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かごの鳥は自力で逃げますよ!

 窓から外を眺めていたら、背後で扉の開く音がした。

 慌てて振り向くと、幸いにマシュマロマンではなく、制服を着たおばさまだった。


「お食事です。また、湯浴みのお手伝いをいたします」


 手に持ったトレイを、テーブルに置く。トレイには、パンとスープ、魚料理が乗せられていた。魚とか久しぶり!

 若干久しぶりに見る魚に気を取られていると、メイドさんらしきその人は、爆弾発言をかましてくれた。


「夜に旦那様がお見えになりますので、見苦しくないよう身支度を整えさせていただきます」


 夜? くる?

 わたしは頭が真っ白になった。あの変態オヤジ、なにする気!?

 そぞおっと背筋に冷たいものが走り抜け、わたしは鳥肌のたった腕を抱きしめた。嫌だ、それだけは断固拒否する!


 もうカイを待ってなんていられない。ドルフィーからイザフォエールまでどれくらいかかるかわからないけど、待っていた間にあの変態の毒牙にかかるなんて、死んでも嫌だ。


「お風呂、わたしできる。人イヤ。大丈夫」

「そうは言われましても……」

「イヤ。ダメ。心準備ほしい」


 もてる単語とジェスチャーを駆使して、わたしはどうにかこうにか自由となる時間をもぎ取ることに成功した。


 メイドさんが出て行くのを見届けると、わたしは部屋にある方の椅子をお風呂に持ち込む。お風呂に入るフリをするにあたって、クロゼットからの逃亡案は捨てたのだ。


[お願い、届いて……!]


 爪先立って換気口の蓋に手を伸ばす。

 あまりのことに神様も憐れんでくれたのか、それはどうにかわたしでも届くことができた。

 あとはそこに登るだけ!


 ……どうやって登ろう⁇


 今の時点で爪先立ってるのに、身体を換気口の上に持ち上げるなんてできない。

 考えたわたしは、クロゼットにあった低い椅子もお風呂場に持ち込んだ。部屋の椅子よりそちらの方が大きかったので、最初に持ち込んだ椅子の下に重ねる。不安定だけど、ないよりはマシだ。


 そうやって、どうにかこうにかわたしは換気口からダクトへ移動することができたのだった。


[うう、埃っぽい……狭い〜]


 途中で動けなくなったり、出口から出られなかったりしたらどうしようと不安になりつつ、わたしは移動する。このときばかりは小さな自分の身体に感謝した。だってどうにか進めるし。


 しかし悪いことは重なるもので--外に向かってついている換気口は、どうやっても人が出入りできる大きさではなかった。吹き込む涼しい風に顔をなでられながら、わたしは愕然としていた。


 出口はない。どうしよう。考えろ考えろ。どこかに出れるところはあるはずだ。わたしは辿ってきた道を思い出す。換気口、換気口……。


[そうだ、他の部屋なら外に出るベランダとかあるかもしれない!]


 わたしは元来た道を、後向きで進んだ。方向転換するようなスペースないしね……。うう、閉所恐怖症になりそう。


 しばらく行くと、元の部屋とは違う部屋の換気口にたどり着いた。上から部屋を窺ったところ、どうも人気はなさそう。

 そっと蓋を外して室内を探ると、やっぱり無人のようだった。おあつらえ向きにベランダもある部屋だ。


 映画の主人公のように格好良くはなく、むしろ落下と言った方がいいような降り方をする。結構おっきい音がしちゃったけど大丈夫かな? 心配になったけれど、逃げるのが先だ。

 わたしは掃き出し窓に駆け寄ると、手早く鍵を外した。そこは二階のベランダのようだった。よし、これなら逃げれるかも! 神様、ありがとう!


 外に出ると、もうだいぶ暗くなってきていた。ヤバい、変態オヤジは夜にくるとか言ってたよね? いや、でもご飯を食べる時間とお風呂に入る時間をくれるはずだろうから、まだ大丈夫なハズだ。あ、ご飯食べてくればよかったかも。


 不安を振り切るために深呼吸を一回すると、わたしはベランダの柵に足をかけた。

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