第124話 魔法制御
「お兄様! お庭で遊びましょう!」
「いいよ、行こうか」
寮は基本外出禁止なのだが、たまに帰ってやらないとアイリスが寂しがるので、時々こうやって会いに来ている。
学園に近い、というのは王都に引っ越してきて良かった点の一つだ。そしてユーリという部下が帰るときに手引きをしてくれるので、体制は万全のはずだ。
妹の笑顔のためならば、怒られるのも吝かではないが、こんな生活があと2年ほど続く予定なので、いずれは絶対にバレない方法を編み出さなければならない。
庭に出ると、アイリスが早速魔法を発動させる。
「今日はマリアが水魔法がいいって言うから、お魚さんを作ってみたの!」
アイリスは学園に入る年齢ではないので、未だ家庭教師がついている。
マリアという子と仲良くなってからは一緒に習うようになったようだ。
もちろんそのお代はサルバトーレ家から出ている。平民の子を巻き込んでおいて金銭を要求するほど落ちぶれてはいない。
その代わりといっては何だがアイリスとよく遊んでもらっているので、非常に助かっている。
「ほらみて~」
アイリスは大小様々な魚を水で模っている。
その中でも特に目立つのがイルカだろうか。
本物のイルカを見せたことはないのだが読み聞かせた絵本の中に登場し、それ以来お気に入りの動物になったようだ。
アイリスは動物は好きだが魔物は嫌いみたいで、魔法で動物の模倣はよくするものの、魔物は一切作ったことがない。
「凄いね! あ、あれはピーマンかな?」
色々な魚の中に特徴的なものを見つけたので聞いてみる。
「うん! 可愛いでしょ!」
ピーマンとは野菜の方のピーマンではない。
絵本の中に出てくるキャラクターで、イラブチャーという種類の魚で全身が青いのが特徴だ。
その魚の名前がピーマンといい、海の中で大冒険を繰り広げる物語である。
もちろんキャラクターとして描かれているので特徴的なアレンジをされている。なのでこの魚の容姿は目立つのだ。
というか、我が妹ながら水魔法に色を着け始めるとは末恐ろしい子である。
「色んな魚を作れるなんてアイリスは天才だな!」
褒めながら頭を撫でてやる。
「えへへ」
アイリスは嬉しそうに笑う。
贔屓目なしに魔法の才能が飛びぬけている。
課題を挙げるとするならばやはり威力だろう。
魔法の制御は自分も自信がある。精霊に認められる程には……。
しかし、アイリスは魔法に色付けや動物等の形を与え、それをまるで生きているかの如く動かすのだ。
それがどれほど凄いことか……少なくともそんな魔法の扱い方をしている人をアイリス以外に見たことはない。





