第163話 神殺し2(神話時代)
過去回想ラストです!
焼けた大岩が蒸気を上げながら音を立てていた。
その横に自分の大事な人がまるで眠っているかのように横たわっている。
「どうして」
ジウン様だ。
邪神討伐道中のサポートだけの予定が、何を思ったのか戦いに参戦してきたのだ。
否、理由は分かっている。
「なんで俺のこと庇ったんだよ!」
今地面には邪神と同行してきた神が横たわっている。
死んでいるかのようなジウン様がうっすらと目を開ける。
「神はお主を消すつもりじゃった」
「なんで!」
一瞬目を開いたジウン様に喜びそうになったが、その目の奥にに宿る命の灯は既に弱弱しく今にも消えてしまいそうだった。
「神聖魔法は神にとって脅威だからじゃ。神を殺す魔法、それを放置しておくことが出来なかったのじゃろう」
邪神を殺すための魔法……それは神も例外ではなく焼き尽くしてしまうもの。
「そんな」
理解はできる、だからこそこんな結果に納得が出来なかった。
この後悔は神が自分を騙そうとしていたことではなく、その目論見に気付けずジウン様に命を張らせてしまった自分の愚かさに対してだった。
しかしそのお陰で神の不意打ちを防ぎ反撃し返すことができた。
ジウン様が居なかったら今頃神の思惑通りになっていただろう。
「ワシは神と名乗るものが信じきれんのじゃ」
「……」
なんでと声を出すことができない。
これ以上言葉を発すると自分の中にあるどす黒い何かがせき止められそうになかったからだ。
「世界がこのような風になるまで争いを続けるような者達じゃ、創造神であったとしてもどうして信用ができようか」
神は地上に生きる者達を対等に見ているはずがなかった。
それと同時に大切なものでもなかったのだ。
「それに神は笑っているようで笑っていなかった。道中あやつと共に過ごせば過ごすほどその思いは確信へと変わっていったのじゃ」
ジウン様は疲れたのか一度言葉を切り、目を閉じたあとにもう一度ゆっくりと瞼を上げた。
「奴はお主とワシをまるで物を見るかのような目をしておったのじゃ」
道中会話をして笑っていた神の顔は作られたものだったということだろう。
ジウン様は自分の予感を信じ、ライガの身を案じていたのだ。
「邪神を倒した後お主を消そうとした神はもういない。じゃが、神という存在が居る限りお主のことを消そうとするやもしれん。国へ帰ったら王宮である神木の根から脱出をするのじゃ。地図はワシの家の物入れの床下に隠しておる」
「そんな! ジウン様、これじゃあまるで今から死ぬみたいじゃないか!」
神の一撃を喰らい死んでしまったと思っていたジウン様はこうして息がある。
ここで休んでいれば回復するのではないかと淡い期待を抱いていた。
「そうじゃな。頑丈さに関しては自信があったのじゃが、今回ばかりは少し難しいようじゃ」
「嘘だ! ジウン様は精霊の中でも凄い精霊じゃないか!」
ジウン様は手を高くあげこちらの顔の位置まで持ってくると頬を撫でた。
「ワシは幸せ者じゃ。親友のメロを救えなったワシにもやっと守れるものができたのじゃからな」
「ジウン様……」
ジウン様はそのまま目を閉じ眠るように息を引き取った。
邪神を倒すために神とジウン様と一緒に旅に出た。
道中邪神の仲間とみられる者達に邪魔をされたものの、三人で協力してどうにか乗り切った。
そしていざ邪神と戦い倒したと思った矢先に神から裏切りの一撃があったのだ。
神の攻撃にいち早く気づいたジウン様は自分の身を挺して俺を庇ってくれたのだ。
どうやらこの神聖魔法は邪神だけでなく”神”という存在にも有効らしく、そんな魔法があることが危険視され邪神と共に殺す予定だったようだ。
神に特別恩義を感じているわけではないが、この世界が壊れそうなほどの争いを止められるならと協力をしたのに酷い仕打ちである。
ジウン様の死体は粒子となりこの世界に溶けていった。
邪神と神も精霊と同じような存在なのかいつの間にか消えてしまっていた。
ジウン様の言う通りに精霊の国から脱出を行い一人でひっそりと生きていくことにした。
国から出て時間が経つと精霊王様からの使者が来て事情を説明したり、神に見つかることもあったのでその際は戦って場所を変えたりしていた。
そうやって長年暮らしていたが遂に自分の生命エネルギーが限界を迎えていることを悟るようになった。
「ここかな」
かつてジウン様と話をした丘へきて寝転がる。
ここは精霊の国で、神に見つかるとみんなを巻き込んでしまうことになるが最後を迎えるのはここがいいと思ってしまった。
「やはりお前か」
不意に声を掛けられ驚いたが、声の主は精霊王であった。
「何をしにきたんですか?」
当然の疑問だった。
「お前を看取りにと神聖魔法を保存するためにだ」
「こんな俺を看取りに? 本当は神聖魔法だけが目的では?」
正直精霊王に看取られるような仲ではないはずだ。
「神聖魔法だけが目的なら私自身が赴くまい。私はお前に感謝しているのだ」
「感謝? この神聖魔法があっても神に目を付けられるだけでは?」
今も神達はこの魔法を消そうと躍起になっているはずだ。
「そうだろうな。だがこれは必要な魔法であり、世界を救った魔法なのだ」
「世界を救った?」
「ああ、お前は結果邪神を倒し神への抑止力へとなっている。その証拠に精霊の国は神から攻撃を受けずに済んでいる。貴様という懸念材料を残したままでは迂闊に動けないのだろう」
「そうか……」
自分で聞いてみてなんだがそういったことはどうでもいいような気がしていた。
今はただ亡き恩師ジウン様と同じ場所に行きたかった。
「まあ、そのなんだ」
精霊王は一瞬言いよどんだ後小さな声で呟いた。
「お疲れ様」
月夜に照らされ丘に生えた一本の神木が風に葉を揺らされながらざわめいた。





