第52話 悪戯の主
悪戯の主視点です!
日も登り切らない早朝に、小さい影を追いかける。
その影は迷うことなく目的の建物に入っていく。奴隷商だ。
(ちっ! 何やってんだ俺は!)
その影を追っている人物はユーリだった。
(まぁ、俺たちの未来がかかってんだ監視ぐらいしてもいいだろう)
決してアシムが心配で様子を見に来たのではない。この作戦を聞いてから、成功するかどうかソワソワしてしまって落ち着かなかったのだ。
あの男の子がきてここまで数日しか経っていないが、ユーリの人生は大きく変わろうとしていた。
今まで組織の庇護下に入るために、犯罪に手を染めてきた。
その行為に対して思うところは何もない。自分たちが生きるために他人を食い物にすることは悪いことだ。
しかし、やらなければ今度は自分たちが食われてしまう。
そんなリスクの高い生活は、ユーリの心を歪めるのに時間はかからなかった。
やらなければやられる、ただそれだけのことだと割り切っていた。
しかし今、そんな世界からサヨナラできるという素晴らしい未来が目の前にチラついているのだ。
アシムが詐欺師ならば、ものの見事に引っかかっていただろう。
それほどに‘‘普通‘‘という生活は魅力的だった。
(出てきたな!)
どうやらアシムは上手く連れ出したようだ。
二階から飛び降りたときはビックリしたが、どうやら魔法を上手く使って着地したようだ。
女の人を草むらに隠して、自分はまた建物の中に入ってしまった。
(何してんだ!)
ユーリは歯がゆい気持ちになりながら、早く出てこいと祈る。
(やばいな……)
ユーリはアシムの入った扉に向かう人を発見する。
そのまま見ていると、案の定中に入っていった。
(どうする! どうすればいい!)
ユーリは手のひらより少し小さめの石を拾い、扉に向かって投げた。
大きな音と共に、木製の扉の表面が砕ける。
ユーリの咄嗟の判断により、中にいる従業員をおびき出した。
ユーリはわざと姿が見えるように逃げた。
「お前か!」
従業員が追いかけてくる。
(よし! 離しすぎないようにしないとな)
ある程度自分を追わせて囮にし、適当なところで撒くつもりだ。
従業員はあまり運動は得意ではないらしく、息をぜぇぜぇ言わせながら走っていた。
流石にアシムも脱出していると思うぐらいの距離は稼いだので、路地にパッと入ってスピードを上げる。
「クソッ! 待て!」
従業員が路地にたどり着いた頃にはユーリの姿は消えており、完全に撒かれたことを知った。
「見つけたらただじゃおかねえからな! クソガキ!」
従業員の声が虚しく響いた。





