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カイが容赦ありません!

 その後、わたしは馬車に戻らずに、カイとクロムのところへ行った。

 木陰で雪を避けるように寝そべっていたクロムは、わたしの姿を見た途端、立ち上がって飛んできた。


「クロム!」


 ぎゅうっと抱きつく。クロムは前脚でわたしを抱きかかえると、べろんっと顔を舐めてくる。非常に痛い。巨大なネコ科を舐めちゃダメだ。


 クロムはわたしを離さないまま、尻尾でカイを叩いた。力一杯振られたそれは、鈍い音を立ててカイの腕に当たる。クロムなりの抗議の行動のようだ。


「クロム、会えて嬉しいのはわかるが、返せ」

「ガァッ」


 クロムの威嚇もものともせず、カイはクロムの前脚の囲いから、器用にわたしを引き抜くと再び抱きしめてくれた。クロムの恨みがましい視線を受けながら、それでも嬉しさの方が先に立つ。


「ナギ、寒くないか?」

「うん、カイがいるからあったかいよ」


 実際くっついているのであったかいのだが、そう答えた途端、カイが口元を手で隠して横を向いた。


「おまえな、ホント凶悪だよ」

「凶悪……なに?」


 意味のわからない言葉を尋ねた途端に、また抱きすくめられる。


「わざと言ってるんじゃないからタチが悪いよ。それ、他の奴に言うなよ」

「なんで?」

「キスしたくなるから」


 言うや否や、カイは身体を屈めてキスの雨を降らせてきた。瞼に、額に、唇に、優しく激しく降ってくるそれに、息ができない。

 待って、ホント待って、いきなりスイッチ入るとか、恋愛初心者のわたしには刺激が強すぎます!


 あわあわしているわたしを見かねたのか、クロムがまた尻尾パンチをカイに食らわせた。

 うぅ、クロムありがとう……。


 そして今、わたしはクロムに凭れて座るカイの膝の間に抱き込まれてます。頭上にカイの頭が、右肩付近にクロムの鼻があって、うん、なんだか人気者みたいだね、わたし! 一月分を取り返すように密着されてるよ!


「雪降ってるのにあったかいとか、不思議だね」


 雪がちらつく外にいて寒いはずなのに、カイとクロムの体温であったかいなんて、ホント不思議だ。

 そう思ったわたしは、ドキドキをまぎらわすようにカイに話しかけた。体勢的にも心情的にもカイの顔を見るのが難しくて、視線は体育座りをした自分の膝だったけど。

 「話すときは人の目を見なさい」って躾けられてきたし、それはもっともだと思ってたけど、ごめんなさいお母さん。今はなんか無理です!


「ああ、あったかいな。このままずっとこうして雪を眺めてるのもいいな」


 このまま……えっと、それは一晩中ってこと⁇

 その発言に驚いたわたしが顔だけを動かして背後を窺うと(だってお腹の前にカイの腕がまわってて動けない!)、カイは今までにないくらい甘い笑顔を浮かべてわたしを見ていた。うぎゃ!

 待って〜、待って〜カイ、初っ端から飛ばしすぎないで〜。心臓がついてかないの! 息吸えなくて死んじゃう!


 実は、恥ずかしいことに、わたしは恋愛初心者だ。

 高校までずっとアヤちゃんとべったりで、彼氏を作ったことなんてなかった。毎月飽きもせず告白されるアヤちゃんを見て、すごいなーなんて他人事のように眺めていただけ。背が高くて色素が薄い、ハーフ美人なアヤちゃんはモテても、チビで肉付きの悪いわたしは子ども扱いされるだけで、常に恋愛対象外だった。


 だから、まさかわたしを選んでくれる人がいるなんて思わなかった。嫌われてないってわかって、つい口をすべらせて勢いのままに告白しちゃったけど、同じ想いを返してもらえるなんて思ってなかった。


 両想いって、すごく幸せだけど、心臓に悪いんだね。初めて知ったよ!


 でも、片想いよりよっぽどいい。常に心臓がぎゅーっとして、ドキドキして、赤面しっぱなしだし、挙動不審になるけど、それよりもたくさん嬉しくて、幸せで、愛しくてどうしようもないから。


「ナ〜ギ」


 でもね、お願い。

 色気だだ漏れで、ことさら甘い声でわたしの名前を呼ぶのは、髪にキスして、優しい目で笑うのは、少し手加減してください!

 今わたしが死んだら、原因は心臓麻痺で、犯人はカイ、あなただからね!?


 赤面して身悶えるわたしに、背後のカイがおかしそうに笑うのがわかった。カイの胸にくっつけた背中から、振動が伝わってくる。

 くっそう! カイめ! ホント覚えてろよ!!

 胸の内で悪態をついて握りこぶしを作ったわたしだったけど、赤くなった耳にカイがキスしてきてまたあわあわしてしまった。


 ねえ、誰かこの人とめて〜〜!!

カイさん暴走しすぎです。

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