第165話 カラクリ城
ジュミという精霊の住処に招き入れられた後、クラウディアさんがユーリとの契約を勧めてきた。なんでもジュミは無属性を司る精霊で、他に例が見つからないほど希少な存在らしい。
だがその話を聞いたジュミ本人は乗り気ではないようだ。
「私はここで師匠からの教えを守れればいい。人間になど興味は無い」
「ジュミ、そんなこと言わずに。人間の世界は精霊とは比べられないほど広いわ。きっとあなたの修行の役にも立つと思うの」
どうしてかクラウディアさんはユーリとジュミをくっつけたいようだ。確かに無属性魔法を戦闘に取り入れているユーリからみれば相性は良さそうなのだが。
「それに私は師匠が残していったカラクリ城を突破せねばならんのだ。その目的が達成できない限り外の世界に出るなど考えられん」
「カラクリ城?」
「師匠がこの国を出る際そのカラクリ城にとある巻物を置いて行かれたのだ。その巻物を手に入れることを私への最後の試練として残していったのだ」
つまり、その師匠が最後の試練として残していった巻物を手に入れれば、ジュミは逆に精霊の国に居る理由は無くなるというわけだ。
「アシムやユーリについていってシノビのことを調べるのも悪くないとは思ってはいるが……」
ジュミは外の世界に興味はあるらしい。この国にいてはシノビに触れる機会など訪れない可能性が高いので当然と言えば当然なのだろうか。
「そのカラクリ城を攻略すれば契約してくれるのか?」
ユーリはジュミとの契約に積極的なようだ。先日記憶がないとはいえ、完全敗北を喫したのが効いているのかもしれない。
「お主らが攻略しても意味はない。これは私に残された試練なのだからな」
「そうか……その攻略は時間がかかりそうか?」
「そうだな…もうほとんどは攻略できているのだが、最後の巻物が置かれているであろう部屋への入り方が分からぬのだ」
あと少しというところで詰まっているようだ。そのカラクリ城には興味もあるので一度見せてもらいたいとお願いしてみる。
「そのカラクリ城見せて貰ってもいいかな? もしかしたら何かヒントを見つけ出せるかもしれないし」
「ああいいぞ。なんなら挑戦してもらってもいいぞ! できるならな!」
挑発するような言葉を貰ったので遠慮なくカラクリ城を楽しませてもらうことにする。この会話を聞いていたクラウディアさんはこれ以降ジュミに何も言わなくなり、こちらの流れに任せることにしたようだ。
師匠が残していったというカラクリ城まで道案内をしてもらったがイメージしていた場所とは違うような所にあった。
予想では大きな城がそびえ立ち、大きな城門が迎えてくれるのなかと思ったがその期待は裏切られとある神木の中に建城されていた。
「入り口はここだ。全部で地下五階あって様々な所にカラクリが隠されているのだ」
「木の中じゃなくて下に続いてるのか」
城門から入り、一階部分の建物の中に入っていく。自分を先頭にしユーリ、サリア様と続いていく形だ。
最後尾はジュミに立ってもらい、こちらの攻略を見守って貰うことになった。
「ユーリどう思う?」
一階部分を隈なく探索したが別におかしな点はなかった……あることを除いては。
「言われなければ気づかなかっただろうが、無いな」
「うん。無いね」
「階段……ですか?」
サリア様も気づいていたようだ。最初ジュミは地下五階でこのカラクリ城は形成されていると教えてくれた。
ならば下に続く階段が必要になってくるはずだが、それがどこにも見当たらないのだ。
「なんだ? 早速手詰まりか?」
師匠のカラクリに困惑している一行を見てジュミが楽しそうにしている。純粋に困っている姿を楽しんでいるのか、師匠のカラクリを誇りに思っているのかは分からないがニヤニヤ顔が隠せていない。
「困りましたね。どこを見てもそれらしきものはなかったですし。部屋の数も少なかったので見落としも考えにくいですね」
サリア様の言う通り一階部分は大部屋が多く、物も少なかった為これ以上見る場所はなさそうだった。ユーリも困ったような顔をしているし、クラウディアさんはついてきているだけなので戦力には数えられない。
「もうギブかのう~! 流石にここでつまずく様な人間と契約はできないぞ~」
ジュミはテンションが上がったのか畳の部屋でくるくると回り始めた。たまにジャンプも織り交ぜながら華麗な着地を決めて畳をミシリと踏みつけている。
「ん?」
「どうした? 何かわかったのか?」
ジュミが畳を踏み込んだ瞬間に藁を踏みつける音と同時に若干表面がへこむのだが、その中の一枚に違和感を覚えた。
「今ここの畳のへこみかた変じゃなかった?」
とある一枚を指さし近づいてみる。その畳をよくよく観察してみると他の畳よりも傷んでいるように見えた。
これは何かあると思い畳をひっくり返してみるとその下には取っ手のついた床が出てきた。
「おお! 気づいたか! まあでもこれは挨拶みたいなものだからな! ここからがスタートだぞ!」
床を持ち上げると階段が出現し、地下へ下りられるようになった。確かにカラクリというにはまだ物足りない感はあるが、サリア様やユーリはしっかりと驚いた顔をしていた。
「なるほどな。理解した」
ユーリが若干楽しそうな顔を見せたような気がした。





