第105話 疑問
「今日は主に座学だが、来週には実戦練習も行う」
元鬼軍曹こと、担任のドウグラス先生の言葉に教室が色めき立つ。
「静かに! 実戦練習とはいえ、木剣を使うからケガには気を付けるように!」
練習とはいえ、木剣を本気で叩き付ければ骨折くらいはする。とはいえ、隣国との争いが絶えないうちは必要な教育となっている。
それからは座学となったが、実戦練習での注意すべき内容をしつこいぐらいに教えられた。
それと同じくらい実戦練習の必要性も説かれた。その中で、歴史も絡めた授業があったので、それはとても興味をそそられた。
隣国との戦争になったきっかけは、バスタル王国の兵士が殺されたことだったという。
国境を警備していた兵士が、隣国の密入国を試みた者を捕まえた時に抵抗されて殺されたのだとか。
その理由以外の説明がなかったことにアシムは違和感を覚えたが、この国の歴史に詳しくはないので、少しモヤモヤする結果となった。
「なあ、ユーリ。さっきの歴史の授業どうだった?」
アシムは自分の考えを言わず、ユーリの考えを先に聞き出す。
「どうだったか? そりゃ自分の国の兵士が殺されたら戦争になるだろうよ」
「それはそうなんだけど……」
「何か気になるのか?」
「まあな、おかしくないか? 警備兵は武装をしているのに、密入国で捕まりそうになったら殺すのか?」
「そりゃあ、他国に捕まったら何されるかわからないから、必死に逃げようとしたんだろ?」
「戦争になるのにか?」
他国の人間を殺せば、そのことがきっかけで戦争になることはあり得る。
もちろん殺してしまった側がそれなりの謝罪をすればいいのだが、自分の国の非を認めるのはなかなか容易ではない。
外交で不利になってしまうのだ。
「自分のことでいっぱいだったんだろ」
「まあ、その線で考えるのが普通か」
「何かあるのか?」
「ああ、密入国者が堂々と警備の人間にチェックを受けているだろ?」
担任の話では、検問をしているときに密入国がバレてしまったということだった。
「わざわざ捕まりにいくのに違和感をもってな、勿論そこまで考えが及んでない奴かもしれないけど」
アシムは、やはり納得ができないという顔をする。
「そうだが、俺たちが考えたって仕方ないだろ?」
「そう、だな……」
疑問に思うが、今さら調べたところで答えも出ないだろうし、分かったところで自分にはどうしようもないこともわかっていた。
「まあ、気にしすぎかな」
この時アシムは流してしまったが、真実を知ることになる事件が起こることを今はまだ分からなかった。
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