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魔法使いの夢は儚いものでした!

 目の前にはものすごく明るい光球がいくつも浮かんでいた。おおっ、すごい! さすがファンタジー世界! 魔法もあるんだねー!

 てか、今魔法を使えたってことは、わたしの職業魔法使い⁇ これで世界を渡れちゃったり⁇ 帰る魔法とかってないのかな⁇


[魔法ってすごいね! 他にも呪文あるの? たとえば元の世界に戻る呪文とか!]

「どういう……ことだ⁉︎」


 光球を見ながらわたしがはしゃいでいると、隣のカイが信じられないとでもいうように声を絞り出した。え、なにか手違いでも?

 見るとカイは自分の掌とわたしを見比べている。


[どうかした?]

「ナギ……さっきの呪文を一人で言ってみろ」


 なに? さっきの呪文をも一回言えってこと? えっと、なんだっけ。


「《光あれ》」


 ……あれれ?

 “呪文が違います”ってやつ? なにも起こらないんですが。

 わたしは困ってカイを仰ぎ見る。カイは困ったような怒ったような複雑な表情を浮かべていた。眉間にシワが寄って凶悪な顔になってますよー。

 そんなことを思っていたのがバレたのか、カイは太いため息をつくと、右手で頭をがりがりと掻きむしった。


「ナギ、手を貸せ」


 大きな掌が差し出されたので、わたしはさっきのようにその手をつかむ。カイはちらりとわたしを見ると、光球の集まりを再度見やった。


「《光あれ》」


 今度はカイだけが呪文を唱える。突然だったのでわたしは口にできなかった。


 カイが唱え終わると同時に、また閃光が奔って光球が増えた。もうこの部屋明るすぎてキツイ。目がー、目がぁあー!


「……《疾く戻れ》」


 某大佐になっているわたしを尻目に、目を眇めながらしばらく光を見ていたカイは、再度違う呪文を口にした。すると、途端に光球が消え去る。あー眩しかった。


「……ナギ」


 凶悪な顔のまま、カイがわたしに向き直る。え、怖いです先生。魔法失敗したら叱責? スパルタすぎません⁇


「《光あれ》」


 再度カイの真似をしてみた。なにも出ない。驚くほどになにも出ない。あれか、さっきのはカイの使った魔法だったのか。そしてわたしは、言語能力だけでなく、魔法のチートもなかったってやつか。しょっぱすぎるでしょ、わたしの異世界トリップ。


 女子大生から魔法使いへの華麗なるジョブチェンジの夢は早々に破れ、わたしはうなだれた。ダメだ、普通に就職しよう。生活費をカイに頼りきりも悪いので、メルルさんとこで雇ってくれないなぁ。ファミレスのバイトならやってるし。


 遠い目で今後の生活設計を立てていると、カイががしっとわたしの両肩をつかんだ。


「[痛い、痛いよ]カイ!」

「ナギ!」


 カイはわたしの言葉なんか聞いてなかった。怖い顔で凄む。ヤクザと張れるね、この怖さ。元はいいのに--そう、このお兄さん、顔の造作はいいのだ--残念な怖さだ。


「今後、魔法使いの側には近寄るな。いいな、魔法を使ってるヤツの側には寄るんじゃない! 自分の身が可愛いなら、その魔力をだれにも知られるんじゃないぞ!」


 カイは必死になにかを訴えていた。よく聞く“魔法使い”の単語が混じってるから、今の魔法のことに関してるのは違いないだろうけど……なんなの。


「頼む、約束してくれ。魔法使いにその魔力のことは知られるな」


 わたしの頭上で、苦しいような声でカイが呻く。仰ぎ見ると、強く光る金色の双眸がわたしを見据えていた。射るようなそれには、問答無用で頷きたくなるような力があった。

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