そして事態は急転する!
「今のはアヤが悪いわね」
「お母さん!」
「おばさん……」
部屋の入り口からした声に、わたしとアヤちゃんは同時に振り向いた。
「ごめんね、話聞いちゃった」
おばさんは、持ってきたトレイをテーブルに置いてにっこり笑った。
聞いたって……今の話? 異世界とか、そんな話聞かれたの⁇
わたしはちょっと恥ずかしくなって目元をこすった。
「アヤ、貴女本気でだれかを好きになったこと、ないでしょう?」
「うっ……でも、あたしたちまだハタチだし、凪沙なんてまだ誕生日迎えてもないし、その人以外と恋に落ちるかもだし……」
「ア、ヤ」
おばさんは、いつもの上品で綺麗な笑顔のまま、アヤちゃんに詰め寄った。さすがのアヤちゃんもたじろぐ。
「本気で好きになったらね、世界を渡るなんて造作ないことなの。その人がいなければ、世界はないに等しいんだもの。アヤはまだナギちゃんが一番でわからないんだろうけど、ナギちゃんはもう唯一の人と出会っちゃったのよ。お母さんがお父さんと会ったのも十五のときだったわ。早い遅いなんて関係ないの」
十五歳……すごいな、おじさんとおばさん、中学くらいに出会って、そのまま結婚まで行ったんだ。
「でも! 凪沙が……凪沙がいなくなっちゃうなんてイヤだよぉ! 凪沙はあたしと会えなくても平気なわけ!?」
「アヤちゃん!」
涙目でアヤちゃんがわたしを見る。
たまらなくなってわたしはアヤちゃんに抱きついた。
「平気なわけない! むこうに行ったとき、わたしは誰よりアヤちゃんに会いたかったよ! アヤちゃんファンタジー好きだから喜ぶかな、とか、なにかにつけて思ってたよ!」
「凪沙……」
「選べるなら二人とも選ぶよ! わたしはアヤちゃんも大好きなの! むこうに残るのもすごく悩んだ。家族もだけど、なによりアヤちゃんに会いたかったから!」
アヤちゃん。ごめんね、傷つけて。わたしは大好きな人ばかり傷つける。
それでもこの願いは譲れないのだ。
「でも、どうしてもカイに会いたいの。会える方法なんてわからないけど、それでも諦めたくないの」
「凪沙ぁ」
爪先立って抱きつくわたしに、アヤちゃんもぎゅっと抱き返してきた。
「うーん、それなんだけど。ねぇ、ナギちゃん、うちのおじさんとも話そっか。せっかくだからナミのケーキ食べながらみんなで話しましょ! さ、リビングに降りてきて」
※ ※ ※ ※ ※
「やぁナギサ! 久しぶりだねぇ。ちょっとおっきく……なってないか!」
今日は代休でお休みだったというおじさんは、ピーコックグリーンの目を輝かせて、いつものノリでわたしを迎えてくれた。あの、いい加減人を見ると身長を測るのやめてくれませんか?
それにしてもおじさんおばさんが並ぶと、この二人はアヤちゃんの両親なんだなぁって痛感する。色はおじさん似、外見はおばさん似なのだ、アヤちゃんは。
「それにキレイになったね!」
「ナギちゃんが綺麗なったのは本当だけど。それよりエディ、ナギちゃんイセルルートへ行ったらしいわよ」
「へぇ! 懐かしいなぁ! セレンには会った? いつ帰ってきたの?」
はい⁇
「それが、ナギちゃんが落ちたのはナザフィア大陸らしいの」
「ナザフィアねぇ……レイノートがあっちに帰るって言ってたね。あいつはどこって言ってたかなぁ」
「ドルフィーって言ってらっしゃったような覚えがあるわ。ラクトピア王国の」
「あー、そうだったかも! イルカみたいだなって思ったの思い出したよ」
「お父さん!?」
どんどん話を進めていく両親に、アヤちゃんが焦ったような声を上げた。
「それにしても、よく帰ってこれたねぇナギサ。ボクも昔むこうに行ったけど、なかなか帰れなかったんだよね。どうにかエリカを連れて帰ってこれたけどね」
「ほんとね、エディ」
ん⁇
待って、“むこうに行った”? “帰ってこれた”⁇
“エリカ”? “エディ”⁇
--えぇえ!?




