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第145話 異形

「よし居ないな」


屋敷につくと正面玄関から侵入をする。

この屋敷にはカトリーナと数人のシスターしかおらず、人を減らす工作が見つかる可能性を極端に減らしていた。


もう寝ているのか明かりはつけられておらず、サリア様が進むのに苦労していた。


「ユーリ様とアシム様はこのようなことは慣れているのですか?」


事もなげに進む姿を見て不思議に思ったのであろう。


「貴族の嗜みですよ」

「貴族の嗜み? 貴族様はこのようなことが皆できるのですか?」

「ハッ! できるわけねえだろ! コイツがおかしいんだよ!」


ユーリが否定するが、この貴族社会で生き抜くには情報は命である。

そういった意味では、貴族は情報収集のために色々な人を雇う。その情報収集の方法が自身で行えるという強みを持っているだけだ。

 他の貴族のように、バレた時にトカゲのしっぽ切りをしたくないという想いからでもあるのだが、立場が上になるほどそうも言ってられなくなるかもしれない。


「まあ、色々な貴族がいるんですよ。気にしても仕方ないですよ?」

「は、はぁ。そうなのですね」


納得してくれたかわからないが、ユーリもこれ以上チャチャを入れてこなかったので良しとする。

教皇様の部屋の前に到着したのでそれぞれに指示を出す。


「それじゃあ事前に打ち合わせた通り、教皇様を別の部屋に移して部屋で僕が待機。二人はここに来るカトリーナを廊下で監視ね」


部屋の中に人数を割くと感づかれる可能性が高まるのと、カトリーナの戦闘力が未知数のためこの中で一番強い自分が最初に当たることにしたのだ。


ユーリとサリア様は戦闘が始まってから合流してもらい、そこでカトリーナを現行犯で拘束する予定だ。

お互いの役割を再度確認できたところで実行に移す。まずは教皇様を移動させる。

 扉を開いてベッドの近くへたどり着く。


「ワシを殺しにきたのか?」

「えっ!」


意識がないと思って教皇様から声が出てきて驚いてしまう。


「教皇様!」

「サリア様声大きい!」

「あ! すみません」


教皇様が意識を取り戻したのが嬉しかったのか、サリア様が大きい声を出してしまった。


「サリアなのか?」

「はい! 教皇様! サリアです!」


今度は声を押し殺したように返事をする。


「そうか……生きておったか」


教皇は事態を把握しているのか、サリア様が襲われたことを知っている様子だった。


「ご無事で何よりですが、今は急ぎますのでこちらの指示通りにお願いできますか?」


いつカトリーナがくるか分からなかったので、早めに準備を済ませておきたかった。


「すまぬな」


まだ身体がキツイのだろう、教皇様は力なく返事をした。

当初の作戦通り教皇様を車いすで別部屋へ移し、屋根裏で一人待機をする。

ベッドの上当たりの天井をくりぬいてしまったが、簡易的に開け閉めできるよう細工を施しておいたので穴が開きっぱなしといことはないはずだ。

小一時間経ったころ扉を開ける音が聞こえた。


カトリーナであろう影がベッドの横に移動する。

懐から何かを取り出し、それがわずかな光に反射するのが見える。

次の瞬間カトリーナがベッドの膨らみへ何かを振り下ろした。


当然そこには教皇様はおらず、人がいるように膨らんだ部分をめった刺しにしていた。

夢中になっているのか、人がいないことに気付かず腕を振り下ろし続けているので、捕まえるためにカトリーナの後ろへ降り立つ。


着地の音で気付かれるだろうと思ったが、それと同時に扉が開き、ユーリとサリア様が入ってきた。

扉を背後にしていたカトリーナはその音に気付き振り向く。


「あっ」

「え!」


目があった。

真後ろに降り立ったので、カトリーナがこちらを見下ろすような格好になっている。

ユーリとサリア様が明かりをつけた状態で入ってきたため、お互いの姿が露わになる。


「なんだそれ?」


光に照らされたカトリーナの目は真っ赤に染まっており、口からは牙が覗いていた。


「見たなぁ!」


姿を見られたカトリーナは激高し、背中にあるはずがない翼が広がった。

身の危険を感じたので一度下がり距離を取る。


「ユーリ! サリア様を連れて逃げろ!」

「アシム様!」


未知の生物と言って差し支えないだろう。

カトリーナの姿は人間の形は取っているが、明らかに異形のモノに見えた。


「ちっ! こっちだ!」


非戦闘員のサリア様がいては危険が多くなってしまう。

ここは一人で戦うのが最善だと判断した……例え勝てなくてもだ。


「死ね!」


カトリーナが地を蹴ってこちらに飛び込んでくる。


「ヤバッ!」


油断していたわけではないが、今まで経験してきた速さではなかったので反応が遅れてしまった。

どうにか防御をしながら横に跳び攻撃を受け流すが、追撃の速さも尋常ではなかった。

回避して着地した瞬間にはもう追いついてきていた。


「っ!」


息つく暇もなくカトリーナの蹴りが腹部を捉えた。

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