第43話 人の為の犠牲
アシムは唇を噛んで見ているしかない。
人身売買をしているとはいえ、双方合意の元だ。
互いに口裏を合わせられると、立証は無理なのだ。
「奴隷契約を行えば……」
どの人が奴隷契約をしたか特定できれば、王の前で立証できる。
そう、国王が許可を与えていない奴隷が証拠になるのだ。
五人の若い女性が集まっている。
「会えなくなるわけじゃないから」
家族や知り合い達と、別れを惜しんでいる。
「行くぞ!」
フードの男が女性を連れて、馬車に乗り込む。
「全員は乗れんぞ、二人だけ乗って他は歩きだ」
元々そのつもりだったのだろう、中に女性を乗せにいった人物以外は、外にいた。
馬車が走り出す。
アシムは、今何もできない自分を歯がゆく思いつつも、彼女達は絶対助けようと心に誓うのだった。
☆
「今日はここで野営をするぞ」
すっかり辺りも暗くなっていた。
男たちは、流石に王都にたどり着くこと諦め、野営に入る。
「一旦帰るか」
アシムが帰ろうとした時、魔物の気配を感じた。
「きゃあ!」
野営を準備しているところから、女性の悲鳴が聞こえる。
「クソ! ストーンベアだ! 全員馬車に乗れ!」
慌てて馬車に乗る。
ストーンベアは足が遅い、が持久力があるので人間ではいつか追いつかれてしまう。
「馬が潰れるまで走るぞ!」
馬車が走り出す。
しかし、まだ一人の女性が乗っていなかった。
幸いにも、複数人載せた馬車はまだスピードに乗っておらず、急げば乗れそうだった。
「恨むなよ!」
しかし、女性が馬車に乗り込もうとした瞬間、男が蹴り飛ばす。
ぎゅうぎゅうに乗った馬車は、馬がいずれ潰れてしまう。
馬の体力を持たせるのと、女性が襲われている時間で距離を、少しでも稼ごうとしているのだろう。
馬車が走り去る。
女性は必死に逃げようと、森の木々へ隠れる。
しかし、ストーンベアは女性のいる場所へ向かっている。
アシムは、ストーンベアを今倒してしまうと、奴隷商の男達に見られる可能性があるので、女性の方へ駆ける。
「こっち! 場所バレてるよ!」
「きゃあ!」
アシムは背中を曲げ、女性を‘‘座らせる‘‘。
おんぶをしたら、足を引きずってしまうので、仕方なしの背負い方だった。
低い姿勢のまま走る。
「きゃあ!」
女性がビックリして、アシムの背中にしがみつく。
結局足が投げ出され、引きずる形になってしまった。
しかし、女性は恐怖のあまり固まっているようで、アシムにしがみつくので必死だった。
「ここまでくれば、大丈夫かな!」
アシムは女性を降し、ストーンベアを待ち構える。
「あ、」
女性が何か話しかけようとしたが、ストーンベアが現れる。
「まぁ見ててよ、逃げない理由がわかるからさ」
先程のスピードで走れるなら、森の中でストーンベアを撒いたほうが良いと思ったのだろう。
女性は、絶望的な顔をしていた。
「ほらね?」
アシムは手をストーンベアに向けただけで、女性の方に振り返り、得意げな顔をした。
「まだ」
女性が‘‘まだストーンベアが生きている‘‘と言おうとしたところで。
「大丈夫!」
ストーンベアの上半身がずり落ちて、真っ二つになった。





