探し物、見つけた?
マナツィア。たしかこの大陸を構成する国で、まだ行ったことのない最後の国……だったよね。どんなところなんだろう。
まぁ、観光するわけじゃないから、今まで来たパルティアもラクトピアも詳しくはわかんないんだけど。ちょっと残念。
「マナツィア、行く前、ドルフィー行く?」
「ああ、約束したしな。ただ、長居はしないぞ」
少し不安になったので念押しすると、一応は寄ってくれるようだ。ロイユーグさんのことがあったからダメって言われるかと思った。
「うん……ありがとう、カイ。ワガママ、ごめんね」
「気にするな。まあ正直あの女にそこまでしてやることはないとは思うがな」
カイ、なんだかんだで根にもってる……? 好みじゃなかったのかなぁ。あんな巨乳美人さんに言い寄られても興味示してなかったもんね。一体どんな人が好きなんだろう。訊いてみたいような、訊くのが怖いような。
わたしは改めてカイの様子を窺った。
カイにとって、わたしはどんな存在なんだろう。どう思われてるんだろう。助けに来てくれたし、嫌われてはいないよね?
ああ、でも義務感で助けに来てくれてたらどうしよう! もしくは、子ども扱い? うわ、あり得るかも! やだ、ただでさえ一回り離れてるのに、中学生くらいに思われてたら、完全恋愛対象外!
え、そしたら訊いてみる? カイ、どんな女性が好みなの? 見た目も中身も大人の女性ですね、三十以上の……とかなったらどうしよう! もうダメだ! 逆立ちしても無理! 年齢差は埋まらないし、コンプレックの童顔は、日本人であることも加算されてさらに子どもっぽく見えるもの!
一旦気になったらたまらない。わたしは一人ぐるぐる思い悩んだ。
「……ギ、ナギ!」
「はっ!?」
「大丈夫か? 」
気がついたらカイが心配そうに覗き込んでいた。一瞬で顔が熱くなる。うわぉ、心構えなしのアップは困ります!
「悪い、無理させたな。もう寝ろ」
「いや、え、平気……」
抵抗しかけたが、カイに押し切られ、結局わたしは会話を切り上げて眠ることになった。
クロム、ブラッシングは明日でお願い……。
※ ※ ※ ※ ※
さて、カイを拝み倒した甲斐あって、翌々日、わたしはドルフィーのライナさんのところへ戻った。やっぱり普段なら一日はかかる距離だったんだね……無理させてごめん、クロム。
現れたライナさんパパに、カイは非常に面倒くさそうな態度で部屋のことを伝える。すみません、怒ってるのに通訳お願いして。
「わかったか? こいつがあんなところに閉じ込められるのは可哀想だと言わなきゃ、俺はここにはこなかった。あんたは娘が一生見世物にされるのに耐えられるのか?」
「すまない、恩にきる。お嬢さんも娘の代わりにつらい目に遭わせてすまなかった。詫びと言ってはなんだが、セントルに訊いたところ君たちは調べ物のためにこの街へ来たとのことだね? これから図書館に連絡して、普段閲覧禁止で閉架書庫に入れてある本も見せるよう言っておく。少しでも調べ物の役に立つといいが……」
ライナさんパパは深々とお辞儀をした。わあ、謝られちゃった! でも、これでライナさんはあの鳥かごに入らなくてよくなった……んだよね⁇
わたしはカイを横目で見た。ライナさんがこの場にいないせいか、話が早く済んで満足げだ。
「それは助かる。行こう、ナギ」
ライナさんパパの申し出に乗り、わたしたちは出立する前に、本来の目的であった調べ物をすることにしたのだった。
「カイ、ありがと。安心した」
「そうか、いや、おまえが安心できたならいいんだ。さあ、さっさと調べ物をして、この街を出て行こう」
屋敷を出て(今回は無事に、すんなりと出れた!)、わたしたちは図書館へ向かう。潮の香りに、わたしはここが港町だということを思い出した。あー、お魚食べ損ねちゃったな。
ドルフィーの図書館は、ホースクルのそれよりだいぶ小さかった。あっちが市営の図書館としたら、こっちはその分館? そんな感じだ。
ライナさんパパから持たされた手紙を見せると、話が通っていたようで、直接書庫の方へ通される。
気を利かせてくれた司書さん(この人はもっさりと違っていい人だった!)によって、わたしたちは人目を気にせず調べることができそうだった。
どれくらい探していただろうか。なにかを見つけたらしく、カイが色めきだった。
「ナギ」
呼ばれてカイの手元を覗き込む。うん、まったく読めませんな!
「これは、“炎の魔法使い”エディ・マクレガーの記録だ。彼が活躍したのはイセルルート大陸の方だったが、どうやら彼の仲間がドルフィーの人間だったらしい」
エディ・マクレガー?
なんだっけ、過去にいた迷い人の中でも、その人とエレアノーラって人だけが魔法を使えたとかって話だっけ?
わたしはカイの言葉の続きを待った。
「これは、ローゼルト王国を滅ぼした後、単身ナザフィア大陸に戻ってきたレイノート・ハーウェルが、綴ったものだ。……いいか、よく聞け」
「はい」
「“エディが姫を連れて世界を渡ったので、私は国に戻ることにした。そして、彼の真実が埋もれる前に、ここに記しておきたいと思う--”」
“エディが姫を連れて世界を渡った”
今、そう言ったよね?
わたしはカイと顔を見合わせた。




