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これは断じてウサギではない!(自己暗示)

 昼食を終えると、ふたたびクロムに乗って旅立つ。今度はスカートの下にもともと履いていたパンツを履いたので怖くない。カイはちょっと気にしてたみたいだけど、わたしが動じないのでそういうものだと納得したのか、なにも言わなかった。


 だんだん空の色が変わってゆく。青からピンクがかった紫、藍色。やわらかなグラデーションを経て、それは漆黒の闇に変わった。


[うわ、お月様がふたつある〜!]


 昨晩は宿で泊まったので気づかなかったが、この世界は月が二つあるようだった。青っぽい月とピンクの月。わかりやすくファンタジーだ。太陽が二つだと暑くてかなわないが、月が二つなら綺麗なだけで特に支障はなさそうだ。


「双月だ」

「双月?」

蒼月フェリア紅月シュナ太陽神マルクトの双子の妹だと言われている」


 わたしが月を仰ぎ見ているのに気づいたカイは、月について教えてくれた。聞き取れはするんだけど……なに言ってるのかほぼわかんない。“双月”っていうのが月のことだとしても、その後の“フェリア”とか“シュナ”っていうのはなにを言ってるのかな? 人の名前っぽい響きだけど、そうとも限らないし。

 あーあ、早く言葉を覚えたいなぁ。


 日が暮れたのに合わせて、クロムも降下した。民家の灯なんかあたりにない。今夜は野宿のようだ。


 地上につくと、カイは焚き火を起こすことから始めた。火種はもちろんクロムが担当している。

 火であたりが照らされると、カイはおもむろに鞄から四つの蒼い結晶を取り出した。おじいちゃんからもらった石の色に似ているそれは、ひとつひとつがわたしの掌くらいの大きさだった。

 カイはその結晶を、今夜のキャンプ地を囲むようにして配置する。光るわけでもないそれは、なんに使うのか見当もつかない。


[なぁに?]

「結界石だ。野宿はどうしても無防備になるからな。魔獣避けだよ」

「結界石……魔獣避けだ」


 復唱してみたものの、これまたわからない。カイは指差したものの名前をはじめに言ってくれてるようなので、“結界石”っていうのがこの石っぽいんだけども、その後の効能説明みたいのはちんぷんかんぷんだ。うーん、むこうの世界にないものは推測するのが難しいなぁ。光らないということは、虫除けとかそんな感じかな?


 夕食の支度はわたしが担当させてもらった。とはいうものの、食料が干し肉とパンしかないしな……調味料も岩塩のみ。ちょっとどこかで調達したいものだ。


「ナギ、ちょっとウサギでも獲ってくるよ」

「獲ってくるよ?」


 お昼に摘んでもらった野草を探してまわりの草をかきわけていると、カイがそう言ってクロムの側に寄る。


「クロム、ナギを頼む」


 カイが鼻面をなでると、クロムはくわぁとあくびをひとつして、わたしのほうへと歩いてきた。わたしの名前と“よろしく頼む”と同じ単語が入ってたし、護衛を頼んでくれたのかな?

 クロムがわたしの側へきたのを確認すると、カイは剣を持ってどこかへ行ってしまった。んん? またキノコとか、なにか食材を探してきてくれるのかな? だとありがたいんだけどな。


 カイを待つ間、わたしはお湯を沸かしてお昼と同じスープを作っていた。ネギみたいな野草はちょいちょい生えていたので、採取に困ることはなかった。むこうの世界のローズマリーとかタイムとかに似た野草もあったので、カイに食べられるかどうか聞いてみようと脇によけておく。ハーブと同じなら、乾燥させて携帯できるだろうし。


「ナギ」

[おかえりー……ぎゃああっ⁉︎]


 戻ってきたカイは、うちわみたいな丸い耳を持つウサギの死骸を片手にぶら下げていた。


「マルミミウサギだ。これは肉を熟成させないでもなかなかうまい」


 ぶらん、とカイはウサギを高く掲げる。いやいやいや! 無理、それ調理するのは無理っ!


 ぶんぶんと勢いよく首を振るわたしを見て、カイはウサギとわたしを見比べた。


「ウサギは嫌いか? いや、姐さんとこで食べてたよな。もしかして捌く前の肉は見たことないか?」


 青ざめていたのだろう、わたしの顔を見てカイが困った顔をした。くるりと背を向けると、少し離れたところで背を向けたまま腰を下ろす。ナイフを取り出したのが見えたので、どうやら捌くようだ。


 しばらくするとカイは哀れなウサギを解体し終わったらしく、土を掘って不要なものを埋めると、ブロック肉にされたウサギを持って戻ってきた。


「これなら触れるか? 食べれる?」


 固まったままのわたしに、カイが訊く。ウサギ……いやいや、これはスーパーで売ってる肉と一緒! さっきのは忘れよう。忘れろ忘れろわたし‼︎ これはパックから出したての肉!

 肉を調理するなら焼くのはどうだ。あ、さっき見つけたハーブもどきについて訊こう。


「か、カイ! これ、食べれる?」


 取り繕うように、慌ててハーブもどきを差し出すと、カイは指でつまんで匂いを嗅いだ。


「イグゼの葉と、ルースか。大丈夫、香辛料だ」


 頷いたので食べれるのだろう。ローズマリーもどきがイグゼ、タイムもどきがルースというらしい。

 ええい、女は度胸! 生きるためにはやるしかない!

 わたしは気合いを入れると、可哀想なウサ……もとい、おいしそうなお肉に岩塩とイグゼを擦り込んだ。さあ、わたしたちの血となり肉となるがいい!


 ……結論。ウサギはおいしかったです。まる。

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