軟禁の次は監禁ですか⁉︎
光が消えると、そこは見たこともない部屋だった。
「なんだ貴様は!」
いや、それはこっちが訊きたいよ、ウェリン様。
わたしは勝手が狂って慌てふためくマシュマロマンを睨みつけた。
「勝手連れる、ダメ! わたし戻すする!」
どうやらライナさんに道連れならぬ身代わりとして、立ち位置を差し替えられた模様。わたしを引っ張ってきて、かつ自分は逃げるとか、すごい腕力とスキルです、お嬢様。いや、今は感心してる場合じゃなかった。
「あの礼儀知らずの若造の連れか。水の守護石持ちとは、変わった娘よ」
「カイ、ねえ、カイのところ、戻すする!」
連れてこれたなら元に戻せることもできるはず。
わたしははっしとウェリン様を睨み続けた。
一方ウェリン様は、しばらくわたしを眺めていたが、なにかを思いついたらしくニヤニヤしだした。わっるい顔! 絶対ロクなこと考えてないよ、あれは!
「……くく、貴様を使ってあの若造に一泡吹かせるのも面白かろう」
「泡?」
時代劇の悪代官のような、わかりやすすぎる悪役な表情で、ウェリン様が近づいてくる。
「なっ……」
「さあ、どうやっていたぶろうかね? どうやったらあの若造が泣いて許しを請う? あいつが我が花嫁にしたことすべてを貴様にしてみようか?」
顎に手をかけられて無理やり上を向かせられた。手汗でじっとりした指がめちゃくちゃ気持ち悪い! そりゃライナさんも嫌がるさ! わたしも嫌だよ!
「カイ、ライナさんなにもしてない!」
腹が立ったので、顎にやられた手をはねのけがてら、わたしは反論を試みた。
だってすべて誤解だし。わたしたちは巻き込まれただけだ。カイだってライナさんの誘惑を全部はねのけてたし。
「とりあえず迷い込んだ小鳥には、鳥かごに入っていてもらおうかな。喜ぶがいい、わしがライナのために誂えさせた豪華なかごを貸してやろう」
鳥がどうしたって? なにに入るの?
そのときはそんな風に思ってました、わたし。
だって本当に鳥かごに入れられるとは思ってなかったし!
この鬼畜変態オヤジめ〜〜!!
そうして、わたしは金色の檻に閉じ込められたのだった。軟禁の次は監禁ですか!
※ ※ ※ ※ ※
趣味の悪い檻に閉じ込められたわたしは、どこか逃げられるところがないか探してみることにした。幸い、監視はついてないようだし。
金の格子が嵌った窓を見る。格子は内側に嵌っているので、外開きの窓を開くには問題ないようだった。
一方廊下に通じる扉側には、凝った意匠が施された金の格子が、部屋の幅いっぱい広がっている。この部屋に入ってきた人は、ちょうど中にいるわたしが鳥かごに入っているように見えることだろう。
風は通すけど人は通さない。なんという悪趣味な部屋だ。あのおっさん、許さん!
一通り憤ったところで、わたしは扉側の格子を調べてみることにした。パッと見わからないけど、このどこかにわたしが入れられた箇所があったハズだ。たしか、薔薇の意匠が凝った箇所。
[あった!]
あった。けれど、やはり開けられそうにない。ピンとかあっても無理かな? て、まずピンとか持ってなかった。
[この扉はなんだろう?]
格子の内側にある二つの扉を開ける。一つはお風呂とトイレだった。うん、たしかに監禁するのにその二つは必要だよね。
で、もう一つはクロゼットでした。ずらっとライナさんに似合いそうなふわふわひらひら系の可愛いドレスがかけてある。パッと見でも、一枚一枚が豪華なのがよくわかる。布も仕立ても。
[どこから出よう……]
扉も窓もダメだとなると、どこだろう。映画とかで見る脱出ルートは、隠し扉……はないだろうな。うっかり見つけられたら逃げられちゃうし。そうなると、換気口?
[あったぁ!]
異世界でも換気口は設計時に組み込まれているようだ。そんな換気口は、クロゼットに一つ、お風呂場に一つあった。お風呂場は足場がないので、逃げるとしたらクロゼットかな。
わたしはクロゼットにあった椅子を、換気口の真下に持って行った。これは靴を履くためのものなのかな? 低めの椅子なせいか、残念、手が届かない!
[ちょっと作戦練らないとダメかも]
今は人目もありそうだし、逃げるには適してないかも。夜中とか、明け方のがいいだろうか。
カイの助けを待ってもいいんだけど、なにもしないで待つのも気になるし、なによりマシュマロマンが怖いので早くここから離れたい感じだ。なにされるかわかんないし、人質として盾にされてカイになにかされるのはイヤだし。
うーん、やっぱ外には出てたいよね。きっと来るとしてクロムと来るだろうし、外にいた方が逃げやすそうな気がする。庭に隠れる? 街に隠れる? 街だと他の人に被害が及んだりするかもだし、あまり人がいないところの方がいいよね。
[外にいれば、クロムが見つけてくれたりしないかなぁ]
カイの指笛の音を聞きつけて来てくれるし、わたしが声を上げたら来てくれたり……しないかなぁ。難しいかな。ティガンの生態がよくわからないので、断言ができない。
とりあえず外に出る。できたら敷地外。ああ、でも行き違いになったら困るかな。やっぱり待った方がいい?
わたしは窓を覆う格子に手をかけてため息をついた。




