第114話 勝利条件
「あはは! 凄い凄い! これでもまだ本気じゃないんだろう?」
「”今”の本気だよ!」
精霊の放つ複数の炎を相殺しながら懐に飛び込む。
「わかってるって! 僕と君が本気で戦ったらこんなもんじゃ済まないって!」
「実力が分かったなら終わってもいいんじゃないか?」
「楽しいのに辞めたら勿体ないじゃないか!」
どうやら精霊は戦闘狂のようだ。
「左様ですか!」
精霊の懐に潜り込んだ後は、水魔法を纏わせた剣で切りつける。
「ははは! 凄いよ! 武器を媒介に魔法を固定化させるなんて!」
簡単に避けられてしまったが、この攻撃が有効なことは分かっている。
「こっちの方が燃費がいいからね!」
逃げた精霊を追いかけるために風魔法を発動して、推進力に変える。
「いいねいいね! ここまで魔法を使いこなしている人間は久しぶりに見たよ!」
「よそ見してると危ないぞ!」
追いかけながら、精霊の進行方向に土魔法をかけて進路を塞ぐ。
「よっと!」
しかし、精霊はいとも簡単に土の壁を炎で破壊して逃げる。
「魔力は無尽蔵かよ!」
魔法の固定化で魔力を節約しているアシムとは違い、精霊は爆発力の高い魔法を連発している。
「精霊に魔力が尽きることを期待しちゃダメだよ!」
「反則だろ! その辺のことも詳しく聞かせてよ!」
「僕に勝てたらね!」
「どうやったら勝ちなんだよ! 倒すの?」
戦い始めてから疑問に思ったのだが、実態のはっきりしない精霊に勝つ条件がわからなかったのだ。
まさか消滅させるわけにもいかないので、直接聞いてみた。
「そうだね~。流石に本気を出すわけにもいかないでしょ? 僕はいいけど君が困っちゃうもんね! だから特別に僕に攻撃を当てたらでいいよ!?」
「どんな攻撃でもいいのか?」
「まさか小石を当てて勝ちなんて言わないよね? まあ当たらないんだけどさ! せめて小型の魔物を倒せるぐらいの攻撃にしてよね?」
「わかった……」
アシムは、相手が気づかないうちに石でも当てようかと考えていたが、機先を制されてしまった。
勝ち条件を決めている間も2人は戦い続け、周囲は熱気を帯びていた。
「じゃあ納得できるような魔法にするよ!」
動きを止め、精霊と正対する。
「ふふふ! いいよ! 撃ってきなよ!」
アシムが動きを止めたからと言って、精霊は攻撃を加えたりはしない。
ここまで十分動きは見せてもらったし、さらにここからはもっと凄いのを見せてくれるというのだ。
それを遮るのは無粋というものだろうし、精霊自身楽しみでもあった。
アシムの中から何か懐かしいものを感じるのだ、はっきりとは分からないが、間違いなく面白いものであるはずだ。
「いくよ!」
アシムは戦っている相手がちゃんと受け止めると信じているのか、合図とともに”得意の魔法”を撃ち放った。





