第149話 大聖堂の噂
学園へ通う道をユーリと共に歩く。
昨日は色々と忙しかったが、学園へはきちんと通う。
休んでもよかったが何故か朝早くエアリスが様子を見に来ていたのだ。
なので、心配をかけまいと強がってつい登校してしまったのだ。
「解せぬ」
「アシム何か言った?」
入寮日以来の姉との登校だが、とても嬉しそうなので頑張って良かったかもしれない。
しかしエアリスは外から登校しても大丈夫なのだろうか?
ユーリと自分は休日に合わせて外出許可をとっていたが、エアリスは今朝学園の寮から出てきたらしいのだ。
学園から出れたのだから問題はないのかもしれない……。
「アシム! 手を繋ぎましょ!」
「ユーリ! 学園まで競争だ!」
姉から衝撃の一言が聞こえた気がしたが、ユーリと走るのに忙しくて聞こえなかった。
「へいへい」
「もう! アシムったら!」
姉と手を繋いで登校など恥ずかしくて無理だ。
アイリスとならやっても大丈夫だが……。
だが、この考えはもしかしたらアイリスと自分の関係にも言えるのかもしれない。
妹であるアイリスからお兄ちゃんと手を繋いで登校なんて無理!
と言われたらショックで寝込んでしまうかもしれない。
そう考えると姉のエアリスに悪いことをしたと思うが、立場が変われば行動も変わるものだと自分に言い訳をしておく。
ちらりと振り返り目に入った姉が少し悲しそうな顔をしていて心が痛んだので、人目のつかないところでならサービスしてもいいかもと思ってしまった。
学園へ着き教室へ入ると既にほとんどの生徒が揃っていた。
マーシャ、テラ、ライア、マイアが揃って席に座っていたので、ユーリと一緒に近くへ座る。
「おはようアシム君!」
「おはよう」
各々と挨拶を交わした後何故かみんなの視線を感じる。
「何かな?」
目が合ったマーシャに問いかける。
マーシャはテラと目配せをして意を決したかのように言葉を発した。
「大聖堂をアシム君が作るって本当?」
大聖堂計画は先日決まったばかりだが、国は大々的に発表しているはずだ。
そこのプロジェクトメンバーに自分が名を連ねているはずだが、そこまでの情報を確認する国民は少ない。
「僕が作る? 確かに計画のメンバーには入ってるけど、大聖堂計画のリーダーはシャルル様だよ?」
「そうだけどさ。噂ではほとんどの計画をアシム君が立てた功労者だと言われてるわよ?」
確かに大聖堂計画は教会のシスターやカトリーナと話しをして決めたので、実質アシム・サルバトーレ発案と言ってもいい。
それをシャルル姫に提言した形で採用されたのだが、もしかしたらシャルル姫が栄誉を横取りしないように噂を流しているのかもしれない。
「そうでもないよ。シャルル様の協力がないと正直厳しかったし、場所の確保も一貴族には難しかったしね」
金銭面や大聖堂が建つ場所に住んでいる人たちの立ち退き等、実際シャルル姫の協力はかなり大きい部分を占める。
するとマーシャが数枚の絵を取り出した。
「これ、アシム君が考えたって聞いたわ」
そこにはシャルル姫に渡した教会のイメージ絵が描かれていた。
一枚目の絵にはステンドグラスで彩られた窓に、中心には神像が乗った噴水が設置され中には花が浮かべられていた。
二枚目は教祖が演説でもしそうな教壇があり、その後ろには神を描いたステンドグラスの窓が設置され、信者たちが座るベンチが設置されていた。
「このデザインが凄い話題になってるのよ? 色とりどりの窓に、神像が教会の中心にあるなんて斬新だわ!」
普通の教会だと神像は教壇の後ろに設置されるのだが、そこにはステンドグラスに彩られた神が描かれている。
そしてそれは太陽光を通し、神秘的な光が聖櫃を照らすのだった。
「ああ、いい職人さんがいてね。その人に手伝ってもらったんだ」
この世界ではステンドグラスは未だ注目されておらず、街の小さな雑貨店で珍しいランプとして売られているぐらいだった。
「それでもこのアイディアは凄いわ! 神様が放つ光が信者たちを照らしてくれるのよ!」
マーシャの言葉にそんな発想もあるのかと驚いた。
ステンドグラスに光を通して神様を神秘的に見せる意図はあったのだが、その光が信者を照らしているとまでは考えていなかった。
「そ、そうだね」
マーシャは熱心な信者なのか、この大聖堂がいかに素晴らしいものかを熱弁してくれた。
発案者としては嬉しい限りだが、話が少々長くなるのはどうかと思う。
「そしてこれが聖水として!」
噴水に溜まった水が聖水だのという話をしていると、担任のドウグラスが教室に入ってきた。
「全員座れ!」
その日は大聖堂の話で学園中が盛り上がったようだ。





