第154話 光の精霊(サリア視点)
いけないことをしてしまった。
墓場まで持っていこうと決意をしていた秘密、精霊の話を他人にしてしまったのだ。
精霊王からは信頼できる相手なら話をしてもいいと言いわれているが、そもそも人間と精霊が関わる必要がないのだ。
精霊は人間と関わらずとも生きていけるし、人間も精霊がいないと生きていけないわけではない。
むしろお互いに欲をかいてしまいトラブルの原因にしかならないことがほとんどだ。
だがその中でも例外はあり、精霊と人間が恋に落ちた場合は積極的に関係を持つそうだが、これもトラブルにならないように種族をお互いに合わせる行為をするのだ。
種族を合わせるには精霊の力を犠牲にしなければならないので、人間と精霊ならば人間に種族を合わせるのがほとんどだ。
この話を知っている者はほとんどいない。
そんな大事な秘密をアシム様とユーリ君とエアリス様にしてしまったのだ。
どうしてかこの人たちなら話しても大丈夫だと思ってしまう。それに、アシム様の部屋の前で立ち聞きをしてしまったのだ。
アシム様の姉であるエアリス様に部屋まで案内をしてもらい、ノックをしようとした時に聞こえてきた言葉。
『精霊と契約して強くなりたい』
確かそんな話をしていた。
ただ力を求める言葉だった。普通ならそんな言葉に感化され秘密を話すはずはないのだが、何故かアシム様の悔しさがダイレクトに伝わってきたのだ。
そして気づけば精霊との契約を助ける約束までしてしまったのだ。
しかしその行動を後悔することはなかった。アシム様やエアリス様は事の重要性をわかっており、精霊側に迷惑をかけることをしないという想いが伝わってきたのだ。
その想いはこちらの勘違いかもしれないが、こんなに他人の気持ちが伝わってくるのは初めての体験だった。
だからなのか、この判断は間違っていないと確信している。
「光の精霊よ」
何もない空間に呼びかけると突然光が視界を覆った。
「私を呼び出すなんて珍しいじゃない? 恋でもしたの?」
「違います!」
光がおさまり現れたのは胸元が大きく開いた服に、タイトで短いスカートを履いた女性だった。
「あらあら図星だった? いいわよ恋愛相談ならお姉さんに任せなさい」
「からかわないで下さい! だからあなたを呼び出すのは嫌なんです!」
この精霊は聖女である私と契約を結んでいる光の精霊であり、聖女の力の源といってもいい存在だ。
ただ、今見た通り問題があるので滅多に呼び出さないようにしている。
「久しぶりに呼び出しておいて冷たいじゃない? 私はこんなにあなたが好きなのに」
そう言うと指を顎に這わせるように撫でてきて体を近づけてきた。
「精霊王に会わせたい人がいます」
指の動きがピタリと止まった。
「もしかしてその人があなたの想い人かしら?」
吸い込まれそうなほど綺麗な金色の目を見つめ返す。
「わかったわ! サリアのお願いなら聞いてあげる」
こちらの真剣さが伝わったのか真面目に取り合ってくれる気になったようだ。
「ありがとうございます!」
「いいのよ! と、言いたいところだけど感謝をしてくれるならそろそろ敬語をやめてくれる? 私はあなたのことが好きで契約をしているのよ? 敬語で話されると壁を感じてしまうわ」
一拍おいて返事をする。
「壁を作っているので問題ないです!」
精霊はこちらの突き放すような言葉に傷ついた様子もなくケロッとした態度をとる。
「そう。でもあなたの感謝の念は感じるからいいわよ! その人のところへ案内して頂戴」
「あ、今日はもう遅いので明日でもいいですか?」
アシム様とは先ほど別れたばかりでまた会うとなると迷惑ではないかと気が引けてしまう。
「そう、私を呼び出しておいてそれで済むと思っているの? そうね、何か対価をくれるなら待ってあげるわ」
光の精霊から初めて対価を要求され困惑してしまう。
今まで力を借りていたが、それに関しては気に入ったからという理由で何も言われなかったのだ。
「何が望みですか?」
「そんなに構えなくていいのよ? あなたにできないことは要求しないわ」
構えなくてもいいと言われたが、この光の精霊の要求となるとそれなりの対価が予想される。
精霊の中でも光の精霊クラウディアは名前付きの上位精霊であり、普通の精霊とは格が違うのだ。
「そうね、じゃあその人に会うことができる日まで添い寝を要求しましょうか」
「添い寝?」
いきなり何を言い出すのかと思えば添い寝を要求してきた。
「ええ、その間はあなたの側にいるわ」
「精霊王の元へ帰らなくてもいいんですか?」
クラウディアは精霊王の側近としても重要な位置にいる精霊だ。
「精霊の国にはいつでも帰れるわ。それに精霊は意外と暇なのよ?」
精霊の役割はこの世の自然エネルギーのバランスを保つことなのだが、クラウディアはその補佐を精霊王の側で行っているのだ。
「それに何かあったらギルから連絡が入るから大丈夫よ」
「添い寝をすればその人を精霊王へ会わせてくれるんですね?」
嘘をつくような精霊ではないが、念を押してみる。
「ええ、明日にでも会わせてあげるわ」
「わかりました」
その日は大きな双丘に包まれながら眠りにつくのだった。





