第166話 カラクリ城の本質
廊下に並ぶ棒の先に付けられた魔光石(魔力が宿り発光している石)の明かりが小さな影を映し出す。それと同時に空気を切り裂く鋭い音が聞こえた。
「危なっ!」
間一髪で飛んできた物体を避けたユーリが受け身を取った後、片膝を付けて起き上がる。
「今のは石か? 当たると結構危ないと思うんだけど……」
ジュミの師匠が作ったカラクリなので安全かと思いきや、硬い石や深い落とし穴など、命の危険はないが間違えば大けがに繋がるようなレベルの仕掛けが多かった。
「引っかかっても何もないカラクリなど意味がなかろう? 本来は侵入者を排除するためのものなのだから、これぐらいでビビッて貰っては困る」
確かにその通りなのだが、師匠なる人物は弟子にも厳しいのか、はたまたこれが普通なのか理解できそうになかった。
最初の部屋は下に降りる階段を見つけるだけのカラクリだったが、地下二階からは本格的なものが増えていった。
落とし穴や、投石を潜り抜けた先に地下三階へ続く階段が見えた。
「あ! 階段ですよ! すぐ降りちゃいましょう!」
地下二階はどこから物がとんでくるかわからないという緊張感があったせいか、サリア様がやっと脱出できると足を早めた。
「あれ、なにかおかしくないか?」
ユーリは何かに気づいたのか、階段付近を指す。
よく目を凝らしてみると、影の色が濃ゆい部分が小さくいくつも見えるような気がした。
「サリア様ストップ!」
急いでサリア様に制止をかけ、階段付近の怪しい部分に土魔法で作った小石を飛ばしてみた。
「ん? なんですか?」
サリア様が止まり、何事かとこちらを振り返る。それと同じタイミングでいくつもの金属が飛び出すような音が鳴り響いた。
綺麗なお顔のまま固まったサリア様は、自身のすぐ後ろで”何か”が起こったことを察知し、ゆっくりと振り返る。
「きゃあ!」
教科書通りの悲鳴と同時に尻餅をついたサリア様の目の前には、無数の剣山がそびえ立っていた。
「これ……とどめ刺しにきたよね?」
「絶対死ぬな」
ユーリの見解と同じく、この針の山に貫かれて生きている人間はいないと思う。高さがゆうに大人一人分はあるのだ。
このカラクリ城、当初は、弟子のために残した修行の場所なのかと思っていたが、こんな危険なものを残すとは思えない。
もちろん、それ程厳しい師匠だといえばそれまでなのだが、自身の感覚的な部分がそれは違うと訴えかけていた。
「もしかしたら期待できるかもな」
「え! アシム様は危険なカラクリを期待していたのですか?」
サリア様は信じられないというような表情を作る。
「ああ、勘違いしないでください。期待というのは、このからくり城に隠された秘密ですよ」
「隠された秘密?」
疑問の声はサリア様以外からも出た。というより、全員が疑問に思っていた。
「ここまで出てきたカラクリはどれも攻撃性の高いものばかりでした。今回の剣山に関しては、容赦なく命を狙ってきています」
サリアさんはコクコクと首を縦に振っている。実際間一髪のところで回避できただけに、一番実感しているのだ。
「ジュミさんの話を聞いただけの時点では、師匠が弟子に残した最後の課題なのかと思っていましたが、それにしては厳しすぎるとは思いませんか?」
先ほど思っていたことを説明する。
これは修行のためのカラクリではなく、侵入者を撃退するためのカラクリなのだと。
「ということは……盗られたくない”何か”があるということですか?」
「ご名答です」
俺と同じ考えに至ったサリア様に肯定の意を示す。
それと同時に、このカラクリ城と一番長く付き合っているジュミへ視線を送る。答え合わせをするように。
「な、なんじゃ! みんなしてどうして私を見る!」
答えを言い当てられて動揺しているのか、忍者娘は後ずさる。
「ジュミさん、隠さなくてもいいじゃないですかぁ~! バレたからって攻略の難易度が変わるわけでもないですし。それで、どうなんですか? お宝が眠っているんですか?」
ある意味純粋な目でジュミを追い詰めるサリア様……意外と物欲が強いのかもしれない。
「お、お宝? そんなもの私は聞いてないぞ!」
問い詰められた本人は何を言われているのか分からないという様子だ。その態度は何か隠そうとしているわけではなく、本当に分からないという様子だった。
「何か隠しているという様子でもないな」
ユーリもジュミを疑っているようではなかった。
「本当だぞ! 私は師匠から”何も”聞いていない! この師匠の残したカラクリ城は私が勝手に攻略しているだけだ!」
”何も聞いていない”
これは逆に期待度が上がってきたかもしれない。
「ジュミの様子からして本当のことを言ってるみたいだね。むしろ”何も”聞いていないというのが余計に期待できるかも知れない」
「逆に期待?」
ジュミの疑問に答えてあげる。
「このカラクリ城は修行のためじゃない、大切な物を守るためにあるのさ。サリア様の言うお宝とかね!」
侵入者を排除するような仕掛けたちが、その言葉の信ぴょう性を高めていた。





