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第43話 人の為の犠牲

アシムは唇を噛んで見ているしかない。


人身売買をしているとはいえ、双方合意の元だ。

互いに口裏を合わせられると、立証は無理なのだ。


「奴隷契約を行えば……」


どの人が奴隷契約をしたか特定できれば、王の前で立証できる。

そう、国王が許可を与えていない奴隷が証拠になるのだ。


五人の若い女性が集まっている。


「会えなくなるわけじゃないから」


家族や知り合い達と、別れを惜しんでいる。


「行くぞ!」


フードの男が女性を連れて、馬車に乗り込む。


「全員は乗れんぞ、二人だけ乗って他は歩きだ」


元々そのつもりだったのだろう、中に女性を乗せにいった人物以外は、外にいた。

馬車が走り出す。


アシムは、今何もできない自分を歯がゆく思いつつも、彼女達は絶対助けようと心に誓うのだった。




「今日はここで野営をするぞ」


すっかり辺りも暗くなっていた。

男たちは、流石に王都にたどり着くこと諦め、野営に入る。


「一旦帰るか」


アシムが帰ろうとした時、魔物の気配を感じた。


「きゃあ!」


野営を準備しているところから、女性の悲鳴が聞こえる。


「クソ! ストーンベアだ! 全員馬車に乗れ!」


慌てて馬車に乗る。

ストーンベアは足が遅い、が持久力があるので人間ではいつか追いつかれてしまう。


「馬が潰れるまで走るぞ!」


馬車が走り出す。

しかし、まだ一人の女性が乗っていなかった。

幸いにも、複数人載せた馬車はまだスピードに乗っておらず、急げば乗れそうだった。


「恨むなよ!」


しかし、女性が馬車に乗り込もうとした瞬間、男が蹴り飛ばす。

ぎゅうぎゅうに乗った馬車は、馬がいずれ潰れてしまう。


馬の体力を持たせるのと、女性が襲われている時間で距離を、少しでも稼ごうとしているのだろう。


馬車が走り去る。

女性は必死に逃げようと、森の木々へ隠れる。

しかし、ストーンベアは女性のいる場所へ向かっている。


アシムは、ストーンベアを今倒してしまうと、奴隷商の男達に見られる可能性があるので、女性の方へ駆ける。


「こっち! 場所バレてるよ!」


「きゃあ!」


アシムは背中を曲げ、女性を‘‘座らせる‘‘。

おんぶをしたら、足を引きずってしまうので、仕方なしの背負い方だった。

低い姿勢のまま走る。


「きゃあ!」


女性がビックリして、アシムの背中にしがみつく。

結局足が投げ出され、引きずる形になってしまった。

しかし、女性は恐怖のあまり固まっているようで、アシムにしがみつくので必死だった。


「ここまでくれば、大丈夫かな!」


アシムは女性を降し、ストーンベアを待ち構える。


「あ、」


女性が何か話しかけようとしたが、ストーンベアが現れる。


「まぁ見ててよ、逃げない理由がわかるからさ」


先程のスピードで走れるなら、森の中でストーンベアを撒いたほうが良いと思ったのだろう。

女性は、絶望的な顔をしていた。


「ほらね?」


アシムは手をストーンベアに向けただけで、女性の方に振り返り、得意げな顔をした。


「まだ」


女性が‘‘まだストーンベアが生きている‘‘と言おうとしたところで。


「大丈夫!」


ストーンベアの上半身がずり落ちて、真っ二つになった。

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