第94話 テラの趣味
ユーリのルームメイトはテラというらしく、案の定貴族の使用人としてついてきているそうだ。
テラの主人であるマーシャという女の子も一緒に食事をした。
お互いの家のことを話したら握手を求められてしまった。
実は女子の間でエアリスが人気らしく、その弟も注目株だとか。
入学前に情報を持っている貴族は流石だなと思ったが、毎年行われる武闘祭や魔闘祭は一般客も見れるらしく、エアリスが活躍したのだとか。
アメリアという人物は活躍したのかと聞いたが、そんな名前は聞いたことがないと言っていた。
飛び級の人は参加する余裕がないほど忙しいのだろう。
食事中テラの趣味について気になったが、流石に聞くわけにもいかずそのまま解散となった。
使用人はできるだけ主人の近くにいないといけないが、寮は男女で分けていて、使用人も例外ではないらしい。
テラは通いでマーシャのお世話をするのだとか。
「ユーリ、主人と同性でよかったな」
「本当だぜ。お前のために部屋に通うとか勘弁だぞ」
可愛くない使用人である。
「よし! 今日は鍛錬メニュー二倍だ!」
「なんでだよ!」
本当は休みのはずだったが、気が変わってしまった。
ユーリなら普段からついてこれるようになったので心配ないだろう。
まあ、いつもギリギリだが。
寮に帰って、いつもの二倍の鍛錬をこなし後は寝る準備をするだけとなった。
「ユーリ先に帰っててくれ」
「うげぇ! まだやるのかよ!」
何か勘違いをしているようだが、少し遠くに見覚えのあるシルエットをみつけたのだ。
「いいから」
「はいはい」
特に誤解を解く必要もなかったので、そのまま帰らせる。
ユーリがいなくなるのを確認すると、その見覚えのある影に近づいていった。
「アシム様! こんな夜分に鍛錬お疲れ様です!」
「ああ、お疲れ。そういうテラは女子寮からの帰りか?」
「はい!」
「そうか、もう好きな子でもみつけたのか」
「アシム様、からかわないで下さい! マーシャ様のお世話の帰りですよ」
「ははは! わかってるって!」
冗談を言い合っているが、お互い部屋でのことを意識しているのだろう、どこかぎこちない。
数舜の沈黙の後。
「テラ」
「ひゃい!」
変な返事が返ってきたが、指摘しないでやる。
「お前の趣味のことは誰にも言わないから安心しろ」
「へ? 趣味?」
「誤魔化さなくていいぞ? 周りに迷惑をかけない限り俺は何も言わん」
「へ? あ、ああ! そ、それは、どうもありがとうございます」
自分の趣味が話題に上がったことに動揺しているのか、タジタジだった。
これで少しでも心配が減ればいいと思って言っただけなので、それ以上は言わないようにする。
「じゃあ、おやすみ」
「は、はい! おやすみさなさい!」
テラと別れ、寝る支度をしにいく。
しかしテラはしばらくその場を動かずポツリと呟いた。
「変な勘違いされちゃったけど、逆に都合がいいのかな?」
自分の胸に手を当てて心を落ち着かせながら部屋に戻るのだった。





