表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/122

巨乳美人さんとの遭遇!

 わたしたちの前に飛び込んできた女性は、勢いよくカイの胸に飛び込んだ。


「助けてください!」


 ふんわりとした金髪を振り乱して、涙目ですがりつく。ヤバい、めちゃくちゃ可愛い。蒼い目に涙を含んだ長い睫毛がけぶるようにかかってる。わたしが知る中で一番美人さんなのは幼なじみのアヤちゃんだけど、凛とした美人のアヤちゃんとは趣の違う、可愛い系の美人さんだ。


「おい、その女を渡せ」

「なんだか知らんが、穏やかじゃないな」


 わたしを背中に庇ったまま、カイは美人さんを脇に退けて、彼女を追っていたゴツいおっさん三人に対峙する。美人さんは怖いのか、メロンくらいの大きな胸を押し付けて、カイの腕に抱きついていた。カイ、役得だね……。


「なぜ彼女を追う?」

「その女はウェリン様の婚約者なんだよ。婚約者が会いたいって言ってんだ、連れてってなにが悪い」


 ウェリン様? ウェリン様のなんだろう? わたしは新しい単語を聞いて、カイの広い背中から首を伸ばしておっさんたちを見る。

 彼らはゴロツキっぽい容貌をしていたが、意外にも服装は仕立てがよさそうだった。ウェリン様とかいう人ってお金持ちなのかな?


「ライナ、抵抗していないで早く来い。ウェリン様がお待ちだ」


 一番エラそうな、頭髪の寂しいおっさんががなりたてた。ウェリン様とやらも、そんなに待ってるなら自分で迎えにくればいいのに。


 巨乳美人さんはイヤイヤと首を振って、ぎゅうっとさらに強くカイにしがみつく。えっと、わたしはどうしたら。カイが戦えるように彼女を保護したほうがいいのかな? 巨乳美人さんがくっついてるの、利き手だし。


「あの、こっち、くる?」

「いいえ、いいえ! 結構です!」


 あれ、断られた。たしかにわたしよりカイにくっついてたほうが安全ぽいけど、そんなにくっつかれたら動くに動けないんじゃ。うーん。


「悪いが、急いでいる。可哀想だが、家と家のことに関わっている暇はない」


 ええー! 予想外にカイが突き放した!

 巨乳美人さんは心底驚いたらしく、目と口をぽかんと開けてカイを仰ぎ見た。わたしも驚いたよ! まさか突き放すとは!


「そんな! お願い、わたくしを助けてください! あんな奴と結婚させられるなんて、我慢できない!」

「……すまない」


 たしかにわたしたちはあまり他者と関わらないほうがいい。カイが断ったのは、わたしのため……なんだろう。わかってる。わかってるけど、でも!


「カイ、ダメ? 助けるの、ダメ?」

「ナギ」


 この世界のことはまだよく理解できていない部分もあるが、でもこんなにイヤがってるのに無理強いするなんてあんまりだ。


「ナギ、無理だ。そこまで深入りはできない」


 おおう、取りつく島もありませんな!

 カイは巨乳美人さんから腕を引き抜き、そのままわたしだけを引っ張って行こうとした。


「カイ、待って! おっさん、どうしても行かないダメ? 女の子イヤ言う。悲しい」

「なんだ? 片言? ナザフィア大陸の奴じゃねえのか。ウェリン様はなあ、大層偉い方なんだ。イザフォエールの領主と言えばわかるか?」

「イザフォエール?」

「ナギ、話に乗るな。行くぞ」


 リーダーっぽい薄毛のおじさんにやめてほしいと懇願したところ、カイに怒られた。

 しかし巨乳美人さんは必死だった。カイに取りすがると、泣き落としにかかる。美人はなにしても絵になるなぁ。


「一緒に! わたくしも一緒に連れてってください! ここにいたらお父様に無理やりにでも嫁がされてしまう……! お願い、料理でもなんでもしますから!」

「いや、料理はこいつが得意でな。間に合っている。第一貴族間のやりとりに嘴を挟む気はない。行くぞ、ナギ」


 カイさん、ブレません。断固拒否の姿勢のまま。

 うん……たしかにわたし無茶言ってるよね。一時の感情で助けても、責任なんか取れない。

 心苦しいけど、ごめんなさい、巨乳美人さん。自分のことで手いっぱいなわたしには、あなたを助けてあげられない。


「間に合って……ああ、ロリコンなの? だからわたくしの頼みにも動じないの⁇」

「なるほど、ニイさんロリコンか」

「違う!」

「カイ、ロリコンてなに?」


 ああ、新しい単語がまた。ロリコンてなによ。

 なんだかわからないが、カイは多少なりともダメージを受けたようだった。


「こいつは成人しているし、そういう間柄でもない。とりあえず、あんたらも一旦時間を置いたらどうだ。花嫁は情緒不安定なようだし」

「う……く。たしかにニイさんの言うことも一理あるな。ライナ、またくるぞ。次は覚悟を決めておけ。てかその嬢ちゃん成人してるのかよ! ありえねえだろ」

「イヤよ!」


 薄毛のおじさんは巨乳美人さんと睨みあうと、背を返して去っていった。一旦引いてくれたようだ。


「……ふう。とりあえず助かったわ。あなたたち、名をなんと? 旅の人のようだけれど、宿は決まっている? よければわたくしの家にいらっしゃい」

「いや、ここへは単に立ち寄っただけだ。泊まる気はないので、申し訳ないが失礼させていただく」

「そう言わないで。せめて食事でも。助けてもらってお礼もしないなんて、このライナ・ハーウェルの名折れだわ」


 押しの強い巨乳美人さんは、カイの腕を引っ張って行こうとした。カイは眉間にしわを寄せる。威圧してどうするんですかあなた。


「ちょっと、あなたどこ行ってたのよ! 主人を置いてくなんて従者として失格よ! さあ、お客様よ。お連れして!」


 巨乳美人さんは遠巻きにしていたヒョロいお兄さんを見つけると、カイをそちらに押しやった。


「すみません、ライナ様! あそこの家には逆らってはいけないと、旦那様が……。ああ、お客様ですね、どうぞどうぞこちらへ。いえ、お断りにならないでください。私、ひどく叱られてしまいます」

「知るか。付き合ってる暇はないんだ」

「付き合わないとお父様に言ってこの街から出さないようにしてもらうわよ」

「可愛らしいお嬢さん、ではこちらへ。さあさあさあ!」


 ヒョロいお兄さん、予想外に力が強い! カイにかなわないと見るや、わたしにターゲットを移したお兄さんは、無理やり連れて行こうとした。

 ちょ、拉致されそうな人を助けたら、今度はわたしが拉致られるの⁇

 助けて〜〜!


 結局、わたしを盾に取られたカイも、不承不承付き合う羽目になったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ