第157話 精霊王謁見
「俺様は貴様が嫌いだ」
精霊王からの否定的な言葉にショックを受ける。まさか初対面で拒絶されるとは思わなかった。
「ギル! いきなりその態度は酷いんじゃない?」
「うわっ!」
サリア様の隣から突然光の精霊クラウディアが現れ思わず声を出して驚いてしまった。
「ふんっ! クラウディアが現れるだけで驚くような奴にサリアを譲れるか! 俺様は絶対に認めんからな!」
精霊王がわけの分からないことを言っている。こちらは精霊と契約できるかを確認しにきているのだが、サリア様がどうとかの話をするつもりはない。
「サリア様を譲るといいますと?」
質問をしていいと許可は貰っていないが、気になったので思わず顔を上げて聞いてしまった。何が原因で精霊王に嫌われているのか知らないと目的を達成できない可能性が高い。
ちなみに、光の精霊クラウディアとはここに来るときに初めて対面しており、その時に精霊王の名前がギルであることや、ギルはクラウディアの弟であることも聞いていた。
「その態度も気に食わん! サリアに想いを寄せられながら気づいていない鈍さ! 俺様が欲しているものを貴様は簡単に手に入れているのだぞ? もっと喜べ!」
サリア様が想いを寄せている?
サリア様は歳が近いとはいえ、まだ十歳にも満たない子供に想いを寄せるなどあるのだろうか?
そもそもこの年齢で恋愛感情など……保育園の先生に想いを寄せる子もいるから普通なのか。
だが、自分の感覚だとこんな子供にまさか色恋沙汰が起きるとは思えなかった。
「納得できんか? サリアを見てみろ!」
精霊王に言われるままサリア様の方向を向く。そこには顔を真っ赤にして俯く可憐な少女の姿があった。
「ちょっとギル! 純情な乙女の想いを勝手に伝えるなんてデリカシーなさすぎよ! だからサリアに好きになってもらえないのよ!」
「クラウディア……私好きなんて一言も」
サリア様のか細い声は届いていないのかクラウディアとギルの言い合いは続く。
「好きになってもらう? 笑わせるな! 俺様を好きにさせるに決まってるだろ!」
「あなたこそ笑わせないで! サリアの心を射止めたのはここにいるアシムよ! サリアが殺されそうになった時に助けたのはあなたじゃないわ!」
ギルの言い分がものすごく図太いと感じたが、それに負けない剣幕でクラウディアのカウンターが入る。
「ハッ! たまたま近くにいたから助けられたんだろ! 俺様でも問題なく助けられるさ」
「問題なく助けられる? 人間の事情に疎いあなたが? 知ってる? サリアは教会という組織に属していて、そこの問題も含めて解決したのよ? あなたでは絶対にできないわ、アシム・サルバトーレという人物だからできたのよ? あなたはせいぜい邪魔な相手を消すだけでしょ! いえ、あなたができないのではなく、人間に疎い精霊には絶対無理だわ! サリアの気持ちを汲み取ってあげるつもりもないあなたには余計無理でしょうけど!」
完全論破という言葉が相応しい状況を初めて見た。これで精霊王、ギルは何も言えないだろう。
「サリアの気持ちを汲み取る? 俺様がサリアに降りかかる不幸を全部吹き飛ばしてやるから幸せに決まってるだろ!」
精霊に人間の判断基準を当てはめてはいけないようだ。ギルは何を言われても自分の考えを突き通すようだ。
「あら、じゃあ”あなた”という不幸も吹き飛ばして頂けますか?」
「貴様! 姉とはいえ精霊王にその物言い、タダで済むと思うなよ!」
口で勝てないとわかると権力を振りかざしてきた。ギルは結構クズ野郎なのかもしれない……。
このような過激な性格をしていると色々苦労しそうなものだが、精霊王という立場がそれを可能にしてきたのだろう。
だが、一番惚れた女に見向きもされないということに繋がるとは。自業自得とはいえ少し可哀想な気もする。
「何も言い返せなくなったら王であることを振りかざすの? いいわよだったら金輪際あなたの補佐はしないわ!」
「勝手にしろ!」
精霊王はその一言を残しどこかへ立ち去ってしまった。
「えっと」
「あら、ごめんなさいね、つい熱くなったわ。ギルったら昔からあんな感じなのよ。力が強いあまり、周りからチヤホヤされて育ってしまったから、なんでも自分の思い通りになると勘違いしてるの。でもサリアのことで初めて失敗したからどうしたらいいか分からないのよ」
悪い空気の中勇気を出して声をかけてみると、以外にもクラウディアは気にしていないような態度をとった。
あの口調からも想像できる通り、気の強い女性なのかもしれない。恰好も肌の露出が多い踊り子のような服装で、少なくとも内気な性格ではない。
「クラウディア様、僕は歓迎されていないんですかね?」
精霊王の態度を見る限り友好な関係を築くのは難しそうだ。最悪の場合このまま帰ることも考え始めていた。
「大丈夫よ。あなたはギルだけじゃなくて、精霊に嫌われているわ」
「えっ!」
何が大丈夫なのかわからない理由が返ってきた。





