第141話 最大戦力
シスター・スーザンとの話が終わるとさっさと実家に帰る。
今日は休日なので学園へ帰らなくてもいい……訳ではないのだが、抜け出している間は優秀な部下のユーリ君が上手く立ち回っているはずだ。
学園も一月経てば外泊許可が出るらしいので、大義名分を得るにはあと数日待たなければならなかった。
家のドアを開けメイドを呼ぶ。
「サリア様は部屋にいる?」
「はい。お呼びいたしますか?」
「そうだね、リビングで話そうか」
実はスーザンに、カトリーナとの面会を取り付けて貰うようにお願いをしていたので、これからサリアと作戦会議を開くのだ。
「急に呼び出してすみません」
「いえ、十分休ませて頂いているので大丈夫ですよ」
サリア様が部屋に入り、座るまでの姿につい視線を奪われてしまう。
「どうかしましたか?」
「あ、いえっ! 実は先ほどカトリーナとの面会を取り付けてきました」
「っ‼」
サリア様がまさかという表情を見せる。
「どうやらあちらも僕に会いたがっているみたいなので、面会の伺いをしているところなんですよ」
「そこで抗議をするつもりですか?」
サリアには教皇様を助けると約束をしているので、おのずとそういった行動を取ると思われているのだろう。
「いえ、最初から争うつもりはありませんよ」
「ではどうするのですか?」
教皇様を捕まえている相手だから不安なのだろう、表情が硬い。
「とりあえずこちらの切れるカードを使うだけですよ」
「カード?」
「はい。そのためにはサリア様の協力が不可欠です」
「私の?」
何をするのだろうと首を傾ける姿が可愛い。
「回復魔法は使えますか? 具体的には、教皇様の毒を取り除けるかです」
「教皇様の毒を取り除く……可能ですが、カトリーナが会わせてくれるのですか?」
当然の疑問だろう。
カトリーナの計画は、教皇様に復活されれば元も子もないのだ。 会いたいからといって簡単に会わせるとは思えない。
「そこは僕に任せて下さい! 絶対に会わせてみせます! なんなら治したあかつきには教皇様を連れて帰りましょう!」
「そんなことが可能なのですか?」
「大丈夫です。僕には頼もしい仲間がついてますから」
この世界に転生したことを認識してから今日まで、様々な人達と大なり小なり繋がりを作ってきた。
今回はその中でも一番強力なカードを切るつもりだった。
「そうですか。アシム様がそうおっしゃられるなら信じます」
「ありがとうございます」
兎にも角にも、聖女様の力で毒が取り除けることが分かったので当初考えていた計画が実行できそうである。
「それじゃあ僕は準備がありますので失礼しますね」
「はい」
「サリア様は監視されている可能性があるので、この屋敷からはできるだけ出ないようにお願いします」
「監視?」
「屋敷の外に見慣れない人影を発見しています。どうやらこちらを監視しているようなのですが、この屋敷から出なければ安全ですから」
自分が狙われていると知って驚いたのか、サリアの表情はさらに硬いものになった。
だがこの屋敷には戦闘経験豊富な人も多いし、私兵団の見回りもあるので安全地帯といってよかった。
サリアにはこの家から絶対出ないように言い含めておき、自分はカトリーナとの会談を前に仕込みをすることにした。
◇◆◇◆◇
―――会談当日
「サリア様到着しましたのでこれを着けて下さい」
サリアには、聖女だとバレないようにフードを被って貰い、口元を隠す布も渡す。
「外に出たら僕の従者として振舞って下さいね」
「はい」
フードからは桃色の瞳だけが覗いており、外からでは誰か判別できない状態になった。
今回の会談はカトリーナの屋敷で行うことになり、こちらは複数人で訪れることになっている。
馬車から降りると、隣にもう一台豪華な馬車が止まっていた。
「ついてきて下さい」
サリアは言われた通りついてくる。
隣の馬車へ向かいドアの横に立つ執事に頷くと、ノックをして主人であろう人物を呼び出してくれた。
その人物が馬車から降りてくる際、自分自身がエスコートをすることになっていたので、手を差し伸べリードさせて貰う。
「それでは行きましょうか」
高貴な身分であろう女性を伴ってカトリーナの待つ門へ向かう。
馬車からの距離はほとんどなく、すぐにカトリーナとその他のシスターの前に到着する。
「初めまして、シャルル様、アシム様。枢機卿をさせていただいておりますカトリーナと申します」
困惑した顔のカトリーナに出迎えられた。
「お出迎えありがとうございます。バスタル王国第二王女シャルル・バスタルですわ」
「同じく准男爵のアシム・サルバトーレです。本日はこちらの要望に応えていただきありがとうございます」
こちらの最大戦力シャルル姫の登場だった。





