第123話 かもしれない
1日の授業も終わり放課後を迎える。
帰るために教室をあっさり出られたのは拍子抜けだった。てっきりモリトンが何か言いがかりや、クラスの何人かに質問攻めにでも遭うのではないかと警戒していた自分が馬鹿みたいだった。
「ユーリ、宿題終わったら打ち合おう!」
「いいのか? アイリス様の魔法を見てあげる約束をしてただろ?」
どうやら精霊ショックは自分で気づかないほど精神ダメージを与えていたようだ。可愛い妹との約束を忘れてしまうとは、世界一の兄を目指す者として恥ずかしい限りである。
ちなみに可愛い妹をもつ『兄』という立場の人間が、世界一の兄を目指すのは宿命なのである。そこに例外はない。
それにしても精霊というものは本当に素晴らしいものである。あの膨大な魔力はもちろんだが、何よりも『精霊と契約』という言葉の響きが良い。
精霊に認められたという希少性な力に憧れてしまう。あと単純にカッコいいと思うのだ。妹との大事な約束を一瞬だけ、ほんの瞬きをする合間だけ忘れてしまっても仕方ないと思うのだ。
「忘れるわけないだろ! アイリスの魔法を見た後に宿題をやるんだよ!」
「なんか都合が良いように歪曲されたような気がするぞ」
決して歪曲したわけでない。そもそも宿題の前にアイリスが魔法をねだってくるだろうからこの順番は決まっていた運命なのだ。
それは全世界の『兄』共通の認識だろう。よって可愛い妹の約束を忘れているという事実は絶対にありえないのだ。
「ユーリ君嫌だなぁ! 年上好きの君には分からないかも知れないが、可愛い妹の約束は何よりも優先される最重要事項なんだぞ? その約束を果たすことを前提に世界は動いているのだよ! 常識だろ?」
「何が常識かわからないが、最近のお前は益々妹好きが加速してるな。それと俺は年上好きではない!」
ユーリには難しかったのだろう。この真理は妹道を突き進む者にしかわからない領域なのだ。
しかし妹とはこの世の真理であるため、何人たりともその運命からは逃れられないのだ。多かれ少なかれ妹は全人類に関わっているのだ。
「フッ……まだユーリには早かったか」
「なんか理不尽な理由で馬鹿にされた気がするな。まあいい、約束を忘れてアイリス様を泣かすなよ? ……ん? そんな固まってどうしたんだ?」
ユーリの言葉に固まっている俺の状態を見て訝しげに顔を覗き込んできた。
「ア、アイリスが泣くだと……」
「お、おい! 本当に泣くとは言ってないだろう? お前がちゃんと約束を覚えてればいいんだよ!」
ユーリの言葉にまたもやハッとする。
「ユーリ君! アイリスが泣くかもしれないという状況は早急に解決すべき事案だ! 急ぐぞ!」
「お、おう……」
かもしれないで動く時が早速来たようだ。





