ステンドグラスに描かれていたものは?
チェックインを済ませたのち、わたしたちはラズさんに案内されて近くの食堂に向かった。こちらもミルテさんの推薦のお店だそうだ。
「わぁ、ガラスだぁ」
通りに面した壁面はガラス張りで、手漉きガラスとは言え、それでも中の様子が外からよく見えた。
むこうではよくある形態だが、ナザフィアではどの国でもあまり大きなガラスは見なかったので、なんだか新鮮に感じる。
「むこうではなかったね、おっきいガラス」
「王都の店はどこもこんなもんだぞ。まぁ、大きなガラスは運搬が難しいからな、各国とも王都くらいしか出回ってない」
なるほど。むこうでは王都へは近寄ったことなかったから知らなかった。
でも、たしかにガラスは梱包に気を遣うから、あまり遠くへは運べないんだろうな。
『いらっしゃい! おや、変わったお客さんだね?』
中へ入ると、背の高いお姉さんが出迎えてくれた。お盆の上の料理がおいしそうだ。パスタかな?
『四名だけど、席ある?』
『四名ね。少し待っとくれ!』
見渡してみると、お昼より少し早いとは言え、もう満席だった。わたしたちの後からも続々とお客さんがやってくるところをみると、評判はよさそうだ。
少し待った後に案内された席は、通りに面した奥側だった。屋外以外で明るい場所でごはん食べるの、久しぶりだなぁ。
『オススメ四つ! あと飲み物ね、麦酒と麦古酒、それに葡萄酒と……果実水を一つずつ』
ラズさんがまとめて注文を済ませる。なにが出てくるのかわからなくてドキドキするけど、なんか楽しい。
「どんな料理だろね?」
「麺料理を食べてる人間が多いから、それかもな」
ワクワクと隣のカイに話しかける。たしかに言われてみるとトマトベースのパスタを食べている人が多い。
トマトのパスタとか久しぶりだなぁ。ナザフィアでは乾麺がさほど流通してなかったから、パスタは気軽には食べれなかったんだよね。
『お待ちどうさん』
『ありがとね、お姉さん』
そうこうしているうちに、注文したものが運ばれてくる。カイの予想通りに、それはトマトのパスタだった。サラダがついていてなんかランチセットって感じだ。
男性陣はそれに加えてお酒を飲んでいる。ランチにお酒って……って思ったけれど、まわりを見ると結構飲んでる人が多いから、こちらではこれが普通なのかも。
わたし? 一人ジュースですけどなにか?
「う」
「意外と辛いのね!」
料理を口にした途端、双子が同じ動作で驚いた。カイはしれっと食べている。
「辛いのダメ?」
「そうじゃないけど、パルティアでは珊瑚樹実料理は辛く味付けなかったから、びっくりしたのよ」
サジさん曰く、トマト--リコスと言うらしい--と唐辛子は一緒に調理しないらしい。相性いいのにもったいないなぁ。
「ナギちゃんは平気なの?」
「うん、好き!」
アラビアータとか、大好きです!
即答すると、なぜかサジさんが顔を赤らめた。え、なんで⁇
首を傾げていると、カイの掌が頭をなでてくれる。
「言葉が足りないって、たまに凶器なのね」
「だな」
何故そこ、二人でわかりあってるんですか⁇
※ ※ ※ ※ ※
おいしくお昼ごはんをいただいた後、わたしたちは王都を散策した。ラズさんがガイドブック(そんなのがあったんですね!)をチェックしていろいろ教えてくれる。完全に旅行客だ。
王様がいるというお城は入れなかったけど、石造りのそれはとても立派だった。
そして今、わたしたちは神殿にきている。
「この太陽神殿は、エディ・マクレガーの寄進で建てられたらしいよ」
「寄進?」
「お金を出したってこと。ええと、ローゼルトの姫君のためにって書いてあるな。闇神に捧げられかけたエリカディア姫を慰めるために建てたらしい」
ラズさんが壁に掲げられた由来のようなものを読んで教えてくれた。
え、自分が滅ぼした国のお姫様のために神殿を建てたの?
エディさんという迷い人は不思議な人だ。悔恨? 慰霊? そこになにがあったんだろう。
「エディ・マクレガーとエリカディア姫は恋仲だったらしいわ。王位を簒奪した叔父に塔に閉じ込められ、闇神の生贄に立てられた姫を助けるために、エディ・マクレガーは英雄王セレンと立ち上がったと言われているらしいわね」
そういえばドルフィーで見た書物に“エディが姫を連れて世界を渡った”ってあった! あのお姫様って、きっとこのエリカディア姫なんだ!
それにしても、恋仲のお姫様を助けるとか、めちゃめちゃ王道な英雄譚ですね!
エディさんが建てたと言われる神殿は、そこまで大きくはないけれど、綺麗だった。過剰な意匠はないものの、品がいい感じに凝った意匠がちりばめられていて、居心地がいい。
そして“炎の魔法使い”と謳われていた彼を讃えるかのように、ところどころに炎の意匠があるのが面白かった。太陽神を奉じる神殿なのにいいのかな?
「あれはどういう絵?」
後光が射している男の人が、長いマントを引きずった金髪の男の人に剣を渡している場面のステンドグラス。その隣で黒髪の女性に傅いている、これまた金髪の男性。
『あれは、太陽神から神剣クラウ・ソラスを賜る英雄王と、姫を助ける炎の魔法使いの絵ガラスですよ』
振り返ると神殿の人らしいおじさんがいた。白く長い服を着ている。ヴァチカンの人みたいな雰囲気だ。
『神官様、これは英雄譚の一節を絵にしたものですか』
『さよう。エディ様が親友である英雄王と、愛する姫君のために作らせたと言われるものです』
ニコニコと、人懐こい笑みを浮かべておじさんは話す。このステンドグラスについての話かな? 通訳してほしくて、わたしはサジさんの袖を引いた。
「なんて?」
「あれが太陽神から英雄王セレンが神剣クラウ・ソラスを受け取っている場面で、あっちが炎の魔法使いエディがエリカディア姫を助けている場面だそうよ。エディ・マクレガーが作らせたんですって」
サジさんがステンドグラスを指差しながら通訳してくれる。
わたしはその指を追いながら視線を動かした。
「あれ!」
ステンドグラスは五枚あった。
剣を受け取っている場面、お姫様を助けている場面、魔法を使っている場面、三人の男性とお姫様が描かれている場面、そして……
お姫様と魔法使いが、円に囲まれた図形を背景に、見つめ合ってる場面。
あれって、もしかして魔法陣てやつだったりしない⁇




