第65話 サルバトーレ家襲撃①
「俺が戻ってきたのは単純にここが好きだからさ!」
「そうか」
そう言われてしまうとアシムとしてはどうしようもなかった。
「それでもこの仕事がいけないことは分かってるだろ?」
「もう盗みとか犯罪はやってないよ」
「ああ、もうやらせてないな。‘‘今‘‘やるのはリスクが高すぎるからな」
「騎士団に目をつけられたから?」
「ちげーよ! 単純に危険なんだよ!」
「危険?」
「おいトム!」
言ってはいけないことだったみたいで、トムは口を慌てて押さえてる。
言った後に押さえても意味はないのだが……
「とにかくトムは自分の意志でここにいるんだ。諦めな」
「そうか、トム君。辞めたくなったらいつでも言ってよ。ユーリが悲しむからさ」
トムは目を逸らす。
やはり後ろめたさはあるようだ。
「用事が済んだならお帰り願おうか?」
優男がアシムに扉を指し示す。
「無事に帰す気はないようだけど?」
「ちっ! あいつら勝手に!」
扉の外側にたくさんの人が集まっているのがわかる。
「子供に対してやり過ぎじゃない?」
「クソッ!」
優男は答える気がなさそうだ。
アシムは外に出て周りを囲んでいるごろつきどもを睨む。
「オイオイ! 威勢がいいじゃないか」
「子供に威張るよりいいだろ?」
「ガキが!」
男は今にもとびかかりそうなほど怒っている。
「ガキ相手にむきになるなって」
違う男が前に出てくる。
「アシムって言うんだろ?」
「それが?」
「ただの確認さ。母親は行方不明、父に姉と妹と生活している。おっと姉は今学園生か!」
「何が言いたい?」
「お前の家族が無事だといいがな?」
「お前……」
「おっと! その前に自分の身を大事にしろよ?」
「くそっ!」
☆
「私の弟子になれないわよ?」
「ハァハァハァ」
床にサーニャが伸びていた。
「頑張った方かしら」
元々自分に自信はあったが、学園の生徒を見てサルバトーレ家が飛びぬけていることを感じていた。
その鍛錬にここまでくらいついたサーニャは褒めるべきだろう。
「ほら起きて」
エアリスが水とタオルを渡そうとする。
「あら? 眠っちゃったの?」
疲れすぎたのか、息が整うと寝入ってしまっていた。
「しょうがないわね」
エアリスは使用人を呼ぼうと家の中に入る。
「お姉さま!」
玄関のすぐ近くにいたアイリスに声をかけられる。
「アイリス! 勉強の時間にはまだ早いわよ?」
アイリスとは勉強をする約束をしていたが、約束の夕方にはまだ時間がある。
「眠たいの」
「眠りたいの? じゃあ部屋まで一緒にいきましょうか」
アイリスは自分で鍛錬して疲れたのか、眠気がきているようだ。
「あら?」
アイリスの手を引いて部屋に向かってると、廊下で使用人の一人が倒れているのを見つける。
「大丈夫?」
エアリスは慌てて駆け寄る。
「息はしてる、外傷もない。」
様子を見る限り呼吸も整っていて、ただ寝ているように見える。
ふと周りを見渡すと、アイリスが廊下の壁に寄りかかって寝ていた。
「どういうこと?」
こんな真昼間から人が次々と眠っていくことに違和感を覚える。
「あっ!」
立ち上がろうとして足がよろける。
「あら、まだ眠っていなかったの?」
後ろから声をかけられ振り返ると、そこには怪しい黒ずくめの女がいた。





