ ※ ※ ※


 ステンドグラスについて、詳しくはよくわかっていないそうだ。

 でも、背景として組み込まれているくらいだ。どこかに残っている可能性が高い。


「とりあえず明日から図書館に詰めましょ。資料をたどればどこかにあるかも知れないわよ」


 あの魔法陣の完成図がほしい旨を伝えると、サジさんはそう請け合ってくれた。


 そして今、わたしはカイと部屋に二人きりでいます。


 そう、すっかり忘れてたけど、ラズさんが決めた部屋割りはカイと二人部屋だったよ!

 据え付けの暖炉に熾した火がたてる音だけが、沈黙の降りた部屋に響く。

 なんかね、照れくさいというか、なんだか会話のきっかけに悩むのよ。改めて意識しちゃうというかなんというか。

 わたしはベッドに腰掛けたまま、意味もなくブーツのつま先を眺めていた。向かいのベッドに腰掛けるカイの顔が見れない。


「ナギ、魔法陣の手がかりが見つかってよかったな」


 沈黙を破ったのはカイだった。そうね、こんなに早く見つかるとか思ってなかったけどね!


「そう、ね」

「必ず帰してやるから」


 カイの言葉にカチンときた。

 帰りたくないわけじゃない。その証拠に今だって悩んでる。

 でも、こちらに残りたい気持ちの根元にある人に「帰してやる」とか言われたらたまらない。カイはわたしを帰したいわけ?と、八つ当たりに似た気持ちがむくむくと湧きあがってくる。そんなわけないとわかっていても、苛立ちは勝手に口をついて出た。


「カイは、わたしが帰っちゃってもいいわけ!?」


 口にしたあと、しまったと思った。こんなこと言うべきじゃない。特にわたしのためにすべてをなげうって尽力してくれている人には。


 慌てて口を押さえたって遅かった。口にした言葉は戻せない。


「あの、そういうわけじゃなくて……」


 じゃあどういう了見だよ、と自分にツッコミたくなる。ああ、わたしの馬鹿! 後悔先に立たずってこの前学んだばかりだというのに!


「ごめんなさい……」


 ぐるぐるしていると、ベッドが軋んだ。それとともにぎゅっと抱きしめられた。背中と頭に手が回され、きつくカイの胸に抱き込められる。


「いいわけ、ないだろう?」


 身動き取れないわたしの頭上から、カイの静かな声が降ってきた。顔が見れないから、どんな表情をしているのかわからない。


「帰さなきゃダメだって自分に言い聞かせてないと、おまえを帰さない手段を考えてしまう。今日だって魔法陣が見つかったときは言葉に詰まったくらいだ。でもな、帰したいのも本心だ。ナギ、おまえが帰りたいと思う限り、俺はそれを全力で叶えよう。ただ--」


 カイの心臓の音が聞こえる。ドキドキとうるさいくらいに鳴るそれは、きっとわたしも同じだ。


「少しでもこちらを選ぶ気持ちがあるのなら、迷ってくれるのなら、嬉しい。そしてこちらを選ぶというなら、俺ももう遠慮はしない。生涯をかけて、どんなものからもおまえを守ると誓うよ。父も、おまえが残るなら多分黙らせられる手段はあると思う。気になるならこのままナザフィアに戻らず、この大陸に残るのでもいい」

「カイ……」

「だからゆっくり決めていいんだ。焦らなくていい。どちらを選んでもいい。帰りたいなら気にせず帰っていいんだ。こちらを選んだなら、どこかに家を買って、おまえが失くした家族を二人で作ろう」


 えっと、なんかプロポーズみたいな言葉をいただきましたが、幻聴かしら⁇

 カイの手がゆるんだので、上を向く。真剣な光をたたえる金の眼差しがわたしを見ていた。


「迷っていい。泣いても叫んでもいい。頼ってくれれば嬉しいし、甘えてくれるならもっと嬉しい。ただ、選ぶことだけはおまえにしかできない」


 そう言うと、カイはニヤッと笑った。金の双眸から真剣な光が消えると、さっきまでの真剣な雰囲気がガラッと変わる。


「どうだ、こちらに残らないか? 後悔はさせないぞ?」


 あまりにも冗談めかして訊くから、つい笑ってしまった。


「考えとくね」

「ああ、考えといてくれ」


 うん、たくさん考えるね。帰るか、帰らないか。

 だから、答えはもう少し待っていて。

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