第14話 自由への道のり
「ほら、金貨50枚だ」
フェルツから金貨を受け取る。
「そんなに儲かったのか?」
「あんな大量のオークだ、顔はないが身体に傷一つねぇときた、高額にもなるさ」
「そうか、はい2割の金貨10枚」
アシムは、倒したオークを約束の場所まで飛ばしていたのだ。
この方法で運べば自分で売りに行けるが、絶対目立つので、できない。
フェルツが隠れ蓑になってくれることを期待していた。
「依頼所に怪しまれなかった?」
「大丈夫だ、運び屋って仕事は案外あるんだぜ?」
知らなかった、ハンターは魔物を狩るのが主で、運び屋は別で頼んでいると思っていたのだ。
しかし、この調子で稼げるなら借金は結構早めに返せそうだ。
「しかし、よくあんなにオークを見つけたな? 集落でも作ってたのか?」
「よくわかったな」
「オークの集落を当たり前のように、壊滅させる子供だったことにビックリだ」
アシムを凄いとは思っていたが、予想を遥かに上回る実力のようだ。
「俺はいい契約をしたかも知れないな」
「小さい子供からむしり取るなよ」
「よく言うぜ」
こんなやり取りをする5歳児に言われたくない。
「じゃあ、明日も頼む」
「ああ、毎日でもいいぜ!」
「ああ、それが毎日は無理なんだ」
「そうなのか?」
「5歳は忙しいんだよ」
「世界で一番の5歳児は? て聞かれたら間違いなくお前だな」
「はは、世の5歳事情は厳しいんだよ!」
「お前みたいな5歳がいてたまるかよ」
こんな5歳は先日誕生したばかりだ、世界中探してもいないだろう。
「いや、いるよ」
姉と妹だ、エアリスとアイリスも歳相応の振る舞いとは思えない。
「はは、お前の周りはどうなってんだ?」
「気にするな」
「おっと失礼」
何も聞かない約束に触れるらしい、基準がわからないが。
「じゃあな」
少し話し込んでしまったようだ、アシムは急いで家へ戻る。
「本当、当たりを引いたかもしれんな」
フェルツは呟く。
幼い頃から仲良くなっていれば、いい伝手になるかもしれない。
あのオークの集団を狩る程の実力者だ、どこかで成り上がるのは目に見えている。
フェルツは思わぬデカい買い物ができたと喜びながら、今日の酒を求め街へ繰り出した。
☆
あれから休日になると魔物を狩り、普段は鍛錬とお坊ちゃまのお相手をするという日常が続いた。
変化があったことと言えば、お坊ちゃまこと、ゴドーが姉のエアリスを呼びつける頻度が上がったことだ。
妹のアイリスは、ゴドーにそこまで固執されていないので助かった。
「アシム成分補充~」
現在自分の部屋で姉に抱きしめられている。
「ちょっと苦しい……」
日ごろゴドーの相手を頑張っている姉を労う気持ちで好きにさせているが、力が強くて流石に苦しい。
「あら、ごめんなさい」
力は緩めてくれたが、離してはくれないようだ。
「はぁ~! この後もゴドーとお茶をしないといけないのよ」
おっとりしてる姉がやさぐれている。
「本当、あと少しだから頑張って!」
「アシムありがとう! 来月には王都に行けるわ」
そう、もう少しで姉が王都の学園に入学するのだ。
「だけど、最近ゴドーが私に残れってうるさいのよ」
「え! 学園に行くなってこと?」
「そうなのよ、俺の嫁になるんだから勉強は必要ないだろ! て言ってくるのよ」
完全に自分の嫁になることは決定しているようだ。
「姉上が望んでるなら止めないけど……」
「そんなわけないじゃない! 私はアシム一筋よ!」
「僕とは結婚できないけど、嫌ならどうにかしないとね」
「どうにか? できるのかしら? お母さまが稼ぎに出てはいるけれど……」
エアリスはアシムが稼いでいることを知らない。
「僕がきっと返してみせるよ」
「あら、アシム! 期待してるわよ!」
可愛い弟の夢を聞いているような表情だ。
「じゃあもう時間ね」
言葉とは裏腹に、抱きしめる力が強くなる。
「く、苦しい……」
最後にギュッと力を入れてやっと離してくれた。
「それじゃあ行ってくるわね」
普段着ている服ではなく、ゴドーが指定したドレスに身を包んで部屋をでる姉を見送った。
「もうすぐだからね」
アシムは、デュラム家からの脱却がもう少しで叶うことを知っていた。
1000金貨を用意しても、デュラム家が素直に受け取るかわからない。
所詮は子供の用意したお金だ、大人の力でもみ消そうとするだろう。
実際に嵌められた経験のあるサルバトーレ家だ、本当に自由を得たいのであれば権力という力でも勝たなければならないだろう。
アシムはその戦いに勝つために、仕込みを始めることにした。
「まずは王都だな!」
絶対に負けないという闘志の籠ったニヤケ顔で部屋を出た。
「お、お兄様! どうされたのですか? 顔が怖いです」
妹に見られてしまった……





